座布団
引っ越しをして、パソコンデスクが座卓になった。
フローリングに、座卓タイプのパソコンコーナー。
ふむ、座布団がいるな。
ホームセンターで、ふかふかした座布団を一枚買ってきた。
なかなかの手触り、これは座り心地がよさそうだ。
大喜びで、座布団の上に座る。
ふかふかしている。
よし、この快適さならば。
いっぱい物語が書けるに違いない!
座布団に座って、パソコンに向かう。
キーボードで物語を…。
ええと…。
なんだ?
…おかしいな、集中力が?
座布団ね。
座ってるとね。
落ち着かないのさ。
尻が浮くとでもいうのかね。
これはあれだ、子供の時の記憶だね。
座布団はさ、父親しか座っちゃいけなかったのさ。
なんていうんだろうね、今の世代の人たちにはわかりにくいかもね。
働いてくる父親ってのが大変に崇められた時代があったんですよ。
働いてくる父親の晩御飯のおかずが一品多いとか。
働いてくる父親が一番風呂に入るとか。
働いてくる父親をお見送りお出迎えしないといけないとか。
働いてくる父親は一番偉かったんですよ。
でっかい座卓の食卓テーブルで、父親が上座に座っていてね。
その横に腰が悪いと言い張る年がら年中旅行に出かけている祖母が座椅子に座っていてね。
畳の上で、座布団使えたのは父親だけ。
私の中で、座布団に座っていいのは父親だけという思い込みがあるようだ。
座布団に座らない生活が、しみついてしまっているのかもしれないな。
たった18年そういう生活をしただけなのに、座布団に座ると違和感がハンパないという。
ふわふわしていて心地いいと思ったのはほんのわずかなひと時で。
座っていると不快感が増してくる。
フローリングに直に腰を下ろし胡坐をかいてパソコンの前に向かう。
めっちゃ集中できる自分がいる。
なんだめっちゃキーボード叩くスピードが上がったな。
ふうむ。
じゃあ勢い任せに昔の話書いてみるかい。
私は買ったばかりの座布団を猫に差し出し、文字を打ち込み。
打ち込み終わって後ろを見たら、猫が三匹所狭しと座布団の上で団子になっていた。
「父親が三匹か。」
乗ってるのは雌猫ばかりだけれどね。