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Trick & Magic  作者: tema
プロローグ
2/40

仲間の紹介代わりの次段

探索者になるには、パーティを組むことが必要だ。


厳密には、素質があって訓練を受ければ、誰でも探索ギルドに参加できる。

だが迷宮(ダンジョン)に潜るなら、パーティを組まなければ、とてもじゃないが生きて戻れない。

高レベルの者ならソロで潜ることもあるだろう。でもレベル1でソロは自殺行為。


そして、迷宮に潜らなければ稼げない。

冷えたビールも、フカフカなベッドも、金がなければ手に入らない。

今住んでる寮には、後3日しか居れない。

というワケで、探索者が集まると噂の酒場へ向かう俺である。


エンキドの酒場、そこは探索者限定の酒場だ。

探索者以外が入るとどうなるのか?

それは謎。俺も知りたいところだ。


魔術師の修行中は(怖くて)立ち寄れなかったが、今や俺も探索者。

これから化物(モンスタ)どもをバッタバッタとなぎ倒し、ブイブイ言わせる予定である。その栄光の道が今、この扉から始まる!


ドムッ!

扉が外側に開き、俺を打ち倒した。


ドドドドド!

中から飛び出して来た男に踏まれ、HP(ヒットポイント)が削られる。

男は、足蹴にした俺を顧みる事なく、走り去った。

ヒドい。


ズムッ!

立ち上がろうとした俺は、中から飛び出して来た誰かに押し倒され、再びHPが削られる。

俺を押し倒した誰かは、フードを被った女性だった。

MP(マジックポイント)が回復する。いやそんなワケはナイ。


白磁のような肌に、くっきりした目鼻立ち。

大空のような青い瞳に、白に近い金色の髪。

TVでも見た事がないほどの美女だった。

俺は生まれて初めて一目惚れを経験した。

4年ぶり5回目の恋である。


「御免ッ!」

彼女はそう言い、男を追って駆け出す。

思わず俺も後を追う。


彼女を追い角を曲がると、道が二股に分かれており、男はどちらに行ったか判らない。

「クッ…」

君は右へ!

逡巡する彼女の背を叩き、俺は叫ぶ。

俺はそのまま左の道へ向かった。


========

「手前ェ、そこを退け!」

左の道は行き止まりになっており、男はそこに居た。

退くわけにはいかない。

お前は、俺の恋路のために犠牲となって貰う。


ギラリ

男は小刀を抜いた。

すぐ退きます。どうぞお通り下さいませ。


と、首筋がヒヤリとし、気づくと至近距離に刀があった。

但し、目の前の男が持つ小刀じゃない。

俺の背後に立つ美女(・・)が持つ刀だ。

「右側も行き止まりだった」


彼女が持つ刀、その曲線が彼女の職種を教えてくれた。

“侍”だ。

ローブを落とすと、中から鎧が現れる。

「助太刀、感謝する!」


そう言い、彼女は男に向かって突進して行った。

ふと違和感を覚え――ちょっと待て!

俺は真相を知ってしまった。


ガィンッ!

鋼鉄と鋼鉄が当たる音が響き、一瞬2人の動きが止まる。

やはりそうだ。

あるべきモノが無い。


次の瞬間、2人の位置が入れ替わる。

どちらの動きも姿が霞む程の(はや)さで、俺が相手なら一瞬で斬り伏せられそうだ。

だが、もーどーでもいー。


“彼女”が纏う鎧、その曲線が正体を教えてくれた。

鎧は身体にピッタリ合った物で、体型が判る。

侍の胸が――おっぱいが無いことが見て取れた。

つまり”彼女”は”彼”、つまり男――


俺の恋は終わった。3分15秒で。

新記録である。

4年ぶり5回目の失恋である。


男が手首を捻り、小刀が日本刀を搦めとる。

小刀を突きつけられ、侍は動きを止める。

次の瞬間、勝負は決まった。


昏睡(コ・スィプナ)


俺の魔術で男は意識を失った。


========

「助かった。かたじけない」

エンキドの酒場で、侍が深々と頭を下げる。

彼はハーフエルフで、その外見を活かして悪質な売春斡旋者を捕まえる任務(クエスト)を受けていたらしい。

先程その斡旋者は、治安部隊に連行(ドナドナ)されて行った。


「今日は私の奢りだ。好きなだけ食って呑んでくれ」

あー勿体ない。もったいない。

ローブと鎧を脱いだ今なら、はっきり判る。

なぜその美貌で男なのか。


「ところで貴君は、異世界人で魔術師だね」

ああ。先日訓練が終わり、現在パーティ募集中だ。

「先程の”昏睡”は、中々の腕だ」

うム、それほどでもアル。

と、侍の唇が笑みを浮かべる。


「どうだ、我々のパーティに加――

「中生2丁お待ちー!」

なんか良い話の途中で、店員がジョッキを持ってきた。


良い話も気になるが、冷えたビールを放っては置けない。

とりあえず乾杯ー


「どうだ、我々のパーティに加わらないか?」

侍の誘いは乾杯後も有効だった。

正直、嬉しい。


女性でないのは残念だが、あの動き、体捌きはかなりの腕前だ。

そもそも侍はエリートだ。

何年もの修練、そして迷宮でのレベル上げ。

それを経て初めて就ける職だ。

つまり、そのパーティはかなりの高レベルで――


これすなわち迷宮の深部に潜るので、俺の命は風前の灯火である。


「なぁ、悪い話じゃないぞ。宿も仲間とシェアすれば安くなる」

でもなー、命あっての物種…

「パーティには評判の美女もいる」

是非、加わらせてください。


ここから、俺の無双の物語が始まる。

といいな。

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