サプライズ
「レティシア様は悪くないんです!」
「私たちがレティシア様にお願いしてリリアーナ様に注意をして頂いたんです。」
一緒にいた方々がアル様とヴァレンティノ様へリリアーナ様の一件を説明してくれたが、リリアーナ様の行動が貴族の令嬢としてマナー違反なのは確かでこちらに非はない。
「私は皆さんの一件とは関係なく、自分の信念を貫いただけですわ。ですのでアル様、ヴァレンティノ様、何かございましたら私がお受けしますわ。」
「いや、別に様子を見に来ただけだから。ヴァンは何かある?」
「いや、特には。強いて言うならレティ、あまり無茶はするなよ。」
「それには私も同感だな。」
「アル様もヴァレンティノ様も私を誰だとお思いですの?無茶などしていませんわ!」
気遣ってもらえて嬉しいのに、素直にお礼を言えば良いものの、つい可愛くない言葉が出てきてしまう。
「「はいはい。」」
そんな私の言葉をアル様とヴァレンティノ様は聞き流し、何とかその場が収束したのだった。
そうして数週間後、リリアーナ様の行動は少しは慎ましくなったものの、相変わらず男性が一緒にいることは変わらず。リリアーナ様を咎めたのが伝わったのか、時折リリアーナ様と仲の良い男性から鋭い視線を感じるようになった。
いくら平等が理念の学園とは言え、私の方が爵位が高いから何も言えないのだろう。想定の範囲内の出来事だ。
それより私を戸惑わせているのは、今、私の邸宅に訪れて、目の前で優雅にお茶を飲んでいるアル様だ。
「アル様、先触れは頂きましたが、急にどうなさいましたの?」
「シアにデビュタントで身につけるアクセサリーをプレゼントしたいと思ってね。オーダーしていたものが出来上がったから持ってきたんだ。」
「えっ!?」
予想外のことに、驚きすぎて言葉が出てこない。
「気に入ってくれると良いんだけど。」
そう言ってアル様が取り出したのは、ブラックスターサファイアのペンダントとイヤリングだった。
アル様の黒髪を思わせる色に、アル様の瞳を思わせる金色の輝きを纏う宝石だ。ゲームではアル様ルートのハッピーエンドの直前にヒロインが貰う宝石に目を見開く。レティシアがアル様からこの宝石をプレゼントされることはなかったはずだ。シナリオとの違いに戸惑いつつも、あまりの嬉しさに自然と笑みと言葉が溢れる。
「ありがとうございます。とても嬉しいですわわ。」
「良かった。当日は迎えに来れないからね。シアがそれを付けて来てくれることを楽しみにしているよ。」
「はい。あの・・・デビュタントではアル様がエスコートしてくれるのですか?」
デビュタントでは婚約者がいる者は婚約者が、婚約者がいない者は親族がエスコートをするのが通例だ。ただ、王族となると王族席にいるため、エスコートできない場合もある。その場合は、親族が代わりにエスコートをする。今のアル様の言いぶりだと、会場でのエスコートはアル様がしてくれるようなので思わず聞いてしまう。
「もちろん。幸い私も一緒に第一成人として社交界デビューだからね。何?もしかして私がエスコートしないと思っていた?」
「ええ。だってアル様は最初から王族席で出席されるでしょう?」
「会の主役達は学友だからね。紹介を受けなくても知っているし、私も社交デビューだからシアと一緒に入場することにしたんだ。もちろん父上の了承も得ているよ。」
「そうなんですね。嬉しいです。」
ゲームのレティシアは我儘を言って、アル様にエスコートさせていた。まさかアル様からエスコートを申し出てくれるとは思わなくて、嬉しさのあまり思わず笑顔になってしまう。
「ふふ、今日のシアは素直だね。それにしても私がエスコートしないと思われていたのが心外だな。シアのこと大切に思っているのが伝わっていないのかな?」
「へっ?」
アル様は意地悪な笑顔で笑うと、私の真横に椅子を移動させてきた。突然のことで思わず間抜けな声が出てしまう。
「さてどうやってわかってもらおうか。」
アル様が意地悪な笑みを深めながら私の髪を掬い、クルクル指で遊び始めた。アル様の視線に顔がどんどん赤面していく。
「すみません!わかりましたから少し離れて下さい!」
本当は、アル様が私をからかって遊んでいるだけと思っているが、心臓に悪いのでどうにか距離を取ろうとする。
「絶対わかってないよね。」
アル様はクスクス笑いながら、私の髪に口づけをした。そして思わず固まってしまった私の唇に軽く口づけをして、最後に額に唇を落とす。
「これでわかった?じゃあ時間だから帰るね。また明日。あ、見送りはいいよ。そんな顔じゃサロンから出れないだろうし。」
「~っ!アル様!」
思わず額に手を当てる。そうして真っ赤な顔で口をパクパクと動かすことしかできなかった私を尻目に、アル様は楽しそうに帰って行ったのだった。
アル様は意地悪だけでこんなことをしないとは思う。でも私のどこに好かれる要素があったかわからない。
私は混乱したままその日眠りにつくのだった。




