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30.遠くに見えるは

よろしくお願いします。

「君がスパンカーか……」

 プレースの船から引きずり出されて、上陸するかと思っていた大湊だったが、足の痛みで気絶して、回復した時にはまた船の上だった。

「“らしい”雰囲気はあるね。できればもう少しスマートさがあるといいと思うんだが」

 後ろ手に拘束されて甲板に転がされている大湊は、スパンカーの巨躯を見上げた。


 眩しい太陽が逆光を作り出してスパンカーの顔は良く見えなかったが、大湊は見えなくて良いと思った。

 潮の臭いをより濃くしたような鼻を突く体臭に、不潔そうなぼさぼさの髪から想像できる人相は、彼の審美眼を完膚なきまでに破壊しかねない。

 神栖が見たら「洋上での生活が長い」くらいにしか感想を言わないだろうと思いながら、自分がまだ死んでいないことを感謝する。


「それで、堂々たる海賊のボスが、私に何の用かな? ……うっ!?」

 大湊の身体が浮いた。

 胸倉を掴まれたような形で、息苦しいが窒息するほどでも無く、日焼けした首が襟に擦れて酷く痛んだ。

「これは……魔法か……!」


「あれを見ろ」

 スパンカーが最初に口にしたのは命令だった。

 同時に、ぐるりと大湊の向きが変わり、首の後ろを摘み上げられた猫のような格好で海へと向けられた

 大海原が、視界に広がる。


「いい海だね。私の故郷も……」

「黙れ。遠くに見える船は、お前の仲間だな?」

 言われてみると、遠くに見覚えがある艦が見える。

 そして、少し大湊は迷った。

 認めるべきか、しらを切るべきなのか。


「多分、そうだね。だが、この距離じゃあ良く見えないな。もっと近づくか……」

 言いかけた所で、大湊の目の雨にするりと望遠鏡が差し出された。

「便利な魔法だね、スパンカー船長。いや、団長と呼ぶべきかな?」

 首を伸ばしてレンズを覗き込むと、護衛艦“あさかぜ”の姿が歪に見えた。

 原始的な構造の望遠鏡で見えるのだから、あさかぜからははっきりとこちらの姿が見えているだろう。


 だが、それを親切に教えてやる必要はない。

 調査船の姿が見えないことも。

「確認できたよ。確かに私が乗っていた船だ」

「乗っていた、とはな。ふん、口は軽いが覚悟はできているらしいな」

「あうっ!」


 甲板に放り捨てられた大湊は、実のところ絶望はしていなかった。

 自分は殺されてしまうかも知れないが、すでに部隊は目と鼻の先にあり、甲板上の出来事は完全に見えていたはずだ。

 さらに運が良ければ――この状況が既に不運の極みな気もするが――大湊の言葉を拾っている可能性もある。


 であれば、この船にスパンカーがいることも伝わったはずだ。

「後は頼んだぞ、平瀬君。神栖、彼女のことを受け入れ……」

 辞世の句を詠むようなタイプでは無いつもりだが、用済みだと消される直前ともなれば言い残しておきたい事も出てくるものだと内心で面白がっていた。

 言葉の途中で、見覚えがあるフラッシュバンが目の前を転がっていくのを見るまでは。


「馬鹿者だ! 大馬鹿者がいる!」

 叫びながら大湊は痛む足も気にせずに甲板をゴロゴロと転がった。

 スパンカーと他の海賊たちは、投げこまれた小さな鉄の筒が何なのかわからず、甲板を転げまわる大湊の姿を笑って見ている。

 だが、それも数秒で音と光にかき消される。


 フラッシュバン。

 正式にはXM84スタン・グレネード。自衛隊では閃光発音筒と呼ばれる手榴弾であり、攻撃力が無い非殺傷武器だが、強烈な閃光と耳をつんざく轟音をまき散らす凶悪な代物だ。「ぐっ……」

 両手が拘束されて耳をふさぐことが出来ないことを不幸だと思いながら、せめて光からは逃れる為に大湊は縮こまって目を閉じた。


 直後、閃光が甲板上を包み、大湊の鼓膜がかつてないほどのゆさぶりを受けた。

短くて済みません。

次回もよろしくお願いします。

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