25.索敵能力
よろしくお願いします。
「すご……」
絶句。
調査船“昇洋”の艦橋に初めて入ったクリューは、自分が乗っていた船とはまるで違う光景を前にして、立ち尽くしていた。
「か、舵は普通なんだ……あれ?」
いわゆる操舵輪を見つけたクリューは、それが誰も触れていないのに動いているのを見て目を丸くする。
「か、勝手に動いてる!?」
「航路を設定すれば自動的に操舵してくれるシステムがあるのです」
「しすてむ?」
困惑しているクリューに、留萌は御前崎の許可を受けていくばくかの説明をしていくのだが、どの程度伝わっているかは誰にもわからなかった。
「技術のレベルが違いすぎます」
「だから安全なのよ」
昇洋は最新型の調査船であり、艦橋のシステムも少人数で操船からデータ収集までシステムで管理されている。
正直に言えば船長である御前崎も、どういう仕組みなのかさっぱりわかっていないのだが、実際に操作する留萌たちと乗船している技師たちに任せておけば大丈夫だと考えていた。
「だから大丈夫よ、クリューさん」
「全然大丈夫じゃないと思います」
留萌はもう少し勉強してくれと言いたげな視線を向けていたが、御前崎はにこやかにクリューの肩をぽんぽんと叩いていた。
「すごい船ですね」
「そうね。でもこれでも小型な方なのよ。護衛艦の方がずっと大きいし、積んでいる武装も強力なのよ」
それでも、新型調査船として護衛艦あさかぜに負けない部分は多々ある、と御前崎は豊かな胸を張る。
「マルチビーム測深機とか深海用音波探査装置、表層探査装置で海の中の形や質がわかるし、波やガス、塩分とかを調べる装置もあるのよ」
「海のことがなんでもわかるんですね!」
御前崎はそれらを利用してエルフの港や周辺海域、そして現在航行中の海域についてもデータを取集するよう指示を出していた。
いずれ自分たちが転移してきた場所も調査する予定だが、そこに存在する何かが自分たちをこの世界に引き寄せたとすれば、逆に帰る方法も分かるかも知れない。
自分の家族のことが気にかかる。そして、隊員たちの気持ちを考えると、何でも可能性があることは探っておきたかった。
「……少なくとも、帰る方法があるかも知れないって希望だけは捨てないようにしないとね……」
小さな呟きは、クリューには聞き取れなかったらしい。だが、留萌には届いていたようだ。
「だからこそ、私も他の船員もまだ船に乗っているんです」
「そう、ありがとうね」
何やらしんみりとした空気になってしまったのを感じたクリューは、御前崎の袖を引いて天井から下がっているモニターを指差した。
「あの動く絵は?」
「あれは……今はどこ撮ってるんだっけ?」
「UAVからの映像です。二百メートル先を飛ばしているだけなので、目視で確認できますよ」
この世界での使用が可能かどうかを確認しながら、近距離の索敵を兼ねての実検を行っている最中だった。
「自分で指示しておいて忘れないでください」
いつものことだからと留萌はそれ以上言わなかった。
エルフの港での探査装置の不具合は無かったし、大気成分にも問題は無いことがわかっているが、電波通信についてはまだチェックが完全では無かったからだ。
「これ、遠くの光景が移っているんだ……」
「鳥みたいに飛べる機械があって、そこから見える光景がここに映るのよ」
「すごい……あれ?」
クリューが海面に何かが映っていると指摘すると、留萌はUAVの操作をしている二人に追跡と画像の拡大を指示し、モニターを見上げた。
「魚ではありません。これは人ですね。海の上を飛行しています」
両手を左右に広げ、海面すれすれの高さを真っ直ぐに飛んでいる何者かの姿がモニターにはっきりと映っていた。
「ほんと、こっちの世界にいるとびっくり人間に事欠かないわね」
魔法なのだろうとは理解できるが、クリューのように風を起こせるとかなら魔法のイメージに合致するのだがと御前崎は無線を手にした。
「留萌ちゃん、護衛艦あさかぜに繋いでくれる?」
びっくり人間は、数百メートル左を航行中のあさかぜに向かっていた。
不安そうなクリューに、御前崎はにやりと笑って右手をひらひらと揺らす。
「大丈夫よ。あっちには今、強襲の打ち合わせで神栖がいるから」
無線が繋がり、船越の声が聞こえると、御前崎は軽い調子で伝えた。
「そっちに敵襲ですよ、艦長どの。生身で熱源も無いみたいだし、低空過ぎてレーダーには映ってないでしょ? うちの神栖を好きに使ってもらって大丈夫だから」
『そうはいかん』
提案に、船越は低く唸った。
「うちの連中も腹を立てている。悪いが、今回は汚名返上の機会にさせてもらおう。追加で情報も欲しいからな」
情報に感謝すると言って、船越は無線を切った。
ありがとうございました。