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Trick & Magic  作者: tema
残された指紋が告げる犯人
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残された指紋が告げる犯人【捜査編】

俺が犯人だ。

そうであってほしい。そうであれ。そうに違いない。むしろ全力を尽くしてそうする。

そんな雰囲気の使用人たちから逃げ出し、俺は凶器を確認しに行った。

シノブが付いて来た。


凶器の処には先客が居た。

パラケルススだ。

横には治安部隊専属の絵描きが立ち、現場を描き写している。カメラが無いこの世界では、重要な仕事である。


「もう大丈夫です」

絵描きの許可が降り、凶器を持ち上げようとするパラケルスス。

素手で。


ちょっと待ったーッ!


「なんじゃ、大声で」

いやいや、素手で凶器触っちゃダメでしょ。

「む、毒が付いておると?」

そーでなく。

まず、指紋(デグモハ)を採らないと。


「デグモ…なんじゃと?」

なんですと?


========

信じられぬことにパラケルススは、捜査に於ける指紋の重要性を知らなかった。つか言葉さえ知らなかった。

指紋(デグモハ)という単語があるのに。


かくかくしかじか。

俺の説明に目を丸くして聞いている。

と、自分の指、絵描きの指、俺やシノブの指まで見て更に目を丸くする。


絵描きを走らせ、持って来させた片栗粉で試してみる。

「む、おぉ…」

何とか浮かび上がる

「驚いた。これは捜査に革命が起きるぞ!」

いや、知らない方が驚いたよ。

横で目を丸くしてるシノブ。いや、お前が知らんでも驚かない。残念な娘だから。


「お前ら!」

パラケルススが大声を出す。

「このことは、誰にも言ってはならんぞ」

うって変わって小声で言う。

いやいや、貴方が知らんだけで普通知ってるって。


一種、畏敬の目で俺を見るパラケルスス。

「いや、お主が来た世界では常識だったかも知れんが、こちらでは大発見なんじゃ」

絵描きと一緒に、慎重に指紋採取しだすパラケルスス。

これは暫く話しかけない方が良さそうだ。


ふと上を見ると、ベランダの手摺が見えた。


========

俺たちは、ぐるりと回って現場の上、ベランダに来ていた。

挿絵(By みてみん)

館は高台に建っており、館内庭園の外壁は一面窓だ。遠く海までが見通せる絶景。犯行当時は、きっと朝日が眩しかっただろう。

下ではパラケルススの後頭部が光っている。

豪勢な造りのこの館。天井は高く、パラケルススの後頭部まではかなり遠い。つか館内に木が生えてるってどゆこと?


此処からメイスを落とせば、丁度頭に当たるんじゃないか?

そう言う俺の顔を、不思議そうにシノブが見る。

「なんでそんな面倒なことするんだ?」


此処から飛び降りれるか?

シノブはちょっと下を見ると、首を横に振る。

「出来なくは無いが、足を痛めそうだ」

地上階までは20mくらいある。


此処に来るには、一旦広間に出て螺旋階段を昇り――つまり大回りすることになる。

わざわざメイスを取るために、そんな事をする必要は無い。メイス以外にも、この館には凶器になり得る武具が山とある。


「メイスは、この鎧が支えてたのか」

鎧兜が両手を重ねた状態で前に出している。メイスが無いとちょっと間抜けな格好である。

この鎧、どうやって支えてるのかな?

「中に金属製の骨組みが見えるな」

後でパラケルススに聞いたところ、亜鉛製の骨格が壁に固定されていて、中に人が隠れる事も動かす事も出来ないらしい。


何かの拍子でメイスが床に転がったとする。

「手摺の下には隙間がある」

そこから落ちたメイスが、頭に当たれば。

「そんな偶然、有るわけ…」

コホン。

その場を保全してる治安部隊員が口を挟む。

「一応、調査しました」


「確かに、手摺の下には隙間が有ります」

でもメイスが通る程の幅は無いらしい。

「微妙なところですが、メイスは通りません」

でも差は数mm。何とかならん?

「なりません」

ケチ。

手摺は金色に輝きこんなに豪華なのに、メイスの1本も通さないとはケチだ。ドケチだ。

「これは真鍮製だから、そこまで豪華じゃないぞ」

いやシノブ、そういう問題じゃナイ。


========

為せば成る

為さねば成らぬ何事も、だ。

成らぬは人の為さぬなりけり。

やってみた。

ダメだった。


メイスはバットに3つ輪っかを付けた形をしている。この輪っかは溶接されていて外せない。

そしてこの輪っかのせいで、どうしても手摺の下を通らなかった。


だが、諦めきれない。

諦めたらそこで試合終了だよ。いや、そーでなく。


ベランダの石造りの床は傷がつき、鎧の手からメイスが落ちた事を示唆している。

床は多少傾いており、メイスに付けられた輪っかは円形。多少乱暴に置けばメイスは手摺側へ転がることが確かめられた。


何かの拍子に鎧の手からメイスが落ちる。

メイスは転がり、地上階に落ちる。

そこに偶然、侯爵の頭があった。

そうであれば、これは事故だ。

でもそうでなければ――


麻倉が犯人だ。

========


北東領域には大きな窓もある。

そこから館に侵入することは不可能では無い。実際、ちょっと苦労したが外に出ることができた。

これは、侯爵の館としては少々セキュリティ面に問題アリ――と思ったが、そんなことは無かった。


東側の草原は断崖絶壁を経て海に続き、北側は3棟の教会群が侵入を阻む。

教会と館の間には馬車も通れそうな隙間があるが、館の正門には衛士が365日24時間待機しており、見咎められずに侵入するのはムリ。


実は教会群のステンドグラスが外れて、北東領域に侵入できるとか無いか?

無かった。

そもそも教会に侵入するのでさえ至難の業。館の門番と厳重な鍵を超えなけりゃならない。

治安部隊が調べたところ、ステンドグラス自体もしっかり壁に付けられており、微動だにしなかったらしい。


「それにしても凄い教会ね。壁一面がステンドグラスよ」

遠目には、東京の超高層ビルをちょっと思い出すような建物だ。

拭き掃除が大変だろーなー


そして、すそ広がりの壁から滑らかに地面に続く部分までステンドグラス。

そんなビルは東京にだって無かった。

反射率の高いガラスに写る景色は空。

青空に、何匹かの羊雲が浮かんでいる。


門番の衛士に黙礼して再び館に入る。

見つけた(エウレカ)!」

その時、声が挙がった。

俺は顔を上げ、シノブと目を合わせると、慌てて広間へ続く扉を開けた。


========

「貴女が犯人ですね」

頬を紅潮させた絵描きが言う。

彼の指先はメイド、メグさんの見事なまでに盛り上がった胸を指している。


どういうことですか?

俺は横に立つパラケルススに聞く。

「指紋が合致した」

ちょっと難しい顔のパラケルススが囁く。

「ただ――

「あんた、何言ってんのよ!」

メグさんが爆発した。


「なんでアタシが旦那様を殴るのよ!」

「残念だが、証拠が検出された」

「だから、その証拠ってのを見せなさいよ!」

「部外秘だ」

話が噛み合ってない。


パラケルススが俺を隅に招き、絵を見せた。

凶器のメイス、それから検出された指紋の位置だ。

「確かに指紋は検出された」

だが

「人差し指と親指のみじゃ」

挿絵(By みてみん)

後の指は、指があるべき位置には何の痕跡も無かった。

被疑者のメグさんは敏捷だが非力なエルフ。指は5本揃ってて、メイスは指2本で振り回せるほど軽くない。


つまり――指紋が拭き取られていた。


ふと、違和感を感じた。

さてみなさん。

ここで数分お時間拝借し、"誰"が罪を犯したのか考えて頂きたい。

ただし、2段落ちの1段目です。考え込む価値は、多分ナイ…

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