お姉ちゃんと一緒
今回は謎解きナシ。
シノブのお姉さんの紹介のみ。あとちょっとした伏線張り。
「妹がいつもお世話になってます」
はぁ、こちらこそ。
先日の痴漢騒ぎで約束した通り、シノブが”お姉ちゃん”を紹介してくれた。
シノブの実のお姉さん。レラルゥさんだ。
シノブより4才年上で、彼女と違い淑やかで、彼女に似た美人で――
俺のストライクゾーンには、全然入らない。
シノブの両親はハーフエルフ同士で、シノブ自身もハーフエルフ。と聞いていた。
だが、お姉さんはハーフじゃなくフルのエルフ。
「ハーフエルフ同士の子は、1/4がエルフに、1/4がヒューマンになるの」
なんでそうなるかはともかく。
問題は、彼女の外見が10才くらいの少女だということだ。
詐欺だ。
シノブに騙された。
実年齢は確かにシノブより、いや俺より上だろうさ。多分アラフォー。
でもね、この世界でエルフの寿命はヒューマンの4倍。肉体的にはどー見ても10才そこそこ。
ストライクゾーンにカスリもしない。
「以前からシノブには、紹介してって頼んでたの」
はい?
紹介って誰を?
まさか俺じゃないよね?
なのに彼女の瞳は俺をロックオン。
ロリータ趣味があれば天国かも知れんが、幸か不幸かその趣味がナイ。
俺の好みとしては、膨らむべき処はもうボンッって感じで膨らみ、くびれるべき処はギンギンにくびれてる方がヨイ。
「本当。似てるわ」
はい?
謎の言葉への追求は、給仕が持ってきたチョコパフェで遮られた。
爛ッ!
そんな感じで彼女の目が輝き、目の前のパフェをロックオン。
幸せそうにパフェを食べる彼女は、本当に子供のようだ。
俺はいったい、何をしてるのであろうか?
本来ならばお茶に誘うべきは、先日アインに紹介して貰った成熟したエルフのお姉様。なのに、目の前には少女。
「コホン」
パフェを平らげた彼女は、再び俺を見る。
「貴方、シノブと付き合ってるの?」
付き合ってません。
一瞬も迷わぬ俺の回答に、目の前の少女が目をパチクリする。
「私の目を正面から見て言って」
付き合ってません。
「どうして⁉︎」
不条理である。理不尽である。
シノブは仲間だし友人だ。でも付き合ったことは無い。
そりゃもう1秒たりとも無い。断言できる。
そりゃ初対面の時はすごい美人さんと思ったけどねー。
中身がねー。
なのに、いかにも心外だという目で俺を見る少女。いやお姉ちゃん。
不条理である。理不尽である。
「あの娘からアプローチ、されなかった?」
はい?
「あの娘ったら惚れっぽい上に、惚れたらもう一直線に押して押して、引かば押せって感じで」
うんうん。それでよく自爆してる。
「アプローチされてないの?」
されてナイ。
「…貴方、もしかして」
男はヤダ。そのケはナイ。
「あ、そう」
しばらく考え込むレラルゥ。
「もしあの娘がアプローチして来たら…」
お断――いえ何でもありません。
危なかった。さすがに実のお姉さんに”妹さんは女としてはちょっとねー”とか言えない。言っちゃいけない。
「…拒んで欲しいの」
はい?
「シノブがアプローチして来ても、拒んで欲しいの」
なぜ?なにゆえ?Why?
「2人とも不幸になってしまう。きっと」
それは相性とかそんな話で?
「ううん相性は良いと思う、とても。でも止めて」
そう言うレラルゥは、何かとても真剣な目で。
でもワケもなく一方的に言われっぱなしなのは、癪にさわる。
ワケもなく、そんなことを言うとは思えない。
一方で、ワケを言わないのは何か理由がある。多分。
「理由は聞かない方が良い――って言っても無駄みたいね」
ムダだ。
「1度目は恋、2度目は愛、けれど3度目は死」
俺は目をパチクリする。
何処かで聞いたことのある言葉だ。だが、何処で誰から聞いたのか思い出せない。
「貴方は3度目なのかも知れないわ」
なんじゃそりゃ?
つ・ま・り、とレラルゥは人差し指を振り
「理由は言えない。貴方がシノブに興味を示さない可能性に賭けるわ」
理由を問い詰めても無駄だ、絶対に話さない。そう彼女の目が言っていた。
「でも――
でも?
「シノブと肉体関係を持つなら、その前に私に連絡して」
じゃぁメルアドを教えて欲しいな。
「サムジュドリ?」
この世界にそんなものはナイ。
無い筈なのに、単語は自然に俺の口から出てきた。
「私が見つからなかったら、探求者ギルドのザクスクさんに話をして。理由は彼女に伝えておく」
はい?
また予想外な名前が出てきた。
ザクスクさんは探求ギルドの受付嬢――シノブによれば”嬢”と呼ぶにはトウが立ちすぎているらしい――で、探求者からは一目置かれている。
ちなみにエルフ。
そしてエルフには珍しく、豊満なボディの持ち主だ。
それも全体的に太いってことじゃなく、腰とか足首とかはもうギンギンにくびれてるっていうビューティホーな体型。
そして有能。
凄く有能。
智慧者で交渉に長け、噂によれば凄まじい魔術の使い手らしい。
そして魅惑的なボディに釣り合わぬクールな美貌。
もーこの人にならピンヒールで踏まれてもヨイ。むしろ踏んで欲しい!
かも。
そんなザクスクさんとこの少女に、どんな繋がりが?
「探求ギルドに依頼すれば、対応してくれるでしょ」
あ、なるほど。
でもザクスクさん指定で依頼って、どのくらい金がかかるんだ?
そしてザクスクさんに話したらどうなるんだ?
もしかして!
実はザクスクさんが俺に惚れてて、「シノブと付き合うくらいなら私と」とか言われちゃったりなんかしちゃったりしてーっ!
「ということで、ヨロシク」
レラルゥさんが領収書を取る。
いやいや、さすがにここは俺が。
10才の女の子にお茶を奢られるワケにはイカン。
例え中身がアラフォーであろうが、そこは俺の美意識が許さん。
「それじゃご馳走さま。今日は有意義だったわ」
俺には何の意義もありませんでした。
「また会いましょ。じゃ」
いや家の近くまで送っていく、と言いかけた俺の目の前で、彼女は唱えた。
「転移」
光の粒となって、彼女の姿は消えた。
レベル13の魔術。
発動させられる者は数人しか居ない、最高レベルの魔術。
後には顎を外れそうに開いた俺だけが残されていた。
るー
めでたしめでたくナシ。
次の投稿は8/10です。
今度こそ。




