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22.即時救出作戦

少し遅くなってしまいましたが、よろしくお願いいたします。

 ラぺリングと呼ばれる技術がある。

 主にヘリからのロープ降下のことを指すのだが、これについては海上自衛隊よりも海上保安庁の方が得意だと言われている。

 空中でホバリングしているヘリから垂らされたロープ一本を頼りに、小型の船舶にすら素早く滑り降りてみせる動きは神業と呼んで差支えない。


 しかしながら、海賊たちにとっては数人の人間が紐一本で滑り降りてくる姿も魔法のように見えただろうが、それ以上に大きな音を響かせながら宙に浮かぶ金属の船――丸みを帯びたSH-60Kの形状から、魚に見えた者もいるかも知れない――を見た海賊たちはほんの数秒ではあるが虚を突かれた。

 神栖には、それで十分だ。


「あれをラペリングと呼んでいいのかなぁ」

 ロープの途中から手を離して飛び降りた神栖を見て、ヘリの中にいた酒田が笑っている。

「いいから、あんたも早く降下して。援護射撃するから!」

「ういッス! それじゃ、お世話になりました! お迎えもよろしくッス!」

 平瀬に急かされ、恐怖心など無いかのように酒田もロープに飛びついて滑り降りていった。


 神栖の真似をしたかったのか、酒田も途中でロープを手放したが、膝に絡めていた分がほどけず、逆さになってずるずると落ちていく。

「まったく……」

 平瀬は本来ヘリ搭乗員では無いが、万一の際に神栖たちを救助する役割を与えられて同乗していた。


「器用な兄ちゃんだな!」

 ヘリパイロットが叫ぶ声が耳に届いた平瀬が見下ろすと、酒田は逆さまのままくるくる回りながら、近づいてくる海賊たちをアサルトライフルで一発ずつ打倒している。

「サーカス団みたい」

 平瀬の感想を掻き消すように、SH-60Kからも74式機関銃による威嚇射撃が始まった。


「こりゃあ、凄い! 放水とはやっぱり違うな!」

 7.62mmの弾丸が雨のようにまき散らされている中を、神栖は嬉々として走り回っていた。

 ここは逮捕した海賊、ドムから聞き出した本拠地では無く、エルフの国の近くに臨時で設置されたという、いわばスパンカー海賊団の前線基地とも言える場所だった。

 孤島の一角に複数の小屋を建てただけという粗末なもので、桟橋すらなく、沖合に船を停泊させてボートで上陸するやりかただった。


 そのため、襲撃があっても船に戻るにも時間がかかり、神栖の初撃によってほとんどのボートには複数の穴があけられてしまっていた。

「大湊、どこにいる!」

 叫びながら、手近な小屋の扉をけ破る。

「……ちっ、こいつら……」


 そこには、幾人かのエルフ女性たちが一糸まとわぬ姿で力なく横わたっている光景があり、下半身を露わにしたままの海賊たちが狼狽えている。

「まさか、こういう光景をここでも見るとは思わなかった」

 冷静になるため、一呼吸。

 その間にスリングを滑らせてライフルを背中に回し、慌ててズボンを引き揚げながら勇ましく近づいてきた海賊の顔を思い切り殴りつけた。


「酒田! 要救助者が数名いる。“女性”の派遣を要請してくれ!」

「女性……あっ、了解ッス!」

 あえて指定した理由をすぐに察した酒田は、胸の無線機を掴んだ。

 海賊行為を取り締まる中で、女性が拉致されていることは実際珍しくはない。

 通常は現地の警察組織に任せるのだが、今回は孤島であり、明らかに誘拐されたエルフたちなので、事情聴取のあとでバリヤードに一任することになるだろう。


 小屋の中にいつまでもこもっているわけにはいかない。

「ここにいて。すぐに助けが来ますから」

 何が起きているのか理解できていない様子のエルフたちから視線をそらしつつ告げた神栖は、無線連絡を終えた酒田を出入り口の守りに残し、残りの小屋へと突撃していく。

 ここに至って、海賊たちはようやく対応に乗り出してきた。


「てめぇら、どっから来やがった!」

 怒声と共に錆びついた刃物が振り下ろされてくるのを、神栖は横から刀身を殴りつけて力づくで逸らし、肋骨が砕けるかの勢いで胸に前蹴りを食らわせた。

「あっ」

 と小さな悲鳴を上げた海賊は、倒れる前に気絶している。


「こいつら、戦いには慣れているな」

 右から近づいてきた相手にホルスターから抜いたハンドガンで一発撃ちこみ、銃を戻しながら別の相手を殴り飛ばす。

「だが、やり方が“海の上”だ。それじゃあな」

 狭い場所で集団が戦う時、武器は縦に振るか突きを入れるのが鉄則となるが、主に曲刀を使うスパンカー海賊団の面々は、単純な振り下ろし攻撃が多くなるようだ。


「っらああ!」

 一人の海賊を抱え上げて投げ飛ばし、小屋の壁を破壊してそこから飛び込んだかと思えば、中にいる海賊を残らず殴り倒して出てくる神栖の姿は、酒田からはどちらが悪者かわからないくらいの勢いだった。

「海賊からしたら、強盗と同じじゃね?」


 そんな感想を言っているあいだに、沖合では数隻の海賊船が御前崎らの指揮によって拿捕され、乗っていた船員たちは逮捕された。

 ゴムボートによって上陸してきた女性自衛官たちがエルフ女性たちを保護したころには、孤島の海賊たちは片っ端から気絶させられていた。

 そして、大湊は発見されなかった。

ありがとうございました。

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