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今日も悪役令嬢を貫きます

お茶会の授業の後は帰宅の時間となるが、私は今日も生徒会室へと向かう。


「シア、準備ができたなら行こうか。」


「ええ。あら、ヴァレンティノ様は?」


「リリアーナ嬢に声を掛けに行ったよ。先に行こうか。」


「わかりましたわ。」


座席から立ち上がるとアル様の手が差し出された。


「アル様、生徒会までの距離でエスコートは・・・。」


「私はどこへでもシアをエスコートしたいんだが。だめかな?」


「ではお言葉に甘えて。」


アル様の寂しそうな笑顔に負けて、アル様の手を握り返す。

教室に残っていた人達から生暖かい目を向けられている気がするが、気づかないふりをする。


そうしてアル様と並んで廊下を歩いている途中、何度も不躾な視線を受けた。

居心地の悪さに眉をひそめたくなるが公爵令嬢として培ったポーカーフェイスは揺るがない。


「そういえば、リリアーナ様に声を掛けに行くのなら私が行きますのに。」


ヴァレンティノ様がリリアーナ様を迎えに行ったことを思い出す。

婚約者でもない男女が学園とは言え、二人きりだと外聞が悪い。


「ああ、ダンにも一緒に来てもらうように言ってるから大丈夫だよ。シアに迎えに行かせて変に噂が立つのは嫌だから気にしないで。」


「そうですか。わかりましたわ。」


アル様の気遣いが嬉しくて顔がニヤけそうになるが、ポーカーフェイスを必死で保つ。


生徒会室の前に着いて、そのままアル様が扉を開けて入るとすでにヴァレンティノ様以外のメンバーが揃っていた。


「相変わらず仲が良いね。」


ルドルフ様が苦笑いしながら声を掛けてきた。


「もちろんですよ。だから本当はリリアーナ嬢と二人で町に出るのは止めたいんですけど。」


「その件はもう少し我慢して。アルが一番適任だからさ。」


「わかりましたよ。じゃあシア、座ろうか。」


今日も私はアル様の隣の席へ腰を掛ける。

アル様がこちらに椅子を寄せて座って来たので、正直距離が近い。


「アル、他の者に迷惑だからレティシア嬢ともう少し離れようか。」


「これくらい大目に見て下さい。生徒会の活動でシアとの時間を犠牲にしているのですから。」


「・・・バザーの件が落ち着くまでだよ。」


「もちろんです。」


普段ルドルフ様にあまり口答えしないアル様が我を通すことに内心驚きつつも、アル様の甘い態度に思わず頬が緩む。


「ルド~、何この甘い空気。」


「マイロ、落ち着いて。今日は我慢してくれ。」


「はいはい。」


マイロ様に嫌な顔をされても私とアル様の距離は変わらない。

書類の整理を少ししたところでヴァレンティノ様がリリアーナ様とダニエル様と一緒に生徒会室に入って来た。


「ヴァン、遅かったな。何かあった?」


アル様が書類から顔を上げて尋ねた。


「ああ、リリアーナ嬢の万年筆がなくなっていたようで、少し探していたんだ。」


「私のせいで遅くなって申し訳ございません。」


リリアーナ様の目が心なしか赤い。

また泣いたのだろうか。


「そうだったのか。見つかったか?」


「いや・・・。」


「ヴァン様もダンも教室の隅々まで探してくれたんですけど見つかりませんでした。」


「アル、物がなくなるのは今回が初めてではないんだ。教科書が破られていたこともある。リリーはどうやら誰かに嫌がらせをされているらしい。」


ダニエル様はまだ私を疑っているのかチラリとこちらを見たので思わず睨みつけてしまう。ダニエル様の後ろにいたリリアーナ様の肩がビクリと揺れる。

リリアーナ様を睨んだわけではないのに、私が悪者みたいではないか。


「そうか。兄上、今年からバザーの報告を早めませんか。バザーが終わってから冬季休暇前の活動報告だと時間が大分空くので、一度生徒会の活動報告会を開いても良いのでは。」


「ふむ。それはリリアーナ嬢のためか?」


「いえ、シアのためです。」


「「「は・・・?」」」


リリアーナ様の物が失くなったりするのは、アル様と親しくするリリアーナ様を良く思わない令嬢に嫌がらせをされているせいだろう。

生徒会の活動の一環として町を訪れているという事実がわかればリリアーナ様への風当たりはだいぶ弱まるはずだ。

だからてっきりアル様はリリアーナ様のために報告を早めようとしているのかと思ったのだが、予想外の答えに間抜けな声が出る。

それはその場にいる人達も同じだったらしく、皆の声が重なった。


「リリアーナ嬢が嫌がらせをされているとなれば、噂もありますし真っ先に疑われるのは私の婚約者であるシアでしょう。シアは山のように高い矜持を持っているから嫌がらせをするのは有り得ない。シアなら正面きって咎めに行きます。でも一部のシアをよくわかっていない者達が面白おかしく噂をすればシアの悪い噂となるでしょう。私はシアが誤解されて傷つくのが嫌なのです。」


「えっと、アル様ありがとうございます?でもアル様、悪い噂も対処できてこそ一人前の淑女なので気になさらないで。私、そんなことでは傷つきませんわ。」


アル様が勢いよく話すものだから、皆一瞬固まる。

辛うじて、一番最初に口を開くことができた私の口からはスラスラと可愛げのない言葉が飛び出した。


そんな私の態度に一瞬また静寂が訪れる。


「ふふ、はははっ!」


静寂を打ち破るようにルドルフ様の笑い声が木霊した。


「いや、実にレティシア嬢らしい答えだね。」


「ふふっ、そうですね。シアならそう言うと思いましたが。」


ルドルフ様とアル様が笑い合い、場の空気が和む。

私らしいと笑われるのは腑に落ちないのだが。


「まぁ、でも前からバザーの報告時期は今更感があるなと思っていたからアルの言う通りにしてみようか。どうせ大方の報告はできているしね。」


「ありがとうございます。そうと決まれば、あとは私とシアとヴァンで報告を仕上げます。」


「そうか。じゃあアルに任せよう。リリアーナ嬢、色々と迷惑掛けてすまないね。」


「いえ!ルドルフ様のお役に立てているのならば私は大丈夫です!同じクラスのダンが気にかけてくれていますし。」


リリアーナ様がルドルフ様に咲き誇る花のような可愛らしい笑顔を向ける。ダニエル様へのフォローも忘れないところがあざといと感じるのは私だけだろうか。


「なら大丈夫かな。」


「はい。ご心配頂きありがとうございます。」


「では報告は半月後で調整をしよう。アル、準備は任せるよ。」


「はい、兄上。ありがとうございます。」


「アルベルト様、私も手伝えることがあればお手伝いします!」


リリアーナ様の空気を読まない発言に目眩がする。アル様と一緒にいることが増えたから嫌がらせをされていて事態を解決しようとしているのに、なぜ余計に首を突っ込もうとするのか。


「リリアーナ嬢、準備は生徒会のメンバーで足りるから大丈夫だよ。生徒会のメンバーではないリリアーナ嬢が手伝えばまたいらぬ誤解を招くしね。」


「・・・そうですか。わかりました。でもいつでもお手伝いはするので必要な時は声を掛けて下さいね!」


「ああ、ありがとう。」


アル様がやんわりと断ってリリアーナ様も大人しく引き下がってくれたことに安堵する。

が、近い。リリアーナ様が話ながらアル様に近づいてきたのでアル様との距離が近い。


「リリアーナ様、一歩下がって下さる?」


「え?」


「一歩下がってと申しましたの。聞こえませんでした?」


「聞こえましたけど・・・。」


「意味がわからないと?貴女のそういう所が嫌がらせを受ける原因だとお気づきでないのかしら。アル様は私の婚約者です。婚約者以外がその距離で異性と接するのは失礼ですわ。」


「え、でもこの距離でも・・・。」


「何も言われたことがないと?そんなことありませんわ。私も注意したことがありますし、婚約者のいる令嬢から注意されたこともあるでしょう?」


「でも本人から離れてくれとか言われたことはないですし・・・。」


「公衆の面前で男性からは注意しづらいでしょう。貴女が令嬢達からの言葉を受け止めなかった結果がこれですわ。自業自得でしてよ。」


「そんな言い方って!」


「酷いって?でも言わないとわからないのでしょう?リリアーナ様こそ注意した人をすぐ悪者扱いするなんて酷いですわ。リリアーナ様のために忠告しているだけですのに。」


「・・・申し訳ありません。」


リリアーナ様が涙を目に浮かべてプルプル震えている。案の定、悪役感の漂う展開だ。


「レティシア嬢、そのくらいにしておいてくれないか。リリーが不慣れだからと何も言わなかった私も悪かった。」


「悪いと思うならまずは愛称呼びをお辞めになったらいかが?ダニエル様の婚約者はナタリー様ですわよね?」


「ナタリー嬢には許可を貰っている。学園にいるうちは自由にして良いと。」


「そうですか。ナタリー様がそう仰るならこれ以上何も申し上げませんわ。でもリリアーナ様、ご自分の立場はきちんとわきまえて下さいませ。」


「はい・・・。」


ダニエル様に庇われて、リリアーナ様はか細い声で辛うじて返事をした。


「シアはやっぱりこうするよね。」


「ふふ、レティシア嬢は期待を裏切らないね。」


注意せずにはいられず、またやってしまったと思う私の横でアル様は苦笑いをして、ルドルフ様は楽しそうに笑うのであった。

更新がゆるりとなってすみません。

あらすじは出来ているのですが、思うように話を進められず・・・。

評価・ブックマークを頂きありがとうございます。

とても励みになっているので、完結まで頑張ります。

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