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葡萄館の殺意   作者: 乾レナ(冷愛)
彼、或いは彼女の誕生
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Ⅳ.八百万の謎、山梨に眠る


 二律背反な日々を送っていた、ある日。ハイツ『コンコード』の玄関ポストに一通の封書が挟まっていた。膨らみのあるダイレクトメールが押し込まれている。差出人はミッドナイトビューティー製薬の代表・月見里(やまなし)白峰(はくほう)氏。オレが女装に勤しむようになってから、お世話になっている通販の化粧品会社だ。

 開封してみると、紅茶のティーバッグが入っていた。スリランカ産だ。マスカットアレキサンドリア、翠峯、クリムゾン・シードレス、神紅、ハニービーナス、甲斐路、スカーレット。各種ひとつずつ、七つの葡萄のフレーバーに分かれている。来月に誕生日を迎えるオレへ、一足早いバースデープレゼントだそうだ。スリランカ、いりませんか。

 葡萄は嫌いではない。事情があって、オレは幼い頃から養父母に、毎日少量ずつの葡萄を定期的に与えられていた。長野県は山梨県に次ぐ葡萄の名産地である。

 早速T-falで湯を沸かし、馥郁たるインスタントの葡萄の香を愉しむ。

 はらり、とチラシが舞い落ちた。ティーバッグと一緒に同封されていたものだ。

【秋の葡萄狩り招待状】とある。原則、普段は一般人の立ち入り禁止領域らしいが、当日限定で特別に葡萄畑が貸し切りになるとのこと。現地集合、直行直帰の日帰りツアーで、参加費は三千円。葡萄は無制限に収穫でき、その場で食べ放題だそうだ。なお、格安プランのためツアーコンダクターは同席しない旨、あくまで個人のセルフサービスで成立するらしい。

 何とも無責任な企画だが、参加費と交通費の総計金額を上回る葡萄が獲得できれば、案外お得かもしれない。スーパーで売られている葡萄は一房四百円くらいだ。十房で四千円、五十房採れたら二万円。埼玉から山梨まで然程の距離はない。往復の電車賃と参加費あわせて一万円かかるとして、差し引いても一万円ぶんの利益を元取れる。脳内で算盤を弾き、捕らぬ狸の皮算用をしていく。狸じゃなくて葡萄だけどな。

 もぎたての果実は熟されて美味いし、ポリフェノールをたっぷり摂れば健康と美容にも効果的だ。お肌や髪の毛がツヤツヤになれるかもね。

 食べきれなかったぶんはお持ち帰り可能とのこと。ジュースやジャムにしても良い。朝に摂るフルーツは金だ。毎日の朝食が楽しくなるし、食費が浮いて家計が助かる。

 ……すっかり思考まで女っぽくなってしまっている。さながら所帯染みた主婦みたいね。

 ティーカップを傾けながら集合場所と日時を目で追っていたオレは、紅茶を噴きだしそうになった。

【場所:山梨県 巨峰郡 天山 旧・葡萄村 ピオーネの森※✞】

 これは……! 《八百万の謎、山梨に眠る》突如、御触書に記され、赤紫に滲んだ文字が蘇る。

【日時:2017年10月15日(日) 朝9時】

 明後日じゃないか……!




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