表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trick & Magic  作者: tema
誰が善人を殺したか
5/40

誰が善人を殺したか【調査編】

迷宮で化物に倒され、死ぬことはままある。

それは仕方がない。そのリスクを負って探索するのが、俺たちだ。

だが、化物ではなく人間に殺されたとなれば、これは大問題だ。


化物という共通の敵に対し、人間は――ンゴイブのような亜人を含む――協力し合って探索している。

確かに、罠や安全地帯の場所は他パーティに教えない。だがそれは、あくまで"競争"であって"敵対"じゃない。

俺たちクィンクは、リーダを失ったジュニエを無事に連れ帰ろうとした。

ベテラン揃いのセニトゥは、探索を切り上げて同行してくれた。


敵は化物。人間同士は協力。

そこは大事なところだ。


もし、

自パーティや他パーティに、意図的に危害を加える者が居たなら、

そんな者が居たら、とても探索などやってられない。


教会での"復活"というチートがあるにせよ、完璧じゃない。

探索者にとって死は――"復活の失敗"という本当の死は、常に身近にある。

だから、これは探索者ギルド存続に係る重大事だ。


========

「化物に殺られたんじゃないってのは、確かなの?」

日本酒に切り替えたシノブが言う。


迷宮内の化物は、倒すと塵に還る。

アインと化物が相打ちになれば、アインの遺体だけが残ったことに説明がつく。

だが、


「アインの後頭部は、モーニングスターの一撃で陥没していたわい。それは間違いない」

モーニングスターを得物としているチョムスが言う。

「モーニングスターを使う化物など、おらんじゃろう」


メイスの先に鎖で繋がれた棘付きの鉄球。

遠心力を利用して、その鉄球を相手に叩き込むモーニングスターは、習得が難しい。

迷宮内では様々な化物が現れるが、習得が困難な武具を使う化物は見たことがない。少なくともモーニングスターを使う化物は、俺も聞いたことがない。


「じゃ、罠は?」

「あのエリアにそんな罠が仕掛けられてないことは、僕が確認したよ」

シノブの問いに、今度はマルクが応える。


化物でなく罠もない。

と、なれば答えは限られる。

「でも!」

シノブがテーブルをブッ叩く。


「ジェロニムがアインを殺しただなんて、私は絶対信じない!」


シノブの叫びは、皆のしらけた視線で返された。

「あ、あれ?」

なんかヘンだぞ、そんな顔をするシノブ。


「確かに、ジェロニムはジュニエの僧侶だ」

ンゴイブ、チョムス、マルクに"お前が説明しろ"と視線を向けられて、俺はしぶしぶ口を開く。

「そして、モーニングスターは僧侶の武器だ」


「でもジェロニムは、アインのことを尊敬していた!」

叫ぶシノブを手振りで黙らせる。

「だが、ジェロニムの得物はメイスだった」


カッチ、コッチ、カッチ、コッチ


ぽん。

数秒後、シノブが手を叩いた。

「そっか!」


頭痛が痛い…

シノブ以外の3人がそんな表情で眉間を揉んでいる。

シノブは有能な探索者で、優秀な侍で、頼りになる仲間だし、顔も美人だ。

ただ、色々と残念な女なのだ。

だからマルク、"ヒューマンの知能は、ちょっとどぅなんだよぉ"という目で俺を見るのは止めてくれ。そもそもシノブはハーフエルフだ。


「でもジェロニムでないなら、モーニングスターを持っていたのは…」

そう呟くと、シノブはハッと何かに気づいてしまった顔で、チョムスを見つめる。


見る見る顔色が青くなっていく。

「まさかッ、チョムスがッ」

「んなワケあるかーーーッ!」


思わずツッこんでしまった。

不覚だ。修行が足りん。


「チョムスは俺たちとずっと一緒に居て、お前も見てただろう」

俺の言葉に、こっくり頷くシノブ。

「彼にモーニングスターを振るうチャンスは有ったか?」

「ない」


数秒後、ハッと何かに気づいた顔をするシノブ。


========

「ナンコツ揚げと生中2ツ、お待ちっ!」


この店のナンコツ揚げは、歯ざわりがなんとも美味い。

ソースをかける者が多いが、俺はそのまま頂く。

口に残る仄かな塩味と油を、冷えたビールで流し込む。

くぅ~~~~っ!!


「じゃぁ、アインを殺したのはセニトゥの僧侶?」

シノブの問いに、首を横に振るンゴイブ。

否と応えは返したものの、それ以上説明する気がないンゴイブの代わりに、チョムスが口を開く。


「セニトゥの僧侶はモーニングスターを持っとった。だが、離れすぎとる」

殺害が可能か不可能か、というなら可能ではある。

闇領域でアインを殺害し、急いでその場を離れる。

そして何食わぬ顔で、こちらに向かってくる。


「もしそうなら、セニトゥ全員が共犯者だねぇ」

マルクが羽つき餃子を摘みながら言う。

「さすがに、そんなワケないよね」


ちなみに、この店には醤油も、ラー油まであるのだ。

異世界でも餃子が食べられる。ありがたき幸せ。

つくづく俺は幸運だと思う。


「そしてセニトゥの僧侶のカレンは、最近アインと付き合いだしたばっかりじゃ。動機がないな」

ガタンッ!!

俺の言葉に、椅子を蹴倒して立ち上がるシノブ。

どした?


「そんな…」

その一言だけを呟き、崩れ落ちるシノブ。

テーブルの下からすすり泣く声がする。

ああ、そういうことか。


この女、かなり惚れっぽいのだ。

しかもイケメンに弱い。

アインはエルフで、もちろんイケメンである。

ちなみにジェロニムもエルフ。イケメン。


「でもそうなると、誰がアインを殺ったんだろう?」

"ず~~~ん"と音がしそうなほど落ち込んでいるシノブを無視して、マルクが話を戻す。


「アインを復活させても、背後から襲われたんでは顔を見とらんだろうしの」

チョムスも、流石に無視を決める。

ンゴイブは、店員が持ってきた大根サラダ(大)に夢中になっている。


テーブルの下から声が出る。

「あんな良い人を殺そうだなんて、誰が思うの?」

失恋した惚れっぽい侍なら、思うかもしれん。

冗談はさておき、確かにアインは良いヤツだ。


レベルはさほど高くないが、慎重で面倒見の良い彼は、ひよっこ探求者の育成に力を注いでいる。

ジュニエのメンバも、アイン以外はレベル3~5程度のひよっこだ。

現在、高レベルの者にも、その昔、彼に世話になった者は多い。

だから迷宮内でも、ジュニエを俺たちの後ろに配置し、俺たちが露払いを行うつもりだった。


ふと、違和感を感じた。

さてみなさん。

ここで数分お時間拝借し、アインが死んだ経緯を考えて頂きたい。

とはいえ数分以上考え込む価値は、多分ナイ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ