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Trick & Magic  作者: tema
吸血鬼の殺人
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吸血鬼の殺人【聴取編】


「なぁ、あんた」

日も暮れたので、一旦、宿に引き上げようとした俺を、老人が引き止めた。

確かシオンという元魔術師だ。

「その顔、異世界人か?」

そうだ。

それがナニか?


「あんた、元の世界に戻りたいと思っているか?」

む?

ムムム。

分からない。こっちの友人も増えたし、生活もできている。

正直、元の世界より居心地ヨイ。美人さんとの出会いも多い。


とは言え――

時折、元の世界に残して来た家族や友人たちのことを思い出す。

ただ、戻りたいか、そう問われれば”否”だ。

俺はこの世界で結構満足している。両親はまだ元気だし、老後は弟が見てくれるだろう。彼女は…それは言うな。言ってくれるな。

「そうか…」


老人は呟くと、建物の中に引っ込んで行った。


========

「”氷斬のシオン”、懐かしい名前ね」

アプリコットジャムをスコーンに付けながら、ザクスクさんが言う。

「二つ名が付いてるってことは、かなりの腕だったんですか?」

そうねぇ、とBLTサンドを取りながら彼女は言う。

あれ?スコーンは?

いつの間にか、スコーンは消えていた。


「かなりの腕、だったわ」

あ、サンドイッチが無くなった。

いやそーじゃない。

かなりの腕“だった”?


「流石に体力的に探索者は無理になって、引退したはずよ」

まー見るからにお爺さんだからなー

「ガリンとシレヌスはパーティの仲間。彼と一緒に引退したわ」

え?


そうか。種族毎に寿命差が有ればそうなるのか。

このパーティも、いずれ俺だけがお爺さんになり…いや、その時はチョムスもお爺ちゃんだ。多分。いや絶対。

ところでさっき来たオムレットは、いつの間に消えたんだ?


「全盛期はどんな感じだった?」

シノブが問う。

「貴女好みのハンサムだったわ」

「まぁ」

まぁ、じゃないよ。なに顔赤らめてんの。


「顔は兎も角」

話を戻すザクスクさん。

「彼の”氷斬(コ・ソハ・ルゥエンク)”は凄かったらしいわ。魔力も精度も。数十個の氷塊を数十体の化物(モンスタ)の急所に命中させることができたそうよ」

そもそも“氷斬”が使えない俺にとっては、それがどのくらい高レベルか判らんが、とにかく凄い腕である。


「シレヌスが誕生日を迎えた時、氷で作った彼女の彫像を贈ったって話よ」

え?

魔術でそんなことが出来るの?

「出来たんでしょうね。魔力は全盛期から落ちていないから、今でもできるかも」

ザクスクさんも見たわけではないらしい。

ただ聞いた話では、非常に精緻で、本人そっくりだったらしい。


「でも、彼の攻撃魔法の腕を聞きにきたわけじゃないでしょ?」

バレてた。

「ランチのお誘いに仲間を、それも女性を連れてくるなんて、相変わらずどうかしてるわ」

シノブと顔を見合わせる。女性というか、シノブはザクスクさんの孫。肉親である。


「さて」

そう言って、シノブが立ち上がる。

「じゃぁ後は若い人同士で…ん、若い?」

縁談纏めてるんじゃない。そして、一言多い。

スッと目を細めたザクスクさん、凄い迫力である。


「まぁいいわ」

物凄い迫力のまま、俺を見るザクスクさん。元が凄い美人なだけに、凄さが二乗である。

「彼は”(コ・ズヴァディ)(・ジュドリ)”は使えない」

そう、実はそれが目的だ。


この世界に厳密な密室は存在しない。

“転位”そして”(ッイア・クゥルティ)(バルツ)”という裏技で、どんな密室からも脱出できてしまうからだ。

ただし、“帰還”は迷宮(ダンジョン)の入口に現れる。その場所は常時治安部隊により監視されており、ここ数ヶ月使われてないことが判っている。

“転位”は使える者が数名しかおらず、転位先を熟知していることが必要だ。


会長室を熟知しているシオンが”転位”を使えるなら、密室の謎は解明だ。

そして彼は筆頭容疑者に格上げとなる。

シノブが手を叩く。

「こっそり特訓して使えるようになってたりは?」

しない。


シノブは知らないが、”転位”の管理は厳しい。

“転位”の発動方法を習得するには、申請が必要だ。申請が通って、初めて訓練が受けられる。

無論、俺のような中堅レベル魔術師が申請しても通らない。そして引退した元魔術師の申請も通らない。はずだ。


「その、試行錯誤で習得するってのは…」

シノブの言葉は、俺たち2人の冷たい視線で立ち消えた。

お前ー、魔術っつーのはそんな甘いモンやおまへんのや!

思わずエセ関西弁になるくらい、魔術師にとってはムリなシノブの発言である。


「レベル7の魔術師じゃ知らない裏技とかあるかも知れないじゃない!」

なんだと!

そんなコト言うのはこの口か!

レベル3のこの口かぁー!


「仲が良いわね」

呆れたようなザクスクさん。

「どうせ、これで用は終わりでしょ。戻らせて貰うわ。ご馳走さま」

立ち上がった彼女の前には、大盛りリゾットの器だけが残されていた。


俺の財布は空になり、金を借りたシノブの財布も大分軽くなった。

とほほ。


========

「こっちは、大分整理がついた」

と、治安部隊で情報収集していたマルク。


先程より、大分安――リーズナブルなカフェである。

ホットドッグやハンバーガ、レタスサラダを食ってる奴らを前に、俺とシノブは水だけ。しかも俺に至っては、水代すらシノブに借りるというテイタラク。


「事件が起きた日、商会は朝から忙しくて地上階には常に誰かが居た」

つまり、外部犯の可能性は無い、と?

「受付やっとるシレヌスは、結構名が知れた探索者じゃった。特に知覚が鋭い」

隙を付いて受付を通ることは出来ない、というワケだ。


「1階の(日本では2階に当たる)倉庫へは、ガリンが息子2名を駆り出して搬入作業をしとった」

何搬入してたんだ?

「アイスクリームじゃ」

アイスちゃんを?

「この真夏に?」

連日の猛暑で夜も寝苦しい日が続いている。

そりゃもう、数十分もすればアイスちゃんが融けちゃう程だ。


「それがなぁ、ブラム商会はこの島で唯一、大量のアイスクリームを保存できる商会らしいんだ」

「その方法は治安部隊も知らんかった。事件と関係あると立証できれば話は別じゃが」


“氷結”の魔術で冷えひえのビールちゃんを出すのは、居酒屋なら何処でもやっている。そのため探索者を引退しても、魔術師に食いっぱぐれはナイ。

だが、大量のアイスちゃんを低温に保つのは、難しい。直接冷やすことはできるが、それは詠唱の間だけ。氷を生成しても冷えるのは0℃前後。


「そこで、”氷斬のシオン”が出てくる」

「彼の魔力なら――

うん、それムリ。

どんな魔力があっても、呪文の効果は長続きはしない。


ンゴイブが無言で、側に置いてあった小瓶を俺の前に置いた。

ちょっと驚いた。

ンゴイブは知ってたのか?

彼が置いたのは、塩だった。


氷と水と塩、それを混ぜ合わせると-20℃くらいまで下げられる。この世界でアイスちゃんを作る時は、この方法を使ってる筈だ。

だがあの倉庫ではムリ。

氷はいずれ溶ける。

板張りの床では隙間から水が通り、下の階が水浸しになる。


と、そこで俺はある物に気づき、”(コ・ルゥアンリ・)(ゾエ・スカミ)”を使った。

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