再び対峙します
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「そうだ、夏期休暇を期に領地に引っ込んでしまおう!」
なんて、アル様の婚約者として醜聞になることを私が決断できるわけでもなく。
私は私らしく生きるしかできないことを悟った。
アル様のことを信じられないわけではないけど、どこで強制力が働くかもわからない。
自分の矜持を曲げて断罪される可能性を考えると、自分の矜持に従って断罪される方がマシだ。
そう決意を新たに登校した私は、裏庭で先輩方に囲まれていた。
「「レティシア様、リリアーナ様をどうにかして下さらない?」」
「どうにかと申しますのは・・・?」
「リリアーナ様、最近私どもの婚約者に馴れ馴れしく挨拶してきますの。」
「しかもたまに私どもの婚約者の腕に触れたりしながら談笑して、私どもの婚約者も満更ではない様子で・・・。」
「私どもも何度かリリアーナ様に注意をしましたし、婚約者にもはしたないと伝えたのですが・・・リリアーナ様は言いがかりだと泣き出すし、婚約者達はまだ貴族の社会に馴染めていないだろうから大目にみてやれと言い出しましたの。」
「それに、リリアーナ様ってルドルフ様にまで馴れ馴れしい態度でしょう?ルドルフ様と同じ学年のご令嬢方も相当お怒りなのよ。」
「リリアーナ様があの調子だとずっと変わらないでしょうから、同じ学年のレティシア様から確りと指導して下さる?」
先輩方は違う学年の生徒会の役員やその友人の婚約者だ。
最近、面識ができたことで話すようになったのだろう。リリアーナ様が先輩方にもクラスの男性と変わらず接しているとは思わず、頭が痛くなる。
「善処しますわ。でもあまり期待しないで下さいませ。あれでも私から色々と注意していますの。」
「そうでしたの・・・。とにかく、お願いしますわね。」
先輩方には同情の目を向けられたが、結局私がリリアーナ様に注意をすることになってしまった。
教室に戻ると、心配そうな顔でこちらを見るアル様がいた。
「シア、先ほど先輩方と一緒に歩いている姿を見かけたけど大丈夫?」
「ええ、何の問題もありませんわ。ちょっと頼まれ事をしただけですの。」
アル様が複雑そうな顔で何か口を開きかけたけれど、先生がちょうど教室へ入って来て授業が始まった。
そうして昼休み。私は裏庭の目立たないベンチに息を潜めて一人で座っていた。
「そうなんですよ、あのお店の店主がですね・・・」
「リリアーナ嬢は詳しいな。」
「それでですね・・・。」
リリアーナ様と、生徒会の先輩方とそのご友人が楽しそうに話している。
少し離れた所で様子を見ているので会話は所々しか聞こえないが、リリアーナ様が時折先輩の腕を触れたりしている。隣のクラスの男性と違い、先輩方はリリアーナ様に特別な好意を抱いている様子はないが、楽しそうであるのは間違いない。
「で、今度はどうするの?」
「え?アル様!?」
リリアーナ様の様子を見るのに集中しすぎて、隣にいつの間にかアル様がいたのに全く気がつかなかった。
「何のことですの?」
「シアの考えていることはお見通しだからね。」
「そうですか。それで?止めに来られたのですか?」
「止められるものならね。何もシアだけが表立って悪者になることはない。」
「あら、私の心配をして下さるの?でも大丈夫ですわ。」
「シアは・・・うん、私の行いのせいだね。」
「何のことですか?それより、アル様を巻き込むつもりはありませんので先にお戻り下さい。」
「・・・わかったよ。でも1つ条件がある。明日から毎日休み時間は私と一緒に過ごすように。」
「え?そんな醜聞になるようなことできませんわ。」
学園ではたとえ婚約者と言えど、ずっと男女が二人で一緒にいるのははしたないとされている。
「ヴァンにも一緒にいてもらうし、アイリーン嬢にも一緒に行動してもらえばいい。それに、醜聞になんてさせないしね。」
アル様は私に拒否権はないという雰囲気で、とても美しい笑顔で微笑んだ。
「・・・リーンに相談してみますわ。」
「アイリーン嬢には話をしてあるから問題ないよ。」
アル様の根回しの良さにため息が出そうになる。リーンに申し訳ない。
「・・・わかりました。」
「では先に教室に戻っているから。」
教室の方へ向かって小さくなっていくアル様の後ろ姿を見送りながら、私はリリアーナ様の方へ向かう。
「リリアーナ様、こんなところで何をなさっていますの?」
「レティシア様?先輩方に偶然お会いしたのでお話していただけですわ。」
「そう。皆さんに婚約者がいらっしゃるのはご存知?」
「ええ、聞きましたから。」
知っていたとは思えない行動にため息が出る。私がこの前注意したことなど忘れた様子だ。
「ご存知とは思えない行動ですわね。この前忠告したことをお忘れ?それとも学が足りないから覚えられないのかしら?」
「そんな言い方酷いですわ!」
リリアーナ様がみるみる涙目になっていく。
「レティシア嬢、さすがにその言い方はリリアーナ嬢が傷つくのではないか?一生懸命頑張っているようだし、少し大目に見てあげても・・・。」
「大目に見てもいつまでも行動が改まらないから申し上げているだけですわ。」
「そんな!これでも一生懸命頑張っているのに!」
もはやお決まりのパターンで、リリアーナ様が泣き出した。
「でしたら、まずはすぐに泣くことをお辞め下さいませ。泣けば周りが味方してくれるなんて思わないことですわね。」
そう言いながら、私は先輩方に目配せをする。
優秀な先輩方だから、私の言うことが正しいことを理解してくれている様子だ。
「先輩方、先輩方にも婚約者の方にも迷惑がかかるといけないので先にお戻り下さいませ。」
「あ、ああ・・・。リリアーナ嬢、貴女の話は面白かったよ。機会があれば、私たちの婚約者も交えてまた話を聞かせてくれ。」
「では私たちは先に失礼するよ。」
「・・・ひっく。はい・・・。」
この状況のリリアーナ様を先輩方の元に残すわけにはいかないので、先に戻ってもらう。
リリアーナ様は先輩方があっさりと先に戻ることに驚き、不服そうな顔をしていた。
先輩方の姿が見えなくなったところで、リリアーナ様に声を掛ける。
「リリアーナ様、いい加減貴族としての振る舞いに馴染んで頂かないと貴女の立場が悪くなりますわよ。わかって下さいませ。」
「ひっく。・・・ひっく。」
「そのお顔で教室には戻れないでしょうから、リリアーナ様のクラスの先生には、体調が思わしくなくて保健室に行っていると伝えておきますわ。落ち着いてから教室にお戻り下さい。」
そうして私は教室へ戻って行った。
「クスッ。悪役令嬢の言う通りになんてするもんですか。」
私はリリアーナ様の呟いた言葉に気づかずにいた。




