26.防衛する者たち
文字数少なくてすみません……。
「艦内にいる全ての乗組員へ命じる。総員、戦闘に備えよ」
船越がマイクを切り替えると、その声は護衛艦“あさかぜ”艦内全てのスピーカーから流れ始めた。
「先日と同様、これは訓練ではない。実戦である。そして、大湊隊員救助へ向けた第一段階であり、情報収集のまたとない好機である」
続けて、船越は「我々は二度敗北した」と言い切った。
「納得できない者もいるだろうが、私はそれが事実だと認識している。一度目は、確保していた容疑者を殺害されたこと。そして二度目は、我らの同僚である大湊を連れ去られてしまったことだ」
もちろん後者は艦として行動した結果では無いが、その油断を招いたという船越自身の悔恨の念がにじんでいる。
「我らは自衛隊である。人を守り、土地を守るが使命。……本国は遠く離れ、帰る方法もまだわからない。だが、いつか帰り着く祖国に顔向けできないような真似は断じて許さん」
艦橋の隊員たちが慌ただしく装備を整えているのを見て、船越はにやりと笑った。
訓練通りだ。
個人携帯の銃を点検し、弾丸の装填を確認。各部署のコンソールや機器の状況を確認し、正常に動作していることを口頭で伝達。
「よろしい。敵はどこから船に乗り込んでくるかわからない。どのような攻撃をしてくるかもわからない。ここは地球では無い。油断はできないが、我々には武器がある! 鍛え上げた君たちの肉体と精神がある! 我らに敵対したことを後悔させてやれ!」
艦内のあちこちで「応!」と叫ぶ声が響いてきた。
「申し訳ないが、ワッチ外の者たちにも念の為起きていてもらう」
安全上、艦内の監視体制を厳にすることを命じると、後は待つのみだだと船越は無線を切った。
そしてふと、先ほど御前崎から言われた神栖のことを思い出す。
「航海長、例の海保の人たちはどこにいる?」
「甲板です。平瀬たち戦闘部署の者たちと打ち合わせ中です。現在は警備任務に移行しておりますので、恐らく同行しているかと」
「ふむ……」
乗船しているのは神栖と酒田の二名だけで、海保からの預かり人員でもある。本来ならばここでは艦内のどこかの部屋で待機してもらうのが筋だろうが、二人とも海上自衛隊での勤務経験がある。
艦内での行動で問題を起こすことは無いだろう。
「別の部署に移動してもらいますか?」
「いや、そのままでいいだろう。御前崎船長にはああ言ったが、戦力が多いに越したことはないし、例の“魔法使い”との戦闘経験もある。戦闘部署の者たちには良い勉強の機会になるだろう。武器は持っているだろうか?」
「訓練予定ですので、持ち込みしているはずです。確認します」
もし弾が無ければ緊急で供与するようにと伝え、船越は目を閉じた。
接敵予定まで数分というところだろう。緊張はしているが、だからといってそれを周囲に見せては隊員たちに余計な負担をかけてしまう。
「異世界の海。海戦、陸戦、船上戦闘。……まったく、この艦は短期間で考えられない程戦闘経験を積んだな」
空気を軽くするための冗談だと分かっている隊員たちは、笑顔で船越の言葉に頷いた。
「ですが、日本に戻っても役に立ちませんよ。空を飛んでいる人間を撃ったり、水上を走る人間を補足する経験なんて」
「いや、そうとも言えないぞ。ドローンの技術が進んで小型の飛行目標が脅威になるのは最早既定路線だ。個人飛行も研究している国家はいくつもある」
「それは戦闘が終わってから話し合ってくれ。今は“戦闘中”だ」
「言いだしっぺは艦長ですよ」
砲雷長と航海長が苦笑いで肩をすくめた。
「では、戦闘後に艦長も一緒にコーヒーでも飲みながら話をしませんか」
「貴重なコーヒーを楽しむには、良い話題とは言えないな」
そう言って、船越は二人の士官からの申し出を受けた。
ありがとうございました。