デビュタント③
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「レティシア嬢、私と踊って頂けますか?」
ルドルフ様とのダンスの曲が終わりを迎えた時、今度はヴァレンティノ様に声を掛けられた。
「ええ、喜んで。」
「ふーん、アルの差し金かな?それとも個人的な感情?」
「ルドルフ様は相変わらず意地が悪いですね。どちらも正解ですとだけ言っておきますか。」
「ふふ、ヴァンのたまに素直なところはいいね。それではレティシア嬢をよろしく。」
ルドルフ様とヴァレンティノ様が何やら意味深な会話をして、何かと思っている間に私はルドルフ様からヴァレンティノ様の元へ差し出され、次の曲が始まった。
「レティ、態度に出ているぞ。」
「え、そんなに表情に出ていましたか?」
「私とかアルとか、近しい人しかわからないと思うがな。」
「アル様に気づかれたらとんだ醜分ですわ。」
私はさっきから他のご令嬢と踊るアル様にヤキモキしていた。デビュタント組と踊るのは公務の一環のようなものだが、私は嫉妬深い。アル様の様子が気になって仕方がないのだ。
アル様は先ほどナタリー様と踊っていた。ダンスを申し込んだ令嬢の中で一番爵位が高い様子だったから当然だろう。ナタリー様は見た目が可憐なので、同じアンナ・ニコライがデザインしたとは思えない、プリンセスラインのフワフワとした可愛らしいドレスを着ていた。ああいう可愛いドレスが似合わないので何だか妬ける。
そして今、アル様はリリアーナ様と踊っている。
リリアーナ様もプリンセスラインの可愛らしいドレスを着ている。白いチュールが幾重にも重なって、ピンク色の糸で刺繍を施したドレスを着たリリアーナ様はとても可愛い。ただ、ゲームのデビュタントと同じドレスなのはやはり強制力なのだろうか。
リリアーナ様のダンスは確かにまだ辿々しい。それでも一生懸命踊る姿は健気に見えて、アル様にリリアーナ様のことを見ないで欲しいと願ってしまう。
「そんなに気にするならもっとアルに素直になればいいものの。レティは昔からプライドが高すぎるんだよ。」
「公爵家の令嬢として当然の振る舞いをしているだけですわ。」
「全く。レティらしいと言えばレティらしいけれど。さて、アルとノクタール公爵との約束もあるから、ノクタール公爵の所に行くよ。」
そうしてダンスの曲が終わりに向かったところで、私はお父様のところへ送り届けられた。
「ヴァン君、ありがとう。レティ、もう他の男と踊らなくていいからな!」
「おじさんも相変わらずですね。それでは私は失礼します。」
ヴァレンティノ様はどうやら親バカなお父様に頼まれて私を連れて来てくれたようだ。そうして私たちの近くを去ると、あっという間にご令嬢に囲まれていた。
「レティのファーストダンスは私が踊るはずだったのに、殿下め。」
「お父様、不敬な発言はお止め下さいませ。」
「レティに注意される日がくるとは・・・。」
「あなた、こんな公の場で親バカを出すのは止めて下さいな。」
「むう、すまん。レティのデビュタントだからついな。」
お父様のいつもの仕事中とは掛け離れた態度についクスクスと笑ってしまう。アル様の周りには相変わらずご令嬢の人垣が出来ていて、今日はもう話せそうにない様子である。お父様達と一緒に、挨拶に周りながら過ごしていると、ふと一人のご令嬢が目に止まる。
私にリリアーナ様のことを相談してきたご令嬢のうちの一人だ。確かサラ様と言ったか。リリアーナ様を睨むように見つめ、フラりと動き出すのが見えた。手には赤ワインのグラスを持っていて、まさかと思う。
彼女は男爵家のご令嬢なのに、ここで伯爵家のリリアーナ様相手に騒ぎを起こせばただ事では済まされなくなる。
今から彼女の元へ向かっても、手を静止できるか微妙な距離だ。
もちろん私が手に持っているグラスを置く時間もありそうにない。幸い私の手にあるのは白ワインのグラス。
「お父様、あちらに最近仲良くなったご令嬢がいるので挨拶してきますわね。」
よし、と心に決めて周りに悟られないように、でもなるべく早歩きでリリアーナ様の方へ向かう。
「サラ様!っきゃっ!」
サラ様がリリアーナ様の正面で赤ワインのグラスにぐっと力を入れたところでリリアーナ様の後ろから声を掛け、振り向いたリリアーナ様にぶつかり、私の白ワインのグラスが傾く。
「きゃあ!?」
案の定、私のドレスとリリアーナ様のドレスに白ワインがかかってしまった。リリアーナ様は驚きの声をあげた後、状況を理解したのかみるみる目に涙を溜めた。
「レティシア様、酷いです!いくら私のことが嫌いだからって、こんなのあんまりです!」
私もドレスが汚れたし、リリアーナ様がまさかここで騒ぎ立てるとは思わなかったので、ため息が出てしまう。
予想以上に、周りがこちらを見ている。
「申し訳ありません、わざとではありませんわ。サラ様をお呼びしてまさかリリアーナ様が振り向くとは思っていなかったので。」
言外に、そもそもリリアーナ様が振り向いたせいだということを言う。
「そんなのどうとでも言えます。せっかくお父様が一生懸命用意してくれたドレスだと言うのに・・・。」
リリアーナ様はそう言った後、ポロポロと泣き出した。まるで私が悪者に見える展開だ。
「本当に申し訳ありませんわ。リリアーナ様、私もドレスが濡れてしまいましたの。一度、一緒に控え室へ戻りませんか?」
「・・・。」
リリアーナ様は泣いているばかりで返事がない。
「私と二人っきりが不安であれば、サラ様にも付いてきて頂きましょうか。」
「私でよろしければご一緒します。」
サラ様に目配せをし、断れない雰囲気を出すと、サラ様は動揺を見せつつも返事をする。
「シア、大丈夫?私が控え室まで案内しようか。」
「アル様、ありがとうございます。お願いしますわ。」
「アルベルト様が案内して下さるのなら・・・。」
リリアーナ様がようやく言葉を発した。アル様がいなければ行かなかったかのような発言にイラっとしつつも、周りに悟られないように優雅に微笑む。
「さぁ、それでは参りましょうか。」
会場の人達が注目する中、私は会場を後にするのであった。




