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ヒロイン登場

ヒロインとアルベルトの出会いは入学式の直前。

会場に向かおうと急いで歩いていたヒロインが人にぶつかって倒れたところを、アルベルトが助ける。

足を挫いてしまったヒロインをアルベルトが保健室までお姫様抱っこで運び、アルベルトはその場では名乗らずに去る。

ヒロインは1年前に伯爵家に引き取られたものの、マナーやダンスのレッスンが必要だったため、お茶会の参加すらまだしていない。そのため、アルベルトの顔を知らないので、知り合って暫くは馴れ馴れしい態度で接する。それがアルベルトには新鮮であり、レティシアの逆鱗に触れるのだが。


そして目の前で今最初のスチルと同じシーンが繰り広げられようとしている。

ふと、悪役令嬢のレティシアはこの場にいなかったはずだと気がつく。入学式の後にアルベルトがヒロインを保健室に連れて行ったと知り、アルベルトに苦言を呈するのだ。

取り敢えず成り行きを見守ろうと思っていると、アル様が「シア、ちょっとごめんね。」と言った後にヒロインの方に手を差し伸べた。


真後ろで転ばれたら、放っておくわけにもいかないから仕方がない。


「君、大丈夫?」


「すみません、大丈夫・・・ッ!」


ヒロインがアル様の手を掴んで立ち上がろうとした瞬間、顔を歪めてその場にうずくまる。あぁ、ゲームの展開通りだ。


「すみません、どうやら足を挫いてしまったようで・・・。」


「そうか・・・。私が「アル様!アル様が動く必要はございませんわ!」」


気がついたらアル様のセリフを遮っていた。ゲームでは、私が保健室に連れて行こうと言うところだ。嫉妬もあるが、婚約者の目の前で他の女性を抱き上げるなんて貴族ましてや王族らしからぬ振る舞いを許せるはずがない。

王族の言葉を遮るなど無作法をしてしまったと思いながら周りを見渡す。


「あら、ヒューリー男爵家のマイロ様。ちょうどいいところにいらっしゃったわ。今すぐ保健医を呼んできて下さる?あと、そこのモンベール伯爵家のルイス様。ご令嬢をあちらのベンチまで運んで下さらない?」


「わかりました、すぐに呼んできます。」


マイロ様は眉を少しだけひそめてその場を離れる。爵位が上だからと年下の女に顎で使われたのだから当然の反応だろう。


「では、少し失礼。」


今度はルイス様がヒロインをお姫様抱っこして、近くのベンチに座らせる。ちなみにルイス様は婚約者がいないので、この振る舞いはセーフだろう。


「ルイス様、ありがとうございます。」


「うん、レティシア嬢は相変わらずだね。」


相変わらずって何が。傲慢とでも言いたいのかしらと思いながら曖昧に微笑む。


「えっと・・・レティシア様とルイス様?ありがとうございました。」


ヒロインが戸惑った表情でお礼を言ってきた。庇護欲をそそるような可愛い表情だ。


「当たり前のことをしただけですわ。」


「こんなに可愛いレディの手助けができて光栄だよ。」


悪役令嬢よろしくなツンとした態度を取ってしまった。そしてルイス様がチャラい。


「あと、最初に助けて下さった「君が怪我人?」」


ヒロインがアル様に話掛けようとしたところ、マイロ様が保健医の先生を連れてきた。


「ああ、結構腫れてるね。このまま保健室に連れていくから。」


先生はそういうとヒロインを抱き上げて、その場を去っていった。


「シア、ありがとう。見事な仕切り方だったよ。」


アル様がなぜか肩を震わせながら、優しく頭を撫でてきた。


えーと、これはヒロインとアル様の出会いを潰したことになるのかしら。

私はどこかで安堵していた。

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