500年前の死者が問う世界の真の姿【問題編】
瀬戸内海に浮かぶ直島。
地中美術館に、このインスタレーション――”TIME/TIMELESS/NO TIME”は在ります。
作者であるウォルター・デ・マリアは、この作品の意味を誰にも告げぬまま亡くなりました。
なので、これはtemaの勝手な解釈です。
出来るなら実物をその目で見、ご自分の解釈を得られんことを。
9/14追記 図が一部間違ってましたので修正しました
「此処が私たちの居た地球だと、納得して貰えました?」
せざるを得ない。
目の前にあるのは、麻倉が作らせたニュートン式反射望遠鏡。倍率は100倍程度だろうが、充分だった。
此処が異世界だという何よりもの証拠。宙に浮かぶ第2の月。
アレは偽物だ。
望遠鏡を使って初めて判る。
その表面には幾何学的な模様が刻まれ、人工物である事を示していた。
月と同じ周期で回っているのだから、地球との距離は月と同じ。約38万km。
そんな遠くに在るのに肉眼で見える。
信じられないほど巨大な構造物だ。
何だってあんな物を造ったんだろう?
俺の問いは決して答えを期待したものじゃ無かった。
「知りたいですか?」
そんな言葉が麻倉から出るとは思わなかった。
「あの人工物は、月のトロヤ点に位置し、円筒形で回転しています」
表面の幾何学模様を観察することで、回転していることが判ったそうだ。
「月軌道に影響が無いことから密度は低い――つまり中空と思われます」
ん?
トロヤ点――ラグランジュポイントで回転する中空の円筒形って、それはつまり。
「スペースコロニです」
大きさと回転速度から、内側に発生する遠心力は1/6G。
ほぼ月と同じ重力だ。
ウサギでも住んでるのかな?
「猿が住んでいる、と伝説にはあります」
なぜ猿?
それはともかく。
「此処は異世界では無く、私たちが住んでいた地球。但し2000年近く未来の地球」
俺たちの住んでた地球に、魔法は無かった。
だが俺は知っている。
充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
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江戸時代の人にも、自動車や飛行機は機械だと判るかも知れない。
複雑にはなっているが、その原理、理論は江戸時代と左程変わって無いからだ。
だが電算機、液晶、核反応、遺伝子操作。お前らはダメだ。
ソレは江戸時代には理論すら無かった。
その理論を知らぬ者に、ソレは魔法と見分けがつかない。
たった200年で、科学は魔法に変わる。
2000年の差が有れば、魔法としか思えない科学技術は発達しうる。
だからこの世界の魔法は、おそらく背後に膨大な科学技術を抱えている。
科学技術に支えられた夢の国。それが、この世界だ。
「そんな科学技術なら、私たちを転移させる事ができるかも知れません」
実際、転移してるしな。
「死んだ私たちを、若い姿で生き返らせることだってできるでしょう」
その方法は問題じゃない。そこは考えても仕方ない。だって俺たちには魔法と見分けが付かないのだから。
「でも何故」
転移させたのか――
人生を繰り返させるのか――
異世界での記憶を引き継がないのか――
其処には何者かの意志が、目的がある。
「私は、それを知りたかった」
どうしても知りたかった。そう言う麻倉の目は俺を向いているが、その瞳に俺は映っていない。
「その答は、此処に在るんですよ」
チャールズ――と、麻倉は人鼠を呼ぶ。
「101号室の鍵を」
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扉が開くと、白い世界が広がった。
最初に目に映ったのは黒い球体。どうやって作ったのか、石と思えるその球体には全く歪みがない。
その部屋に入る。
壁も天井も床すらどこまでも白く、所々に3本セットで固定されている黄金の柱が宙に浮いて見える。
部屋の奥は床がそのまま階段状に上り、踊り場に黒い球体が設置されている。
その後ろにはまた階段状の床。その奥には3本セットの黄金の柱が見える。
これは、何だ?
「芸術作品です。作品名は”時/永劫/刹那”」
まぁ綺麗であることは認める。
「作られたのは500年ほど前。芸術家にして科学者、万能の天才と謳われた人。名は伝えられてません」
レオナルド・ダ・ヴィンチみたいな人だな。
「作らせたのは国王。彼がこの作品に謎を込めた」
謎?
「先ずは、あの石の処まで行きましょう」
階段状の床を上り、黒い球体の石に近づく。
奥に回ると、石に文字が刻まれていた。
――此が何かを知る汝
――刹那の時の長さを示せ
――そして我を呼べ
なんじゃこりゃ。
「リドルよ」
リドル?
「一種のなぞなぞ。RPGをクリアするために必要なイベント。そう思って下さい」
Wizardry#3の”傍に在れど見えず、無くば声も出せず”――みたいなヤツか。
「この謎に正しく答えれば、封印が解けます」
封印?
何の?
「”叡智”の」
確かに”叡智”には制限がある。
この島以外の地図は出ず、科学技術も歴史も、俺たちが来た世界の事しか検索できない。
情報が無い訳ではない。
“権限がありません”そう応えが返るからだ。
今が何月何日かは教えてくれる。
何時何分かも教えてくれる。
だが今が西暦何年か、その情報へアクセスする権限は、俺に与えられていない。
麻倉は、おそらくその制限が解除されている。
全てを知ることが可能だ。
俺たちを転移させた理由
俺たちに人生を繰り返させる理由
異世界で過ごした思い出を引き継がない理由
麻倉は全てを知ったのだろう。
「でも、理由なんて――
麻倉は呟きも途中に、俺を置いて部屋を出て行った。
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別に俺は閉じ込められているわけじゃない。
この館から出て行くのも勝手だ。
だが、麻倉はこの謎を解いた。
そして、俺たちが転移・復活する理由を、何者かの動機を知った。
多分、それが麻倉を打ちのめした。
それを知って、どうなるものじゃない。
ぶっちゃけ、俺はあまり興味がナイ。
だが、麻倉が解いた謎。それを俺が解けないのはイカン。
先輩としての威厳が保てない。気がする。
部屋の隅々に目を走らせる。
石に刻まれた3つのリドル以外に、印などは無い。
壁、天井、床は白一色。
ただ、壁に3本セットで固定されている柱。これに特徴があった。
木材に金粉を塗ったのか、太さ15cm高さ50cm程度の柱が3本セット。
同じ色、同じ材質、同じ太さと高さ。但し柱は3種類ある。
三角柱・四角柱・五角柱。
それぞれ断面が正三角形、正方形、正五角形になっている。
そして3本の組み合わせが全て異なっていた。
3種類の柱を3本セットにする順列組合わせの数は?
答えは3×3×3=27通り。
この部屋には、27組の3本柱が設置されていた。
1日かけて俺は謎を解き――
ふと、違和感を感じた。
さてみなさん。
ここで数分お時間拝借し、この芸術作品の意味を考えて頂きたい。
次話でtemaの解釈を示しますが、それが正解かは最早誰にも判りません。




