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24.敵は待っている

よろしくお願いします。

 スパンカーは旗艦の上にいた。

 広い甲板にはいくつもの砲台がすえつけられ、船体側面からもずらりと砲門が突出しており、さながらハリネズミのような見た目だ。

 各所が鉄板で補強され、決して洗練されたデザインとは言えないが、武骨で乱暴な力強さがある。


 その甲板に、スパンカーの巨体を支える“玉座”がある。

 誘拐されたエルフたちが、退屈そうに座るスパンカーの前に座り込んでいる光景は、まるで横暴な王に睥睨する敗北者そのものだ。

「どうか、命だけは……なんでも教えますから……」

 一人の老いたエルフが、震えた声で懇願する。


 彼らは襲撃された漁村とは別の集落で捕まってしまった者たちで、エルフの支配地内にいるはずの日本人たちを探している間にここまで連れてこられていた。

「ハッ、おまえらごときの情報が、おれの役に立つとでも?」

「わ、わたしどもの財産をすべて差し上げます! ですから、どうか!」

「うるせぇ!」


 スパンカーの声は船全体をしびれさせるごとき大きさで、村人たちは震え上がってしまって、それ以上言葉を紡ぐことはできなかった。

 たった一人を除いて。

「お前らは人質だ。例の奴らはエルフと手を結んだらしいからな。連中が降伏するまで、目の前でお前らを少しずつ刻んで見せつけてやる」


「そ、そんな」

 驚愕が一同を包んだ瞬間、高笑いするスパンカーに向けて走り出した。

「俺たちをなんだと思ってるんだ!」

「ふん」

 迫りくるエルフの青年は魔法を使えるらしく、右手の先を光らせている。


 攻撃の正体がつかめないというのに、スパンカーは悠然と座ったままだ。

「くらえ! ……今だ、早く逃げろ!」

 虎視眈々と狙っていたであろう一撃を叩きつけた青年は、自分の勝利を確信したのかすぐに振り向いて仲間のエルフたちに逃げるように叫んだ。

 だが、仲間たちは動かない。


「一瞬だけ、海賊退治に成功した気分を味わったな」

「な……」

 青年の腕から放たれた閃光は高温の炎となってスパンカーを貫いたはずだった。

 一日に一度だけしか使えないが、この魔法で貫けなかったものは今まで存在しなかった。それなのに、目の前にいる巨体には傷一つついていない。


「魔法ってのはな、こういうものを言うんだよ」

「うがっ!?」

 青年の身体が、ゆらりと宙に浮く。

 もがき苦しみ、足をばたつかせる姿は釣り上げられた魚のようだ。

「何をしようとしたか知らないが、この程度じゃあ俺には通じねぇよ」


 スパンカーが拳を握ると、ぐちゃりと音を立てて青年の首が絞られ、もがいていた足はぐったりと垂れ下がった。

「いい見せしめになったな」

「海を汚さないでよ。直接海に入る私にとっては、いい迷惑だわ」

 海へと青年を放り捨てたところで、不機嫌顔のプレースが近づいてきた。


「戻ったか、プレース。その様子じゃ、大した釣果は無かったみたいだな」

「釣果はあるわよ。例の奴らの一人を捕えたわ。日干しにしているけれど、まだ生きてる」

 だが、気分を損ねるようなことはいくつもあるとぼやく。

「まず、あたしの髪が切られたのよ。それだけでも腹が立つのに、あの連中の銃もなんなのよ。連発できるなんて反則よ」


 この世界、大砲からの発展で銃は存在するのだが、未だ火薬と弾丸を順に銃口から装填する先籠め銃のみで、着火方式も火縄か火打石、もしくは魔法くらいなのだ。

 攻撃に特化したタイプの魔法に対応できる銃器は存在せず、護衛艦襲撃時に何度も繰り返し撃てる拳銃を見たが、連射可能な小銃はプレースの目により奇異なものとして映っていたようだ。


「とにかく、今はあたしの船につないでいるけれど、どうする?」

「そうか。なら、こいつらはいらないな」

「そ……」

 エルフたちは抗議する間もなくスパンカーの魔法によって海の中へと放り捨てられた。

 泳ぎを習得しているものなど一人もおらず、全員が必死にもがいて近くの船に縋り付こうとするが、掴まれるような場所などない。


「とにかく、エルフの村を拠点にするのは無理よ。連中は動きが早いし、人数もそれなりにいる。エサはこっちにあるから、放っておいてもここを目指してやってくるわ」

 自分の部下が何人か帰ってこなかったことで、相手に情報が伝わった可能性があることをプレースは言う。

「ならば、そこを叩けばいいってことだ。話は簡単だ」


 人数もだが、船の数がまるで違うとスパンカーは自分たちの有利が海の上ではさらに増すと考えていた。

「連中の船は二隻。エルフが他にも船を持っているかもしれないが、それでも三か四だろう。こっちは二十隻以上いるんだからな。さっさと囲んで潰せばいい」

「でも、前回はそれができなかった」


 スパンカーは鼻を鳴らして自分を指差した。

「それは、おれがそこにいなかったからだ」

 部下全員を本拠地に集め、周囲の海域に哨戒網を張り巡らせることにして、スパンカー自身は一度本拠地の港へと入ることを決めた。

「錨はおろすなよ」


 敵を見つけたら、方位と同時に自分が敵を食い破ってやるとスパンカーは笑った。

ありがとうございました。

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