デビュタント④
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アル様に控え室に案内してもらう。アル様がそれぞれの両親も案内するからと、部屋から消えていった。特にリリアーナ様と話すこともないので、重い沈黙の空気が部屋に漂う。
「レティシア様、申し訳ございませんでした。私・・・!」
「何のことですの?私はサラ様とお話をしたかっただけですわ。お時間が許すなら、この後少しよろしい?」
「はい、大丈夫です。」
サラ様がリリアーナ様もいるこの場で謝ろうとしてきたので静止する。サラ様に聞きたいことはこの場で話せるような内容ではないので、後で時間をもらうことにした。
「リリー!」
バンと扉が開け放たれ、ワーグナー伯爵が部屋へ入ってきた。
「レティシア様、本日は娘がご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。」
「いいえ。こちらこそドレスを汚してしまい、申し訳ございませんでしたわ。あ、お父様。リリアーナ様にお詫びにドレスをプレゼントしてもよろしいでしょうか?」
ワーグナー伯爵と話している途中でお父様とお母様が到着したので聞いてみる。
「ああ、そのつもりでいたから安心しなさい。」
「ありがとうございます。ということでワーグナー伯爵、リリアーナ様に新しくドレスを仕立ててあげてください。お代はこちらで払いますので。」
「娘のせいでレティシア様のドレスも汚れてしまったのに、そんなご厚意を受けるわけには・・・。」
「お気になさらないで。私のせいでリリアーナ様を泣かせてしまったことには変わりませんもの。」
「有り難きお言葉。それではレティシア様のお言葉に甘えさせて頂きます。リリー、お前からもお礼を言いなさい。」
「・・・レティシア様、ありがとうございます。」
リリアーナ様はお礼を言ったけど、こちらをジト目で見ている。ワーグナー伯爵に恩を売っておきたいので我慢したが、何でも私のせいにしようとする態度にイライラする。
「いいえ、お気になさらず。それよりも、濡れたドレスのままだと風邪を引いてしまいますわ。今日はお帰りになった方がよろしいのでは?」
「そうさせて頂きます。リリー、帰るよ。」
「嫌よ!せっかくルドルフ様とお話できるチャンスだったのに、まだ挨拶すら出来ていないもの!」
「そんなドレスで挨拶できるわけないだろう。諦めなさい。」
「嫌!白ワインですし、そんなに掛かっていないし乾いたらわからないはずです!」
リリアーナ様がまたポロポロと泣き出す。リリアーナ様はやはりルドルフ様狙いなのか。それにしても非常識な発言に目眩がする。
私の両親は眉をひそめているし、ワーグナー伯爵とリリアーナ様の押し問答は平行線だし、このままでは事態が収束しなさそうなので苦肉の策に出る。
「それでしたらリリアーナ様、後日ルドルフ様のいらっしゃる時に、あなたのクラスへ配布する紙を生徒会室へ取りに来て下さらない?きっと挨拶できるはずですわ。」
「レティシア様、本当ですか?お願いします。」
涙はどこへいったやら、すごくいい笑顔でお礼を言われた。リリアーナ様達が帰宅し、どっと疲れが出る。
「・・・嵐のようなご令嬢でしたわね。」
「否定はできませんわ。お母様、私サラ様と少しお話がしたいのですが・・・。」
「レティちゃんだってドレスが濡れているし、早く帰りたいところだけど・・・わかったわ。お父様と隣の部屋で待っているから少しだけよ。」
「ありがとうございます。」
お父様とお母様の姿が隣の部屋に消えたことを確認して、サラ様に声を掛ける。
「サラ様、どうしてあの様な真似を?婚約破棄の話も落ち着いたと伺っていましたが。」
「レティシア様、ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません。一度落ち着いたのですが、今日のリリアーナ様は一段と可愛らしかったでしょう?婚約者がその姿を見て、やはり私の存在が邪魔になったようで、中庭でまた婚約破棄の話が出ましたの。あちらのご両親も了承して、どうにもできなくて・・・。私、これでも婚約者のことをお慕いしていましたの。この婚約に頼るしかなかった私なんかにも、昔は優しくして下さいましたので・・・。」
「だからと言って、騒ぎを起こせばただ事で済まないことはわかっていたでしょうに。それなのになぜ?」
「私の家は一代限りの男爵家でしょう?私が5歳の時に爵位を賜ったので、いざとなれば平民の暮らしができるのです。なので、リリアーナ様への嫉妬が抑えられなくてつい・・・。リリアーナ様と出会ってから私の婚約者は変わってしまいましたので・・・すみません・・・。」
サラ様がついに泣き出してしまった。
サラ様の家は元は農家である。隣国から仕入れた米を品種改良して災害にも強く、この国の人の口にも合うようにし、米をこの国に広めた功績を買われて男爵位を賜った。一代限りの爵位でも、他の家と縁続きになれば継続されるという決まりがこの国にある。
5歳からでも貴族令嬢として育てられたサラ様が今さら農家に戻るとなると、苦労するだろう。だからこそ、きっとご両親は貴族の婚約者を見つけてきたのだ。
「サラ様、これからどうなさるの?」
「婚約破棄された一代限りの男爵令嬢の貰い手なんて貴族にはいませんわ。もう少ししたら学園を辞めて領地に戻り、領民の方に混じって農業を学ぼうと思います。」
「そう。ねぇ、サラ様。貴女さえよろしければ我が家の侍女にならない?」
「え?」
「貴族出身の侍女は学園を卒業してから就職するでしょ?だから少し年が離れている者が多いの。ちょうど同年代の侍女が欲しいと思っていたところだし、学園を辞めるつもりなら我が家に来て下さらない?」
「レティシア様!ありがとうございます!両親に相談してみて、了解が出たらお願いできますか?」
「もちろんですわ。だから涙を拭いて。」
「はい。」
そうして私は帰りの馬車で両親にサラ様を雇いたいことを伝え、レティらしいと笑われたのだった。




