痴漢と冤罪の存在確認【解決編】
「はぁ?お前らがこの情報を?」
情報屋のラルスが目を丸くする。
「いや、金さえ貰えば俺は良いんだが…いいのか?」
“情報屋”というイメージとは異なり、ラルスは親切で良いヤツだ。
ああ。その情報が任務に必要なんだ。
と俺は1,000マニーをラルスに渡す。
「なーる、そういうことなら!」
笑顔のラルスから情報を受け取る。思った通りだった。
========
「今更、霊魂のおびき寄せ方など知って、どうするつもりじゃ?」
チョムスだけでなく、今日は特別に参加しているアンも、頭の上に”?”マークを浮かべている。
『牛でも豚でも良いんだがな、迷宮に血を撒くんだよ。そうすれば霊魂が集まってくるって寸法だ』
ラルスはそう言った。
その情報は、訓練場や新人探求者に喜ばれ、ラルスは大層儲かった。らしい。
血がどんな効果を与えたかは判らない。だが結果として、1階層では霊魂が増えた。
「まぁ新人が助けを求めるくらいに…そうか、アイツら血を撒きすぎて大群に襲われたのかぁ」
血の匂いが霊魂を引き寄せる。
今まではレアな化物だった霊魂は、数が増えている。
となれば、血の匂いをさせた人に霊魂は近づくはずだ。
「むッ…」
チョムスは気づいたようだ。
霊魂は近づく。血の匂いのする箇所へ。闇領域であっても匂いは漂う。
「あッ」
アンが声を出し、顔を赤くする。
霊魂の攻撃など、中堅以上の俺たちにとっては撫でられてるようなものだ。
だから、その攻撃を痴漢と誤解した。
まぁ、攻撃される前だったのかも知れん。霊魂は動きが遅いからな。
「でもッ」
アンが顔を赤くしたまま問う。
「あの領域に霊魂なんて居ませんでした」
来光を使って、確認したんだろう?
来光は、神の祝福により光を齎す呪文だ。霊魂はこの祝福で払われ、消え失せる。
これで、任務は完了かな?
アンが頷き、その場でチョムスにモーニングスター+5を渡す。
もうチョムスの喜びっぷりときたら!
一方、ンゴイブの頭の上には”?”マークが乗っている。
彼だけに聞こえるように、こっそり囁く。
ヒューマンやドワーフなどの女性は、月に1回、血を流す期間があるんだ。
その血の匂いに霊魂が誘われたんだろう。
ああ、と理解するンゴイブ。
知識としては有ったのだろうが、卵生の蜥蜴人では察することが難しかったらしい。
そわそわ。そわそわ。
なんか、そわそわしているリーダがいる。
モーニングスター+5を使ってみたくて仕方ないのだ。
でも今はアンがいる。呼吸が合わないから、また今度な。
「分かっとるわい!」
========
それじゃ、任務完了を祝って――
「「「「「乾杯~!!」」」」」
居酒屋エレウクで打ち上げである。今日はチョムスの奢り。
「く~~~ッ、美味いッ‼︎」
そのチョムスは喜びを爆発させている。
そりゃさぞかし美味かろう。
なんでもモーニングスター+5は伝説級の武器らしく、値段は付けようがないとのこと。
「でも威力は、ロングソード+2と変わらないんですけどね」
俺の隣に座るアンが首を傾げながら言う。
まぁチョムスが喜んでるんだ。水を差すのは止めておこう。
「よう、痴漢騒ぎも解決してくれたんだって?」
パーティ•ジュニエのリーダ、アインが邪魔…いや挨拶に来た。
彼の後ろにはエルフの美人さんたちが、ずらっと!
「彼女たちから、お礼を言いたいって請われてね」
神さま仏さまアイン様!
いえ、こちらから伺います。参りますともっ!
その日、エルフの美人さんたちから注がれるビールは、殊の外美味かった。
========
翌日、上機嫌で目を覚ました。
エルフの美人さんに囲まれた呑み会。男なら1度は経験したい夢である。
食堂に行くと、既にチョムスも上機嫌で目を覚ましていた。早速モーニングスター+5を布で磨いている。
「おはよう」
マルクとンゴイブが現れた。彼らは通常運転。
その後ろから通常じゃない人影が付いて来た。
「しくしくしくしく…」
恋に破れた女が1人。
「昨夜、パーティ・ジュニエのハミルトンがテーブルに来てな」
マルクがこっそり教えてくれた。
ハミルトンはエルフでイケメンで、シノブの好みの男だ。
「シノブのはしゃぎっぷりったら、見ものだったよぉ」
まぁそうであろう。
「ところがハミルトンはアンと意気投合しちゃってねぇ」
なんですって⁉︎
「今回の痴漢騒ぎ中、アンは”彼氏が居ればこんなことには”って、思ってたらしいんだ」
そういえば、なんか積極的に俺の隣に座ったりして…
「そう、お前が抜けた席にハミルトンが座ってねぇ」
気づいたら、2人はいなくなってましたとさ。
「そう言えば、ちょっと前に2人が向かいのホテルから出てきおったぞ」
向かいのホテルは、ちょっとオシャレでカップルの皆様に大人気の…
るー
めでたしめでたくナシ。
皆さんの推理は同じだったでしょうか?
もし、論理の穴や情報不足など有ったら、感想などで教えてください。
ませ。
次の投稿は8/10です。




