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転機

孤児院から帰った翌日。

私はお父様の書斎に来ていた。


書斎のソファーにお父様とお母様が並んで座り、私はアル様と並んで座っている。


「レティ、深刻な顔をして話があるなんてどうしたんだい?」


お父様が心配な様子で尋ねてくる。


「お父様、アル様、お願いがありますの。私も将来領地経営に携わらせて欲しいのです。やりたいことがありますの。」


「何だって?」


「まぁ・・・。」


お父様が眉をくいっと吊り上げて険しい顔をする。お母様は顔に手を当てて驚いた様子を見せる。


「シアらしいお願いだね。やりたいこととは?」


アル様は面白そうなものを見る目で笑った。


「望めば誰もが通える学校を作りたいのです。もちろん身寄りのない子も。そして、身寄りのない子は条件を満たして卒業すればノクタール公爵家として身分を証明してあげる仕組みを作りたいのです。」


「ほぅ。何故そのようなことを?」


お父様は突然の私の発案を訝しむ。


「孤児院でとても賢い女の子に出会いましたの。教育をきちんと受けた私でも難しいと思うような植物学を独学で勉強していたわ。本当は王宮の植物園で研究員になりたかったそうなのだけど、王宮は身元の証明ができないと働けないでしょう?他にも、色々教える中で賢いなと感じる子が何人かいたわ。国益を考えたら、身分に関係なく優秀な者には活躍できる場を与えるべきだと感じたのです。」


「そうか。誰でも通えるということは無償で教育の場を提供するということだな?その資金は?」


「我が領は幸いにも貿易が盛んです。輸出入をもっと盛んにしてその関税で賄えないかと。」


「なるほど。身元を証明するということは、何かあれば我が家の責任になるが、そこは?」


「卒業する者全員の身元を証明するわけではありません。例えば、成績上位者で且つ三年間我が家の使用人として働いてもらって優秀だと認められるレベルの者に限定するとか条件を付けたいと思います。」


「そうか。殿下はどう思われます?」


「我が国の人員登用は閉鎖的ですからね。すぐに全てのひとにチャンスを与えるのは難しいですから、レティシア嬢のアイディアは良いと思いますよ。」


「殿下はノクタール公爵領を継いだ場合、レティの意思を尊重すると?貴族の雇用機会が奪われることになりかねないので、一部の貴族からは反発が出ると思いますがそれでも?」


「ええ。この国の発展のためには必要なことかと。ノクタール公爵領で試行して上手く機能しそうだったら国として動くのもありかと思います。」


「そうですか。女性が領地経営に積極的に関わるのは前代未聞ですが、殿下はそれも良いと?」


「もちろんです。レティシア嬢は元から優秀な女性です。学園では実力で生徒会に入ったくらいですし。女性の登用も重要な課題だと思います。」


「わかりました。レティ、お前の気持ちもわかった。そのアイディアを実行できるように実現性の高い計画を立ててみなさい。」


「ありがとうございます!アル様も。」


「シアの気持ちは尊重したいからね。私も手伝うし、ダメな時はきちんとダメと言うから。」


「その方が助かりますわ。ありがとうございます。」


「殿下、レティの気持ちを尊重して下さりありがとうございます。良い息子ができて幸せですわ。」


「まだ息子ではない!」


「あなたったら大人気ないんですから・・・。」


お母様もアル様にお礼を言ってくれる。先ほどと打って変わって、アル様にむきになるお父様をお母様が嗜める。


「むぅ・・・。」


「さ、話も終わったことですし隣のサロンでお茶にしましょうか。ミカエル様も呼びましょう。」


お母様が気をきかせて場を和ませてくれた。

私達がお茶で一息付いた後、アル様はまたお父様に書斎へと引きずられて行くのであった。


そうして数日、屋敷内でお母様とミカエル様とお茶会をしてゆっくりと過ごして、ついに王都に向けて出発する日がやってきた。


「レティシア姉様、ありがとうございました。」


「ミカエル様、こちらこそありがとうございました。とても楽しい休暇が過ごせましたわ。」


「私もです。・・・殿下もお元気で。」


「ミカエル殿も。」


「ところで、なぜ殿下とレティシア姉様が一緒の馬車で帰るのですか?」


「元から帰る日程は一緒だったからね。ノクタール公爵があと数日領に残らなければならなくなったから、シアは私の馬車で帰った方が護衛の効率が良いだろう。」


そうなのだ。なぜか今朝になって、アル様と一緒の馬車で帰ることになった。

王宮から何やら書類が届き、お父様があと数日領に残らなければならなくなった。

お父様の仕事が終わるのを待つと学園の授業に間に合わないかもしれないので、私だけが先に王都へ向かうこととなった。

お父様が「あの腹黒め・・・」と何やら呟きながら出掛けて行ったのは知らなかったことにしよう。


「だからと言って、五日間も一緒の馬車に乗るなんて・・・レティシア姉様に変な真似しないで下さいよ。」


「もちろんだよ。」


「あらあら、ミカエル様はすっかり姑みたくなって。レティちゃん、今回は事情が事情なので殿下と一緒に帰ってもらうけど、羽目を外さないようにね。」


「お母様、羽目を外すって何ですか。そんなことあり得ませんわ。」


「ふふ、念のためね。ね、殿下?」


「わかっていますよ。ではシア、そろそろ行こうか。」


「ええ。ではお母様、行ってまいります。ミカエル様はまた来年学園で、かしら?」


「レティちゃん、殿下にご迷惑掛けないように。気をつけて行ってらっしゃい。」


「レティシア姉様、道中と言うより殿下にお気をつけて。また来年、学園でお会いしたらよろしくお願いします。」


「ええ、ではまた。」


アル様に気をつけるとはどういう事だろうと思いながら、ミカエル様に別れを告げる。


「シア、お先にどうぞ。」


「ありがとうございます。」


いつものようにアル様がすっと手を差し伸べてくれたので、アル様の手を握りながら馬車に乗り込む。アル様も馬車へと乗り込んで、私と向かい合わせに座る。


その後に続いて、メアリーとアル様の護衛の一人が馬車へ乗ったところで、扉が閉められた。

サラやアル様の侍女達は別の馬車に乗り込んだ。


馬車の小窓からお母様とミカエル様に手を振り、私は王都へと向かうのであった。

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