はじまり
晴れの日の夕方は、好き。
ボーっと日が暮れるのを病室の窓から眺め
た。
もうずっとここに暮らしたい…
そんな訳にはいかないのは、わかってる。
でも、どこにも行きたくない…
そう思ってたら、看護婦さんに足にヒビが
入ってるからしばらく入院ねって言われた。
お家に帰らなくて済む。
次の日の夕方。
コンコン。
「はーい」
返事をすると、
昨日の高校生…
「あの、すみませんでした!」
部屋に入るなり、謝られた。
いやいや、謝るのこっちですから。
で、私こそすみませんって謝った。
そして、全面的にこちらが悪いのでもう気
にしなくて大丈夫って事と、もうお見舞い
も大丈夫ですって伝えた。
それでも、お見舞いに毎日来たいと強引に
押されて毎日来ていただいていた。
たまに、友達が来て鉢合わせする。
彼氏いたんだっけ⁈なんて勘違いされたり
もした。
あの人は、気まずくないのだろうか。
私みたいなのを彼女なんて思われて…
あの高校生は、森野 武志もりのたけし君。
本当に毎日来てくれて、しかも私のくだら
ないはなしも楽しそうに聞いてくれる。
とってもいい人。
そんないい人を巻き込んでしまって本当に
申し訳ない限りだ。
いつも話を聞いてくれるからつい両親の話
をしてしまった。
すると武志君が自分の話をしてくれた。
武志君の家は、お母さんしかいないんだっ
て。
産まれた時から母子家庭だったと。
だから、幼い頃母親が仕事の時は託児所で
寝泊まりしてたんだそうな。
だから、寂しくないように枕元にぬいぐる
みがいつもあったって。
「えっ、じゃあもしかしてこのリスのぬいぐ
るみ置いてくれたのって…」
「うん。目覚ましたら寂しくないように…っ
て。でも、もう高校生だもんね。持って帰
るよ」
「ううん。ありがとう。嬉しかった」
そう言うと少しうれしそうな武志君。
もし、退院して家に帰りたくないなら転校
しちゃえばって提案してくれた。
武志君の高校は、寮生活なんだって。
そういう選択肢もあるよって。
そっか。
思いもしなかったな。
転校したら友達と離れちゃうけど、でも連
絡取り合ったりすれば寂しくないのかも。
ネットで早速検索。
あ、女の子も結構いるんだ。
なんか楽しそうな学校かも。
次の日、また武志君がお見舞いに来てくれ
たから学校について詳しく聞いてみた。
そしたら、武志君が私より一つ年上だって
事が判明した。
でも、武志君って今まで通り呼んでくれて
いいよって言ってくれた。
年上だから、しっかりしてたのか。
そして、私は決めた。
パパとママには、どちらにもついていかな
い。
きちんとそれを伝えた。
で、武志君が進めてくれた高校に転入する
とこになったんだけど…
武志君学年一頭がいいみたい。
しかも、生徒会に入っているしファンクラ
ブみたいなものもある⁈
確かに、カッコいいなと思っていたけどさ、
すごいな…
しっかりしてて頼りになるし。
でも、これから私も自力しなきゃ‼︎
寮生活は、意外と快適かもしれない。
まず食堂があるってのは、助かる。
食材の買い出しに行かなくていいし、作る
時間も取られなくていいし。
ただ洗い物は、当番制。
でも、そこで友達とコミュニケーションが
とれて楽しい。
今までこんな事ママがやってくれていたん
だな。
ありがとうママ…
ママには、感謝って思ったけどパパはパパ
で、仕事したりして私達の生活を支えてく
れているんだよな…
パパもありがとう。
でも、私は一人でこれから頑張ってやって
いかなきゃだ。
今日は、初の洗い物当番。
家では、たまにお手伝いしてたけど結構沢
山あるなぁ。
はじめてだったからちょっと張り切って早
く洗い場にきちゃった。
先にはじめてようかな…
えーとエプロン。
後ろでリボンしばりって意外と難しい。
いつもママは、当たり前のように結んでた
な…
「オレ、結ぼうか?」
? ? ?
振り向くと知らない男の人…
「あ、大丈夫です。できました!」
「そ、ならはじめよっか。」
この当番は、いろんな学年の人が入り混じっている。
きっとこの人一年生じゃないな。
「あの、何年生ですか?」
「あ、オレ二年。名前はかずと。君は、一年生?」
「はい。私は、田口さよです。」
「さよちゃんか。」
パタパタパタ
「お待たせー、ごめんごめん。遅くなった」
慌ただしくエプロンを付けて女の人が茶碗
を洗い出した。
「あ、今日もう一人遅れてくるね。で一人
は、休むってー」
「はいよー」
男の人が返事をした。
「あ、ゆみこっちよろしく。」
ん?下の名前で呼んでる。
どういう関係なんだろ。
パタパタパタパタ
誰かきた。
続く。