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聖夜祭③

顔の熱がようやく覚めた頃、王族の入場時間となった。


「それでは、シア。お手をこちらに。」


「ありがとうございます。」


アル様に促されてアル様の腕に手を添える。


陛下、王妃様、ルドルフ殿下の後に続き、アル様と扉の前で待機する。

扉の向こうでは王族入場のファンファーレが鳴り響いている。


「フランドル王国、アーサー陛下、エリザベス王妃殿下、第一王子ルドルフ殿下、第二王子アルベルト殿下、そして婚約者のレティシア・ノクタール公爵令嬢のおな~り~!」


ファンファーレが鳴り止むと同時に入場を告げる言葉が響き、扉が開く。

陛下と王妃様、そしてルドルフ殿下に続いて入場する。場違いな気がしてならないが、そこは公爵令嬢らしく堂々と入場する。

周りを見渡すと、目をキラキラとさせてこちらを見つめる見守り隊の令嬢や、鬼のような形相でこちらを睨み付けるリリアーナ様やナタリー様の姿が目に入った。


色々な視線に顔が引きつりそつになるのを堪えて王族席の位置へと着いたところで、優雅なワルツの曲が流れ出す。陛下が王妃様をエスコートして、優雅にダンスフロアの中心へと向かう。王族主催の舞踏会なので、陛下と王妃様のダンスから会が始まるのだ。


ルドルフ殿下と同じ色を持つけれど男らしく凛々しい顔立ちの陛下と、アル様と同じ黒髪に紫色の瞳が印象的なミステリアスな美しさの王妃様がお揃いの紫色を基調とした衣装でフロアの中心をくるくると舞う。聖夜と言う言葉が相応しい厳かで華やかなダンスだった。


曲が終わり、陛下が舞踏会開始の挨拶をする。


「今日は聖夜祭の舞踏会。存分に楽しんでくれたまえ。」


陛下の言葉が終わると同時に、次の曲が流れ始めた。


「シア、踊ろうか。」


「ええ、喜んで。」


アル様にエスコートされて、王族席からダンスフロアへと降りていく。

フロアは夫婦や婚約者同士のペアで人が溢れていた。


第二王子の登場に、ダンスフロアの中心が空く。アル様にエスコートされてダンスフロアの中心へと進み、優雅にステップを踏む。


「やはり今日のシアはいつも以上に美しいよ。この後兄上にもダンスのパートナーを譲りたくないくらいに独り占めしたい。」


ダンスを踊りながらアル様が耳元で囁いてくる。


「もう、アル様ったら褒めすぎですわ。それにアル様だっていつも以上に素敵です。先ほどからたくさん熱い視線をお集めになっているではありませんか。」


「少しは妬いてくれる?」


「・・・少しなんてものではありませんわ。」


「ふふ、シアに妬かれるのなら大歓迎だよ。」


「アル様ったらもう・・・。」


私もアル様の耳元で囁く。お互いにしか聞こえない会話なので、公の場でも素直に気持ちは伝えておく。前世の記憶があっても私の嫉妬深さは変わらないのだ。


その後は他愛もない会話をしながら踊っているとあっという間に曲の終わりが近づく。

ルドルフ殿下が王族席から降りてくるのと同時に、たくさんの女性の視線が集中するのが見えた。

この国ではデビュタント以外、女性からダンスに誘うのはマナー違反である。ダンスは男性から誘うこととされており、女性は踊りたい男性に視線を送ることしかできない。王族からダンスに誘われるのは大変栄誉なことに加えて見目の麗しさもあって、ルドルフ殿下への熱い視線の集まり方は尋常ではない。


曲の終わりを迎えて、近くまで来ていたルドルフ殿下から手を差し出される。


「レティシア嬢、次の曲は私と。」


「ありがとうございます。喜んで。」


「兄上、シアをお願いしますね。」


「ああ。それでは踊ろうか。」


ルドルフ殿下の手を取り、優雅に踊り始める。ルドルフ殿下と踊りたかった令嬢達からの刺すような視線を感じるが、気にしないふりをする。


「レティシア嬢がいてくれてこういう時助かるな。」


「ソフィア様がいらっしゃらないですものね。」


「ああ。未来の義妹であるレティシア嬢と最初に踊るのが一番角が立たないしね。それにこの視線を平然と受け止められる令嬢もレティシア嬢くらいだろうし?」


ルドルフ殿下がからかうように笑ってくる。


「そんなことありませんわ。私の精神力は人並みですわ。」


「いや。優越感を滲ませるでもなく、気にしないふりをしながらこんなに堂々とできるのはレティシア嬢くらいだよ。」


「気にしないように努めているのをお気づきでしたら人が悪いですわ。」


「ごめんごめん。アルといい、レティシア嬢といい、少し意地悪したくなってしまってね。」


「ルドルフ殿下って、結構いい性格をしておりますよね。」


「まぁ皆に素を見せている訳ではないから問題はないさ。それよりレティシア嬢。私が前に予言したことの実感は?」


ルドルフ殿下の予言とは、昔私が庭園で言われたことだろう。

私が庭園で泣いている所に通りかかったルドルフ殿下に、こっそり泣いていることをアル様も気づいていると言われた後、「大丈夫。レティシア嬢の想いは届いているよ。アルはきっとレティシア嬢に惹かれている。これからレティシア嬢のことを大切にしてくれるはずだ。」と言われたのだ。


「さすがにここまでして頂いたら実感しますわ。」


シナリオの強制力はないと信じることがまだできないが、今アル様が私を大事に思ってくれる気持ちは信じられるようになってきた。


「そうか。アルが報われそうで良かったよ。私としてはもう少しレティシア嬢に振り回されていた方が面白いのだが。」


「ふふ、本当にいい性格だこと。あまりアル様をからかわないで下さいませ。」


「はは、それは約束できないな。」


「ルドルフ殿下ったら・・・。」


ルドルフ殿下があまりにいい笑顔で笑い飛ばすものだから、思わず笑みが溢れる。


後日リーンに聞いて知るのだが、ルドルフ殿下と私の雰囲気は楽しげであったらしく。


「レティシア様とルドルフ殿下のお姿も眼福ですわ!」

「美しい義兄妹愛ってところでしょうか。」

「いえいえ、兄弟でレティシア様を奪い合うなんて妄想も悪くないですわ。滾りますわ!」


などなど、見守り隊の令嬢達が興奮していたそうだ。

長くなったので途中で区切りました。

また明日も更新します。

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