吸血鬼の殺人【調査編】
「久しぶりだな」
ご無沙汰しております。
俺は魔術の師匠を訪れていた。
こっちの世界に転位した後、俺を魔術師として鍛えてくれたお方だ。
この人がもぅ、ちょー厳しい。
「どうした、レベルアップして新しい魔術を習得しに来た訳じゃないんだろう?」
ちょー厳しいのに、レベルアップの都度、教えを受けねばならん。
レベルアップしたくもあり、したくもナシ。
でも今回は、別の教えを受けに来た。
暫く来ない間に、師匠の部屋にはビール瓶が増えていた。
空気を冷やし固める、そんな魔術はありますか?
俺の言葉に師匠は眉をピクリと動かし――
「修行は厳しいぞ」
と言った。
「地下に来い」
地下には修行場がある――ってちょっと待って!
今日は修行しに来たんじゃない。そうじゃ無いんです!
そんな魔術の有無を聞きに来ただけ。
あると分かれば、呪文を教えて貰わなくてOK。
俺がそう言うと、師匠は残念そうな顔をする。
「お前には向上心が欠けている」
今後の魔術の発達が云々――と言おうとする師匠を止める。
“氷結” や”氷塊”は、空気中に含まれる僅かな水分を集め、氷を作る。ならばそれを応用し、空気中の僅かな成分を集め、固体化する魔術も可能な筈。
その様な魔術が――
「うむ、在る」
師匠は重々しく頷いた。
スコッチ党の師匠の部屋に、何故か数本あるビール瓶。しかも栓が開いてない。
その魔術の修行は、ビール工房で行う方が良いのですね。
「お前、何故それを?」
蓋も開けずにそのまま朽ちさせるのは勿体ない。しかも常温保存とはなんたる所業。そのビールちゃんは私が引き取りましょう!
手を伸ばす俺を師匠は止める。
「お前、そんなことの為に来たんじゃないだろう」
はっ…
俺のいた世界でその物質は、ドライアイスと呼ばれていました。
氷より冷たく、融けても水にならない。そして抽出する成分――二酸化炭素は、ビール酵母が大量に発生させます。
師匠は頷く。
「そう。元々はビール工房から、毒となる気体を取り除けないかと言われた事が切っ掛けだ」
そして、少し残念そうな顔をした。
「魔術の構築時、最も苦労するのは、生成物の概念を掴むことだ」
だが、と師匠は俺を見る。
「お前は既にその概念を持っている。異世界人ならではの知識、発想。それを新たな魔術の開発に活かせばお前は――」
その発想を持ってきたのは、シオンですね。
師匠の動きが止まった。
========
と、いう訳でシオンは多分、俺と同じ異世界人だ。
その知識でドライアイスを作る魔術を構築し、それをアイスちゃん保存に使っている。
定宿の食堂を借りて、クィンクの皆に今日の成果を報告する。
「金髪碧眼なのに異世界人?」
確かに、そこは謎だ。
マルクの言葉に、俺は頷く。
この世界に転移する異世界人は、全員ニホンから来た者と言われている。顔は平たく、髪も目も黒い。
だが、例外はあるかも知れない。
「仮に、シオンが異世界人じゃったとしよう」
テーブルを指で叩きながらチョムスも言う。
「彼が異世界人じゃと、密室の謎が解けるのか?」
はっ…
解けません。
「無駄骨折りに終わったモリスの調査は置いといて、こっちの調査は成果があった」
拝聴いたします。マルク先生。
「あの建物は、山側――南側の壁が異常に厚い」
?
「秘密の出入り口があるかも知れない」
そこでじゃ、とチョムスは俺に詰め寄る。
「お前のコネを使わせてくれ」
========
これはコネか?
コネなのか?
「お前のたっての頼みだから、見せてやるんだぞ」
とレストンは言う。
でもさ、事件解決に必要な調査だよ。
そして任務依頼したの、治安部隊だよ。
なのに何で俺がレストンに借り作ったコトになってんの?
現場の南側。壁一面の本棚。
その一部が隠し階段への入口になっていた。
階段は下に続いている。
3~4階分くらい降りた頃、扉が有った
「この先に部屋があるが、出口は無い」
扉が開く。
「そして、此処で見たことは他言無用だ」
「何じゃこりゃぁ?」
チョムスが呆然と呟いた。
他の者たちは、言葉も出せずに目と口を開いていた。
俺?
俺も同様。
ただし、俺は他の者とは違う理由だ。
此処にこんな物は無い筈だ。
こんな物は此処には存在しない筈だ
俺にとってそれは見慣れた物だった。
「これをどう扱ったものか、私も悩んでいる」
レストンが言う。
「コイツは一体…」
「何なのかも判らん」
取り敢えず機密扱いにしたが、そもそも機密にすべき物かも判らんとのことだ。
俺は知っている。
コレは機密だ。それも超弩級の。
コネが有ろうが無かろうが、余人に見せちゃいけないヤツだ。
「この900って、何だろう?」
シノブが言う。
それは、排気量だ。
俺の前にある物は、俺が、俺だけが見慣れた物だった。
燃料タンクには、音叉を組み合わせた紋様がある。
何故、こんな物が此処にある?
何故、異世界に日本製の自動二輪車が有るんだ?
========
遺体の所持品を見せてほしい。
俺の表情と声に何かを感じ取ったレストンは、横に待機していた治安部隊員に指示し、所持品を取りに行かせた。
残されていた所持品の中に、俺が探していた物があった。
「その紋様、同じだな」
マルクが目敏く見つける。
ああ、このバイクのスマートキィだからな。
俺の言葉は多分皆には伝わらない。
俺はその鍵を手に、バイクに近づく。
立ちゴケしたのか、クラッチレバが折れていてグリップエンドに傷が有った。
ギアをニュートラルに入れ、スタータボタンを押す。
セルが回り、3気筒エンジンがDOHCの鼓動を響かせた。
嫌な臭い。だが懐かしい臭い。排ガスの臭い。
聞きなれた騒音。この世界には無い排気音。
気づけば、俺の頬を涙が伝っていた。
ふと――否、強烈な違和感を感じた。
さてみなさん。
ここで数分お時間拝借し、どうやって密室を作ったか考えて頂きたい。
とはいえ数分以上考え込む価値は、多分ナイ…
【解決編】は明日(9/1)、投稿します。




