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Trick & Magic  作者: tema
帰ってきた泥酔者
12/40

帰って来た泥酔者【解決編】

キヘンを呼び戻して貰った。


イエムンも昔、探索者だったんじゃないか?

「ああ、名の知れた侍だった」

じゃぁ、凶器はイエムンの刀だったのか?

「うむ。(つば)に見覚えがあった。彼の物に間違いねェ」


ニヤリ。

レストン隊長が、恐ろしげな笑みを浮かべる。

「キヘン、その鍔、どこ(・・)で見た?」

キヘンは口を開き、そのまま固まった。


「イエムンの自宅は立ち入り禁止にしている。凶器となった日本刀の鍔など、見る機会は無い」

殺人者以外には、とレストンは言い、俺を振り向く。

「さすがダーリン。なぜ判った?」


ダーリンは止めろ。

いえ、止めてくださいお願いします。

それに、キヘンは殺人者じゃない。


キヘン、あんたが()をやったのかは判った。多分。

それが罪になるかどうかは知らん。興味もない。

だが、何故やったのか。それが知りたい。


俺はキヘンの目を見つめ、キヘンも俺の目を見た。

「イワトは異世界人だった。お前ェは同じ国から来たンだな」

まぁな。

「1度目は恋、2度目は愛、けれど3度目は死…か」

キヘンは何故かそんなことを呟いた。


「なぜ俺がそうしたか、教えてやる」

だが、とキヘンは試すような目で俺を見た。


「俺が何をやったのか、本当に判ってたらな」


========

イエムンは自殺だ。


刀で腹を一突き。日本では切腹と言う。侍の自殺方法だ。

「ああ、ヤツは侍――ニホンの文化を含めて、本物の侍になろうとしていたからな」

キヘンの顔に寂しげな笑みが浮かぶのを見て、俺は説明を続ける。


ここからがキヘン、あんたの出番だ。

あんたがイエムンの遺体を、彼の家からここに運び椅子に座らせた。

キヘンが頷く。だが未だ続きがある。


イエムンの血は腹腔内に溜まったんだろう。部屋は血の海という程では無かったはずだ。

あんたは、この店から牛の血を持って行き、イエムンの部屋にぶち撒けた。

そして、彼の靴を履いて血の足跡を残した。

イエムンが食屍鬼(グール)になったと見せかけるために。


キヘンの笑みは消え、驚愕が取って代わっていた。

「なぜ、そこまで判ったンだ?」

企業秘密だ。

実は、(コ・ルゥアンリ)(・ゾエ・スカミ)で、牛の血液型を調べたからだ。

牛の多くはB型らしい。

ちなみに豚はAかO、羊はBかO。


関係者が誰も大怪我をしていない。ならば大量のB型の血液は、どこから来たのか?

牛肉を大量に扱うこの店なら、牛の血も手に入る。

これが豚か羊の血で、O型だったら迷宮入りだった。かも。


「イワトにも妙に鋭いところがあったが、異世界人は皆そうなンか?」

キヘンは寂しげな笑みを浮かべ。

「イエムンは、イワトと添い遂げたがってた。俺はヤツのその願いを叶えてやりたかったンだ」

と言った。


「腹ァ斬られるってなァ、痛ェもんだ」

その昔、探索者だった頃のことでも思い出したのか、キヘンは自分の腹をさする。

「そんな痛ェ思いしてまで死にてェ。死んでイワトに会いてェってんなら、仕方ねェわ」

まぁ、即死だったらしいし、どうしようもないよね。


「お前ェ、そこんとこは判ってねェようだな。あのまンまじゃ、イエムンは死ねなかったンだ」

「”(ッイア・)(クルティ・ヌンジェ)”じゃ」

チョムスの言葉で気づいた。この世界には、それ(・・)があった。


「イエムンは名の知れた侍だった。引退したとはいえ、”復活”できるくらいの金ァ持ってた」

だから、血の足跡か。

食屍鬼と化した者は復活できない。日が変わる前に灰にしなくてはならない。


「もし”復活”しても、いずれヤツは再び腹ァ突く。そんな事ァさせたく無かった」


========

キヘンはこれからどうなるんだ?

キヘンが連行され、居酒屋(ヨツヤン)を出る際、俺は治安部隊員に聞いた。

彼は直立不動でレストンの方を見た。

「殺人を犯したわけじゃない。情状酌量の余地もかなりある」

ちょ、レストン隊長。近い。近いよ。


「まぁ罰金刑くらいだな」

それは良かった。

良かったけど、俺と二の腕を絡めないで頂きたい。デス。


「落ち着いたら、ここ(ヨツヤン)で一杯やるかぁ?」

いいな。

「罰金分、金を落としてやらんとな」

「よし、モリスの奢りでたらふく食うぞ!」

ぅおい!

なんで俺の奢りなんだよ、シノブ!


ギンッ!


「そんなイチャイチャを見せつけられた、精神的苦痛に対する慰謝料!」

いやコレ、そんなイイもんじゃないから!

周りの人の目がとっても痛いんだから!


「大丈夫。多分、治安部隊から事件解決のお礼として金一封が出る」

グルルルル。

猫のように――否、虎のように喉を鳴らすレストン。

「当然、私も呼んでくれるんだろう?」

ええっ⁉︎


「レストンの姐御だけは信じていたのに」

いったい何を信じてたんだ。

「ふっ、シノブにもきっとイイ人が見つかるよ。その内」

()って何。

なに”既に私たちイイ人同士”、みたいな既成事実作ろうとしてんの!


ヨツヤンから治安部隊本部までの大通り、俺はレストンに連行された。

通りにいた人、全てが俺たちを凝視していた。

「こりゃもぅ、他の女には声かけられないなぁ」

治安部隊の隊長とタイマン張ろうって女は、居ないだろう。そうマルクが囁く。


なんでこーなった。

なぜ、なにゆえ、Why?


チョムスと目が合うと、彼が悟ったような声で言った。

「運命じゃよ」

るー


めでたしめでたくナシ。

皆さんの推理は同じだったでしょうか?

もし、論理の穴や情報不足など有ったら、感想などで教えてください。

ませ。


次の投稿は8/3です。

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