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連悪幻夢

怒りのパワー作戦

作者: DirtyTom



 最強戦隊ゴメンバーは窮地に立たされていた。

 採掘場でたまたまふらついていたドット・レッドの腹違いの兄弟八人を、迷惑怪人ヨッテカランダーが人質にとったからである。

「はっはっは。こいつらの命がおしいなら、今すぐ降伏しろ、ゴメンバー」

「ちくしょー、なんて卑怯な」

「どうする、レッド」

「そうよ、このままじゃ、私達全員おだぶつよ」

『決断しろ、レッド』

 彼らの司令塔である心内長官が、本部からモニター越しに非情の命令をくだす。

『ピンクのいうとおり、このままでは全滅だ。人命は地球より重い。だが、反宇宙勢力ヤカラーを生かしておいては、宇宙全体の風紀がとんでもなく乱れることになる』

「長官……」

『私だってつらいのだ。だが地球の平和と正義のために、私はあえて悪名をかぶろう』

 心内長官の流した一筋の涙が、五人の心を奮い立たせた。

 怒りによるフルパワーの覚醒だった。

「わかった。他の腹違いの兄弟達が無事なら今回は涙をのもう」

「何人兄弟いるんだ!」

「いくぞ、必殺、レッド・カーペット!」

「おう!!!!」

「え、きちゃうの!」


 ダムの排水場でたまたまうろついていた高校卒業後音信の途絶えていたベリー・ブルーのチャラ男時代の友人三人が、外道戦士タクキムともめているところだった。

「ちょ、ゴメンバーよっ。別に殺そうってつもりは全然ないが、このウザい奴らを無事返してほしいなら、俺と正々堂々と勝負しろよう」

「どうする、ブルー」

「このままじゃ、みんなおだぶつよ」

「うろたえるな、ザコども。俺の命よりもっと大切な親友達の命を助けたいのはヤマヤマだが、正直今はそんなに話すこともないし、大きな声じゃいえないが、解散してもいいんじゃないかってひそかに俺は思っている」

「よくいった、ブルー」

「よし、必殺、ブルー・マタニティー!」

「おう!!!!」

「ちょ、ま~てよっ!!!!」


 下水道構内でたまたま一休みしていたハット・イエローの中学校時代の柔道部の恩師が、卑怯四天王ダーマス、ゴマスリー、チックル、ハーメルンにほろ酔い加減でくだをまいていた。

「イエロー、なんかあの赤ら顔のオッサン、おまえのこと睨んでるぞ」

「部活の時とか何かと目の敵にされていたんで、おいどん、あの赤ら顔のオッサン大嫌いだったでごわす」

「じゃあ、しかたないな」

「おだぶつね」

「てか、あの赤ら顔のオッサン、四天王より強そうだぞ」

「よし、必殺、イエロー・ン!」

「おう!!!!」

「それでいいのか! 最低だな! ひきょーもの! てか、頼むからこの赤ら顔のオッサンひきとってくれ!」


 無人島でたまたま仕事をさぼっていたレディ・ピンクの命の恩人が、最悪将軍パワハラスに無理やりマルチ商法の勧誘をして、逆切れされていた。

「ピンク、なんかあいつ、やな感じだな」

「ええ。設定上、命の恩人ってことになってるみたいだけど、駅で落としたゴメンバーのメンバーカードが入ったカードケースをたまたま拾ってくれただけなの。メンバーカードをなくすと規定上はおだぶつらしいけれど、実際はA4の顛末書一枚とコピー三枚ですむみたい。それを理由に高い鍋とか売りつけようとしてくるからラインもブロックしていたのに、またこんなところで出くわすなんて、なんてついてないのかしら」

「じゃあ、問題はないな」

「ええ。この後すぐ警察に相談しにいくわ」

「よし、必殺、ピンク・のテレフォンカード!」

「おう!!!!」

「おまえら、人質の身にもなってみろ!」


 エベレスト山頂でたまたま登山をしていたグリーン・グリーンの元カノが、非情参謀マウントー博士にナンパされ、あてつけにマウントーをけしかけてくる。

「グリーン、なんかいちゃいちゃ見せつけてくるぞ」

「そんならいいわよ、この人といいことしちゃうわよ、とか言ってるぞ」

「私だったら、あんなジジイはイヤ」

「あ~、本命の方じゃないスから縁きりでちょうどいいっスよ」

「ひどい男だな」

「本命は私よね」

「あ~、ピンクちゃんは四番目~」

「あんた、ただちにおだぶつしなさいよ」

「はあ、なんで~!」

「おい、ピンク、俺が一番好きだってあの夜言ったじゃないか!」

「ザコが、あの夜俺だって言ってたろ!」

「あの夜おいどん……」

「てか、あの女、なんでこんなとこにいるんだ~」

「よし、必殺、グリーン・グリーン・グリーン・グリーン!」

「もうどーでもいいな!!!!」

「おまえら、それでも人間か!」


 心内長官には誰にも言えない秘密があった。

 長官はゴメンバーの創設者なのだが、思った以上に敵が強く、旗揚げ当初ゴメンバーは連戦連敗だった。

 今度負けたらヒーロー交代の角番の一戦で、思いもよらぬ形で勝利が舞い込む。

 お母さんのくるくるパーマをバカにされたレッドが、怒りのパワーでなんとかやっとこ敵を撃退したのである。

 自身もてこ入れリストラ寸前の長官の心に、悪魔のささやきが聞こえた瞬間だった。


 怒りこそが、彼らのパワーを引き出すスイッチであると。


 それから長官はゴメンバーに悟られぬよう、工作班を使って、毎回敵の目につく場所に彼らの家族や友人達を連れ出した。

 人道派の反対を押し切って、『怒りのパワー作戦』が決行されてしまったのである。

 親しい人間を人質にとられ、そして失った時のゴメンバーのパワーはすさまじいものだった。

 二月にメンバーを立ち上げて、あれよあれよという間に、たった一年で最終決戦までこぎつけてしまったのだから。

 結果、作戦回数五十回にもわたって多大な犠牲者を出したものの、大局的に見れば被害は最小限ですんだともいえる。


 しかし、ここにきて新たな問題点が浮きぼりとなった。

 五人にはすでに、怒りで我を失うほど大切な人間が残っていなかったのである。

 残す敵は、悪辣皇帝ノサバールだけだった。

 あとたった一回でいいというのに。

 それで宇宙に平和が戻るはずなのに。


 同時に、長官の精神も限界を迎えようとしていた。

 心内長官には心がないと、常々言われ続けてきた。

 だが今回の作戦を立案し、実行に移すにあたって、さすがに良心の呵責があった。

 わずかに残った長官の人間の心が、痛みを訴え出したのである。


 最終回も近いし、最後くらいはガチで戦わせては、という意見も出た。

 だがもともと弱っちい彼らが、怒りのパワー抜きで最強の敵に勝てるはずがない。

 それは当のゴメンバー自身も、痛感していたことだった。

 このままでは新たなヒーロー達への持ち越しになってしまう。

 それどころか、史上初めて対抗勢力を倒しきれなかったひ弱なヒーローの育ての親という烙印まで押されかねない。


(さて、どうしたものか……)


 長官が頭を抱えたその時、ノックの音がした。

「なにか用か」

「工作班の者です。あなたを拘束するためにうかがいました」

 総勢十名もの黒スーツにサングラスといういでたちの工作班の面々は、長官に問われると表情もなくそう答えた。

 やれやれという様子で長官が鼻息を巻き上げる。

「反対派からの嫌がらせか。貴様達も知っているとおり、例の案件はちゃんと議会を通っている。私を罰することはできんぞ」

「そうではありません」

 リーダー格の男は、不思議そうに顔をゆがめた長官の前で続けていった。

「あなたが最後の『怒りのパワー作戦』の人質役に決定しました。これから月面にあるヤカラーの秘密アジト前まで連行します」

「バカをいうな! 作戦本部長である私の承認がなければ『怒りのパワー作戦』は実行されない。いったい誰の命令だ」

「ゴメンバーからの要請です」

「!」

 面くらい、両目を見開いたまま硬直してしまった長官に、男は淡々とその理由を告げるのだった。

「彼らにはもう家族も親しい友人もいません。ですが親玉のノサバールを倒すためには、それまで以上の怒りのパワーが必要なのです。それに見合う人質役は、彼らが他の誰よりも世話になったと口をそろえていう心内長官こそが適任だと五人一致の決定で……」




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