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私の婚約者様の様子がおかしいのは何故でしょうか?

目を覚ますと見慣れた茶色い骨子に白い天蓋が目の前に広がった。

どうやらあの後私は自分の部屋に運ばれたらしい。


「シア、目が覚めた?」


「ア、アル様!どうしてここに・・・。」


ぼんやりとした頭で起き上がったら、まさかアル様がいた。

びっくりして思わず挙動不審になってしまう。


「シアが突然倒れたから心配で。ここまで付き添ったついでに、今日は執務も立て込んでないしそのまま滞在させてもらったんだよ。」


「ご心配お掛けして申し訳ございません。」


嬉しいやら申し訳ないやらできっと変な顔をしている。アル様は私を見てニコニコ笑っているけど。


どれくらい眠っていたのかと思ってハッと外を見るとまだ明るい。


「シア、起き上がって座る元気ある?帰る前にお茶に付き合って欲しいんだけど。」


「大丈夫です。もちろんお付き合いしますわ。」


嬉しくてニマニマしてしまう。勿論心の中でね。まさか表情に出ているなんて気づかない。


「レティ様、お茶のご用意ができましたので、どうぞサロンへ。」


侍女のメアリーが声を掛けてきた。私が目覚めた時から気を効かせて用意してくれたのだろう。我が家のメイドは仕事が早い。


「ねぇ、サロンまで歩く間にまたシアが貧血を起こすと良くないから、シアの部屋でお茶にしない?」


「ええと、私の部屋でも良いのですが、ソファーが一脚しかなくて・・・。」


「うん、二人で座るから大丈夫だよ。」


「ええっ?」


この国では令嬢は客人をもてなすのに私室を利用しないため、自分が寛ぐ用のソファーしか部屋にない。

ゆったり寛げるように二人はゆうに座れるソファーではあるが。

アル様に言われるがままに気づいたらソファーまでお姫様抱っこで運ばれた。

だが、近い。距離が近い。ソファーは広いのに、ピッタリくっついて座って、絶対距離感がおかしい。


「あの、アル様。その、距離が・・・。」


「シア、ほら美味しそうなお菓子だよ。あーん。」


「えっと、その・・・。」


「ほら、あーん。」


アル様が焼き菓子を一つ摘まんで、私の口元に差し出す。一国の王子に食べさせてもらうなんてできないので戸惑っていると、アル様がさらに口元にお菓子を近づける。

絶対引き下がってくれないやつだと思い、渋々お菓子を口に入れた。


「美味しい?」


「はい、美味しいです・・・。」


恥ずかしさのあまり、顔が赤く染まるのを止められない。


「ねぇシア。私もシアに食べさせて欲しいな。」


アル様が嬉しそうに笑いながらとんでもないことを言ってきた。


「それはちょっと・・・。」


貴族の令嬢は婚約者と言えど、過度なスキンシップは良くないとされている。高位貴族らしく令嬢の見本であろうとするレティシアとして培った信念に反するし、何より恥ずかしすぎて心臓に悪い。

どう断ろうかと悩んでいると、アル様が眉を下げてとても可愛らしい顔をしてきた。


「食べさせてくれないの?」


ゲームのスチルでも見たことのないような推しの表情に負けた。ちょっと、令嬢としての矜持はどこ行ったと、もう一人の私が頭の中で叫んでいるが無視だ。


「では・・・あーん。」


アル様が嬉しそうに口を開けて、お菓子を食べる。

と、その時に一緒に指まで舐められた。


「ひゃっ!?」


思わず変な声が出てしまう。


「ごめんごめん。お菓子みたいに美味しそうだったから間違えちゃったよ。それにしてもシアの指は甘いね。」


いや、甘いのはアル様の方だ。甘すぎる。


「お菓子を摘まんだからですわ。」


そのままあたふたしていると、アル様の手に指を絡め取られ、手をギュっと握られる。


「そうかな?じゃあ他の指も味見して確かめないとだね。」


そう言って、アル様は他の指も舐めてきた。


「ぁっ。アル様!お戯れはお止めになって!」


「んー?」


私の必死の抵抗は虚しく、アル様は私の手の甲にキスをする。


「アル様!嫁入り前にはしたないですわ!

メ、メアリー!」


全く聞いてくれそうもないアル様に焦って、メイドのメアリーに目配せする。

だが、生暖かい目で見られるだけで、メアリーを始めとして我が家の優秀なメイド達は空気と化している。

我が家のメイド達は、私がアル様のことを大好きだと知っている。令嬢として過度なスキンシップははしたないが、メイド達が黙っていれば醜聞にもならないので、見守ることにしたのだろう。そこは公爵家のメイドとして止めて欲しい。


「婚約者が目の前にいるのに、別の者の名前を呼ぶ口はどの口かな?」


アル様がそう言いながら、私の唇に指を這わせる。


「ひゃあっ。アル様、も、お止めになって!」


突然のアル様の甘い行動にパニックになり、目尻に涙が溜まる。


「本当に嫌?」


アル様が悲しそうに聞いてくるけど、瞳の奥に熱がはらんでいるのは気のせいかしら。でも嫌かと聞かれたらそうではない。嬉しいけど、矜持に反するので困っているだけだ。


「・・・嫌ではありませんわ。その、アル様のことはお慕いしていますし。でもー。」


貴族の令嬢として、アル様の婚約者として相応しい行動をしたいだけですわ、と、言おうとしたら途中でアル様の唇に言葉を遮られた。

何度か角度を変えて軽い口づけをされたあと、目尻に溜まっていた涙をアル様の唇に掬われた。


「嫌じゃないなら問題ないよね。」


アル様が嬉しそうに笑っているが、突然の行動に固まってしまった。

ゲームのアルベルトはレティシアに対して甘い行動は一切しなかった。


どうしてこうなったー!?

私は頭の中で叫ぶしかできなかった。

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