煙と消えた宝石の謎【事件編】
図面が2つしか表示できなかったため、分割しました。
2人が仮面の従僕を従え元の部屋に戻ると、残りの3人は既に席に付いていた。無論、メイド長も一緒だ。
「1階に怪しい処は無かった」
魔術師の声に、盗賊が応える。
「地上階には、有ったぜ」
「この壁だ」
盗賊が部屋の手前側の石壁を叩く。
「この向こうは秘書室になってて、執事が居た」
でも、と唇を歪め歯を見せる盗賊。
「奥行きが狭い」
つまり、隠し金庫、または隠し部屋が間に存在する筈、という意味だ。
「秘書室は見張らなくていいのか?」
魔術師の問いに首を横に振る盗賊。
「宝物庫の入り口。僕なら、そんな部屋に執事を1人では置かない」
出入口はおそらく、こちらの部屋にしか無いのだろう。そう盗賊は言う。
「でも、そんな秘密を此処で口にして良いの?」
メイド長を見据えながら言う侍に、僧侶が鷹揚に頷く。
「信頼の置ける者として、彼女らを選んだのは子爵じゃ。もし裏切ったとしても、それは儂らの問題ではない」
だが、と侍は一方の者に目を走らせる。
従僕の無表情な仮面は、何処を見ているかも定かではなく、何かを狙っていたとしても、読み解く術はない。
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「後どのくらいだ?」
「1分少々です」
子爵に応える執事。
現在館に居る全員が元の部屋で、その時を――日付が変わる予告の時を待っていた。
最奥には子爵が座り、横に執事が立つ。
テーブルの横には探索者たちが座り、唯一の出入口はメイド長と従僕が固めている。
賊が立ち入る隙は無かった。
はずだ。
突然、灯りが消えた。
窓の無い部屋は真の闇となり、皆の喉から驚愕の叫び声が漏れた。
「灯りを!誰か」
「来光」
僧侶の祈りに光が現れる。
灯りが消える前と何も変わっていない――様に見えた。
「やられた…」
魔術師が呟き、彼の視線を追った者たちは怪盗が現れたことを知った。
『”マリアンの心”は頂いた。怪盗アルス』
石造りの壁の一部に金庫の扉が現れ、そう書かれたカードが短剣で刺し止められていた。
大騒ぎしている探求者たちを背に、蒼白になった子爵が金庫のダイアルを操作し、鍵を使う。
金庫が開けられると、少しの煙がたなびき――
金庫は空になっていた。




