蘇生
「けいおん!」テレビアニメ第二期放送十周年勝手に記念&京都アニメーション勝手に応援企画小説
毎年九月になると、私は鬼怒川を訪れる。二〇一五年まではこんなことはしていなかった。二〇一六年から始めたもので、今年で五回目となる。
夜中に一人で川岸まで赴き、ベンチに腰掛け、鞄から小さなラジカセを取り出し、イヤホンをつけて再生ボタンを押した。やがて、私たち五人のバンドで演奏した曲が流れ始めた。
一曲目は『となりのトトロ』のロックアレンジで、二曲目はビートルズの『ヘイ・ジュード』のカバーだ。ギターとボーカル担当でリーダーの未羽は五年前、鬼怒川の氾濫に巻き込まれて亡くなった。二十七歳だった。
このカセットテープを収録したのはもう十年前になる。大学の同好会で結成されたバンドだった。二十世紀後半のロックバンドに憧れた女子の集まりで、就職と共に解散したが、まさか二度と会うことがなくなるとは微塵も思っていなかった。
テープが三曲目の演奏を始めた。オリジナルの曲で、人の輪廻をテーマにしている。大学生には手に余る壮大すぎるテーマで、正直あんまり上手くない。ただ、作詞をしていた中で未羽が話していたことを、今でも私は覚えている。
「みんなから忘れられるまでは人は生きているって言うけどさ、それって、思い出してもらえたら蘇ったってことになるのかな?」
なぜだか、私はこの言葉をよく覚えている。そして今年も鬼怒川で未羽を生き返らせる。目を閉じると、あの頃の未羽の背中が見えた。私の担当はドラムスだった。星空の下で、今年も私たち五人のライブコンサートが行われる。
私が「けいおん!」に初めて出会ったのは、確か高校生の頃だったと思います。その頃、家族に黙って夜更かしすることが時々あったのですが、ある日、アニマックスで「けいおん!」が放送されているのを見つけました。タイトルだけは知っていたのでチャンネルを合わせたところ、ちょうど主人公の卒業式のエピソード、すなわち最終回でした。よく知らないキャラクターたちや、よくわからないネタも多かったのですが、アニメといえばドラえもんくらいしか観ていなかった私にとってはまさに革命、あるいは突然変異ともいえる衝撃でした。背景などの細かい映像の美しさと感情表現の豊かさ、それにストーリーの上手さ。「卒業生の最後の演奏のプレゼントなんて、絶対喜ぶだろうなあ」と思っていたところ、後輩は泣き顔で「あんまり上手くないですね」。最終回しか観ていないのに、後輩がどのような人物なのか、先輩たちとどのように過ごしてきたのかがわかりました。その後、ニコニコ動画の一挙放送で劇場版も含めて全話視聴することができ、私は無事アニメ好きに成長しました。そこから「涼宮ハルヒの憂鬱」「中二病でも恋がしたい!」など手当たり次第に作品に触れていくうちに、自分もこのような作品を創りたいと思うようになりました。今年は私をこの世界に引きずり込んだ「けいおん!」のアニメ放送から十周年ということで、個人的ではありますがお祝いしたいと思います。そして、私を創作の世界に連れてきてくれた「けいおん!」と、アニメを制作した京都アニメーションに感謝を伝えたいです。