パーティの紹介代わりの三段
「チョムス、こっちだ」
侍が手と声を上げ、パーティの面々が近づいてきた。
「彼は魔術師のモリスだ。私が見たところ、中々いい腕をしている」
侍の紹介に見渡すが、肝心の人が見当たらない。
「モリス、彼がリーダのチョムス」
老人のように見えるノームが右手を差し出す。
オッ…コッ――鉄壁
彼がフサフサとした眉毛を上げ、微笑む。
「判断が早い。緊急時の詠唱も滑らかじゃ」
見かけと異なりこの爺さん、ベラボウな握力だ。
“鉄壁”――身体の耐久性を高める呪文を唱えなけりゃ、手を握りつぶされてたかも。
「戦士のンゴイブだ」
次は、2mはありそうな蜥蜴人だった。
「ドウモ」
喉の構造上、発声は苦手なようだが瞳には知性が感じられる。
「んー、マルクはどこ――痛ッ」
ホビットの男が侍の向う脛を蹴飛ばした。
「や、よろしくぅ。コイツ、今は猫被ってるけどじきに――痛ェッ」
にこやかに挨拶した彼は、途中から侍と喧嘩を始めた。
とは言っても、喧嘩するほど仲が良いって感じだ。
ところで、他にメンバは?
「いや、パーティ・クィンクは今のところ、この4人じゃ」
あれ、でもほら、そのあの
評判の美女はどこ?
ばっちーんッ!
思いっきり背中を叩かれた。
メチャクチャ痛い。
背骨が折れたんじゃないかと思うくらいだ。
「やっだーもぅ、そんな"評判の美女"だなんてぇ」
振り向くと、侍が体をくねくねさせながら赤くなっている。
顎が、落ちた。
「なぁ、"評判の美女"って誰から聞いた?」
マルクの質問に、俺は侍を指差す。
「お前っ、自分で美女とか言うかぁ普通」
「まあ一種、"評判"じゃあるがの」
女性?
なの?
ギンッ!
思わず声に出してしまったのだろう。くねくねしたポーズのまま、侍の視線に殺気が乗った。
いやっ、あの鋭い剣戟が女性のものとは思えず!
視線が和らぐ。
「もう、誰が見ても女性じゃない。細いウエスト、豊かなバスト…」
――どこが?
ギンッ!
言ってない。今度は声、出てない。
顔には出たかも。
「おい」
ささやき声でマルクが言う。
「こいつ――シノブの前で胸の話は厳禁だ」
御意。
そして、ハーフエルフの侍の名がシノブであることが判明。
ところで、と俺は話を変える。
俺は実はレベル1で、皆さんのような高レベルのパーティに入るのはちょっと…
「ん?」
「?」
「は?」
「私たちもレベル1だが?」
えっ?
でもほら、侍じゃん。エリート職じゃん。
レベル10は行かないと就けない職だよね。
「時々、生まれつき豪く能力が高い者が居るんじゃ」
彼女がそうだと?
「私、まだ迷宮に潜ったこと無いよ」
堂々とシノブが言う。
「こいつが探索者ギルドに入った時、そりゃもう大騒ぎだったよ」
マルクが遠い目をして言う。
「この能力だし、外見だし」
でもな、とマルクはため息をつく。
「すぐ性格がバレた」
残念だったんだな。中身が。
「残念って何よッ!」
いくら能力が高くても、最初から侍になるのはお勧めしない。
レベルが高く装備が良ければ優秀な探索者になるが、成長が遅く死にやすい。
この世界では、教会での"復活"という裏技がある。
だが、その技を使うには金が必要になる。しかも、恐ろしく高い。
そして時間制限もある。
当日ならほぼ100%復活できるが、翌日になれば復活率は急激に下がる。
翌々日の朝と共に、そいつは逃れようの無い死を迎える。
「引き取り手が無くてのう、丁度同じ時期に参加した儂らに押し付けられたんじゃ」
「そ、そんな言い方って!」
なにやら騒がしいのが約1名。
「まぁ、魔術師を釣り上げたんだから、良しとしようよ」
釣られたの?
釣り上げられたの?俺
正直、他のパーティの方が安全に早くレベルを上げられるだろう、とは思った。
でも、なんかこのメンバに惹かれるものを感じた。
――迷宮内で大事なのは、パーティの纏まりです
――メンバーとの相性、それが最も重要です
訓練所での講師の言葉が脳裏を過ぎる。
俺はチョムスに手を差し出した。
その手を、今度は適度な力で握り返すチョムス。
その上に、蜥蜴人の大きな手が置かれ、続いてホビットの小さな手も置かれた。
そして、シノブが俺に腕を絡め、その手を皆の手の上に置いた。
ところで絡められた腕に、何かが当たっている。
すごく…硬いです。
――胸筋?
そう思った次の瞬間、思いっきりシノブに頬を張られ、俺は意識を失った。
次回投稿は7/13です。