デビュタント②
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「うーん、失敗したかな。」
「何が失敗ですの。あ、あんなことしておいて失礼ですわ。」
私とアル様はデビュタントの会場に続く廊下を歩いている。あの後、ちょうどタイミング良く案内係が訪れ、そろそろ順番が来ることが伝えられた。
アル様に散々愛でられた私の顔はまだほんのり赤く、瞳が潤んだ状態だ。
「そんな顔、他の者に見せられないよ。」
「そんな顔って!アル様のせいですわ!」
そんな会話を繰り返していたところでデビュタントの会場の控え室に到着する。
他の人はほとんど呼ばれた後で、部屋には公爵家のヴァレンティノ様だけだった。銀色の糸で刺繍が施された詰襟を着ているヴァレンティノ様は男らしいのに美しい。これだけ高スペックなのに、何で婚約者を決めないのだろうと思いながら顔を見ると、ヴァレンティノ様がふっと微笑む。
「レティ、今日は一段と美しいね。」
「ありがとうございます。」
「それにしてもアル。少し自重した方がいいんじゃないか?」
「まさに今反省しているところだよ。」
アル様に何をされていたかヴァレンティノ様に見透かされているようでまた顔が赤くなる。
「ヴァン、余計なことは言わないでよ。シアがまた可愛い顔をしてこのままだと入場できなくて困るんだけど。」
「私のせいじゃないだろ。そもそもアルが悪い。」
「もう、お二人ともそのお話はやめて下さいませ!」
アル様がまた甘い台詞を言って、心臓に悪いので止めに入った。ちょうど案内係がヴァレンティノ様の順番だと声を掛ける。
「では二人ともまた後で。」
ヴァレンティノ様が去り、ようやく落ち着いたところで私たちも声をかけられた。
控え室を出て、会場の扉の前に待機する。
「フランドル王国第二王子、アルベルト・フランドル!そして婚約者のノクタール公爵家レティシア・ノクタールの入場!」
中から声がして、扉が開け放たれた。
正面には国王陛下と王妃様、ルドルフ様が座っていて、その周りには玉座へ続く通路を開けて挨拶の終わったデビュタント組や、その家族や婚約者がいた。
全員が入場した後だったので、皆の視線を一心に浴びる。顔には出さないけど、内心はバクバクだった。
アル様にエスコートされ、陛下と王妃様に挨拶するために玉座へと進むと、周りからほぅっと感嘆のため息が聞こえた。今日のアル様はいつもに増して素敵なので当然だろう。
陛下の前に到着して臣下の礼で挨拶する。
「フランドル王国が第二王子、アルベルト・フランドルです。」
「ノクタール公爵家が長女、レティシア・ノクタールです。」
「面を上げよ。まずはアルベルト、今日から第一成人として一人前に扱われる。これまでより一層、国民の生活を豊かにするよう励むように。」
「承知しました。」
「そしてレティシア嬢、婚約者としてアルベルトを支えてくれ。」
「承知しました。」
この国では、男性は15歳の時に第一成人として社交デビューし、学園を卒業する18歳の時に第二成人として婚姻や領地経営に携わることが許される。第一成人後は、領地経営の補佐が認められるようになるので、アル様は王太子教育の他にお父様に付いて学ぶことになるので忙しくなる。
もちろん私は全力でアル様をサポートするつもりだ。
ちなみに女性は15歳のデビュタントと同時に婚姻が認められる。婚姻時期は相手の年齢により決まるので、私が結婚するのは早くてもアル様が学園を卒業してからだ。
「それでは皆の者、全ての挨拶が終わった。これより舞踏会を開始する!」
陛下の言葉に続いて、ワルツの音楽が流れ始める。
社交デビューした者達のファーストダンスが始まる。
「シア、貴女のデビュタントのファーストダンスの相手になる栄誉を頂いても?」
「ええ。嬉しいですわ。喜んで。」
アル様に差し出された手に手を添え、ダンスフロアの中心まで移動する。到着すると自然と腰を抱かれ、ワルツを踊り始める。
「シア、この会場の誰よりも今日の貴女は美しいよ。」
「アル様、そんなに誉められては恥ずかしいです。アル様こそどなたよりも素敵ですわ。」
「ふふ、ありがとう。アクセサリーも良く似合ってる。さっき言いそびれちゃったからね。」
「ありがとうございます。アル様こそ、ブローチを付けていてくれて嬉しいですわ。」
ダンスの間、周りに聴こえないくらいの声で会話をする。アル様が付けているブローチは、去年の誕生日に私が送ったものだった。いつもは公の場では淑女らしくあまり感情を表に出さないようにしているが、アル様とダンスを踊りながらの会話が嬉しくて、自然とアル様と微笑み合っていたようだ。その時、周りが私たちの仲睦まじい姿に見とれていたなど知る訳もなく。
「シア、そろそろ曲が終わりそうだ。きっとダンスの申し込みがたくさん来るだろうけどあまり踊らなくていいからね。」
「え?断る訳にはいきませんわ。アル様こそたくさんのご令嬢達とダンスを踊るくせに。」
この後のことを考えて思わず拗ねた態度を取ってしまう。自分のデビュタントの時だけは、王族に自らダンスを申し込むことができるとされている。ゲームでもそうだったが、アル様はたくさんのご令嬢に囲まれることになるのだろう。
「そうだろうけど・・・私が大切にしたいのはシアだけだから覚えておいてね。」
「なっ!?」
「ぷくくっ。アル、こんな公の場で婚約者を口説かなくても。レティシア嬢、私とダンスを踊って頂けますか?」
「ルドルフ様!ええ、喜んで。」
「兄上、シアに変な真似をしないで下さいよ。」
「弟は怒らせたら怖いからね。そんな事しないから安心して。」
「「アルベルト様!私とダンスを踊って頂けませんか?」」
まさかのルドルフ様にダンスを申し込まれ、返事をしたところでアル様はあっという間にご令嬢に囲まれてしまった。
「ではレティシア嬢、こちらへ。」
ルドルフ様に促され、アル様の元を離れて踊り始める。
「まさかルドルフ様にダンスを申し込んで頂けるとは思いませんでしたわ。」
「レティシア嬢は未来の義妹だから当然でしょう?それに普段はアルのガードが硬くてあまり話せないし。」
「何のことでしょう?」
「いや、レティシア嬢が気づいていないなら忘れて?それよりも、それはアルからのプレゼント?」
「ええ、そうですわ。」
「そうか。アルも変わったな。レティシア嬢、昔私が庭園で言ったこと覚えている?」
「っ!忘れるわけありませんわ。でも、未だによくわかりませんの。」
「そうか。アルも苦労するな。自業自得だけど。」
ルドルフ様はアル様と同じような、だけれどもアル様以上に美しい顔で楽しそうに笑った。隠れキャラの破壊力がすごい。周りのご令嬢が見惚れているのが見える。
私もつい頬を染めてしまう。
あまりの破壊力に、そんな私を射抜くような視線で見ている人がいるなど、気づくこともなかった。
話の繋がりの都合で「サプライズ」の回のアルベルトの台詞を一部修正しました。
読み直さなくても支障はありません。




