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18.怒れる者たち

ちょっと遅れてしまいました。

すみません。

よろしくお願いします。

『船越艦長。たった今私の部下から報告が入ったので、お伝えする』


 港湾調査中の調査船昇洋にいる御前崎から連絡が入った時、沖合の護衛艦あさかぜの艦橋にいた船越は、その声音がいつもの軽さを失っていることにすぐ気付いた。

「何か、問題が発生したのか」

『例の村に向かわせた調査チームのうち、酒田のみが現在港町に帰還中です。貴隊所属の大湊は……海賊に拉致されたとみられる』


 淡々と告げられる事実に、船越は沈黙のまま眉間を強く摘み上げた。

『わたしは今から船員に状況を説明する。そして今後の行動についてバリヤード氏も含めて打ち合わせをするべきだと思いますが?』

 別人のように話している妹に、船越は昔の記憶を思い起こしていた。

「……怒っているな」


『当たり前だ!』

 無線から響いた叫び声に、艦橋の面々が振り返る。

 元より隠すつもりは無かったが、これで秘めておくことは不可能になった。

『わたしたちがいる目と鼻の先で、無辜の村人たちが海賊に襲われ、私の部下が予期しない危険に遭遇し、同じ日本人が攫われた! 船越艦長も……兄さんだって腹が立つだろう!』


 御前崎の言葉には、「自分の失敗を責める」意味があった。

 それがわかっているから、船越は努めて冷静に尋ねる。

「エルフの村が被害にあっているのだから、バリヤード氏に通知して話し合いの場を作ることには賛成だ。私もすぐに上陸する。……しかし、その前に決めておきたい」

 御前崎は沈黙で続きを促す。


「これからどうするつもりだ?」

『決まっている』

 質問の内容を予想していたのだろう。答えが返ってくるのは速かった。

『奪還する。そして首謀者と実行者を逮捕する。それがわたしたちの仕事だ』

「そうか。そうだろうな」


 納得はできる。しかし、船越には一つだけ賛同できかねる部分があった。

「大湊は私の部下だ。それに、我々にも仕事がある」

 船越は手振りで無線を艦内放送に接続するように命じた。

 スイッチの変更はすぐに終了し、部下の一人が頷く。

「我々の仲間である大湊が拉致された。であれば、奪還するのは我々だ! 敵と戦い、日本人を助ける! これは私たちのやらねばならぬことだ!」


 艦橋が静まり返る。

 おそらくは、他の部署も同様だろう。

『……なるほど、道理だねぇ。しかし、復讐したいのは我々だけではないはず。ここはきっちりと役割分担を決めて、連中に誰を敵に回したのか思い知らせてやろう』

「ふん、いつもの調子に戻ったな。では、後ほど陸で会おう」


 無線を切った船越に、艦橋の者たちの視線が集まっている。

「聞いての通りだ」

 噛み締めるように、じっくりと船越はクルーたちに語る。

「改めて、艦内に伝達。装備の点検を行い、戦闘に備えるように。今出せる命令は以上だ」

 ボートを出してくれと言って立ちあがった船越に、艦橋の全員が敬礼する。


「……我々がやるべきことをやろう。その為に充分な実力が君たちに備わっていると確信している」


    ☆


「散々だったな」

「先輩……」

 ガフの先導で多くの村人たちがロックヴィルへと歩くのを、酒田は延々と最後尾で警備をしながら歩いていたらしい。

 激しい戦闘と半日以上にわたる警備での消耗によって、神栖が合流した時、酒田はすっかり消耗していた。


「後は任せろ。彼らを無事に町まで先導する」

「先輩がいるなら、安心ッスね」

 そんな言葉で任務を譲った酒田は、気絶するように眠りについた。

「やれやれ、どこでも眠れる奴だな。ガフさん、馬車の荷台を空けてもらってもいいですかね?」

「もちろんだ」


 馭者をしていたガフは、砂で汚れた顔で笑ってみせた。

 神栖も笑みで返す。

「状況を教えてもらえますか」

「もちろんだ。……その前に、謝罪をさせてくれ。ワシらの為に、あんたの仲間が海賊に連れ去られてしまった」


 周囲のエルフたちも顔を伏せ、中には「申し訳ない」と呟いている者もいる。

「待って。ちょっと待ってください」

 手を振って、神栖はエルフたちを止めた。

 謝罪を受けたくもなければ、被害者であるエルフたちが謝っている姿も見たくは無かった。


「まず、あなた方はご自身のことを第一に考えていてください。俺の上司がバリヤードさんに掛け合って一時的にでも保護して貰えるように話していますから」

 もし受け入れがされなくても、食事と休息場所くらいはどうにかすると神栖は断言した。

 食料も野外での宿泊用具も数百名の村人を収容するには心許ない数しかないが、こういう場合ははっきり「大丈夫だ」と誰かが言うべきなのだ。


「それと、海賊に攫われた奴は大湊という奴で、ご心配頂けるのはありがたいが見た目ほどヤワな男じゃない」

 神栖は笑顔でそう言った。

「カミス……」

 しかし、すぐ近くで聞いていたガフは、声に少しだけ震えが含まれることに気付いた。


「防衛大学校という場所で、俺はあいつと一緒にそれはまあひどい訓練を受けた。クソ重い荷物を担がされて山を登り、手が擦り切れるようなボロボロのロープを昇っては落とされる。不味い非常食を共に食べて、愚痴を言ったもんだ」

 延々と泳がされたり、濁った海の中で素潜りをして波にさらわれそうになったり。

 正式に配属が決まるまで、血と汗の日々だったと思い出が溢れてくる。


 だから、と神栖は大湊という人物を見損なわないでくれと言った。

「あいつは妙に目立ちたがり屋で、伊達男を気取っては失敗して愚痴を言っているような奴だが、本物の自衛官だ。そう簡単にくたばったりはしない」

 長くなったが、ようするに奴は大丈夫だと伝えたかったと話す。

「でも、相手はあのスパンカー海賊団だろ?」


 村人の誰かが声を上げたが、神栖は動じなかった。

「そうだな、だが所詮は海賊だ。そして俺たちは海上保安庁。大湊は海上自衛隊。わからないだろうけれど、海賊退治の専門家だと思ってくれ」

「海賊退治……どこかの軍隊なの?」

「難しい質問だなぁ。ちょっと違う」


 この世界、軍事組織である兵が警察組織を兼ねていることが多く、エルフの国も同じだ。違いを説明するのは難しい。

神栖は肩をすくめた。

「俺たちは誰かを殺したり侵略したりするための武力は持っていない。だが誰かを守る力ならだれにも負けない」


 そう、海賊なんかに負けるような俺たちじゃない。

 必ず大湊を救出し、海賊を捕まえる。

「そして皆の、落ち着いた今までの生活を取り戻すから、どうか、情報をくれないか。俺たちに、協力してほしい」

 神栖の言葉に、誰もが同意するように頷いていた。

ありがとうございました。

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