帰って来た泥酔者【解決編】
キヘンを呼び戻して貰った。
イエムンも昔、探索者だったんじゃないか?
「ああ、名の知れた侍だった」
じゃぁ、凶器はイエムンの刀だったのか?
「うむ。鍔に見覚えがあった。彼の物に間違いねェ」
ニヤリ。
レストン隊長が、恐ろしげな笑みを浮かべる。
「キヘン、その鍔、どこで見た?」
キヘンは口を開き、そのまま固まった。
「イエムンの自宅は立ち入り禁止にしている。凶器となった日本刀の鍔など、見る機会は無い」
殺人者以外には、とレストンは言い、俺を振り向く。
「さすがダーリン。なぜ判った?」
ダーリンは止めろ。
いえ、止めてくださいお願いします。
それに、キヘンは殺人者じゃない。
キヘン、あんたが何をやったのかは判った。多分。
それが罪になるかどうかは知らん。興味もない。
だが、何故やったのか。それが知りたい。
俺はキヘンの目を見つめ、キヘンも俺の目を見た。
「イワトは異世界人だった。お前ェは同じ国から来たンだな」
まぁな。
「1度目は恋、2度目は愛、けれど3度目は死…か」
キヘンは何故かそんなことを呟いた。
「なぜ俺がそうしたか、教えてやる」
だが、とキヘンは試すような目で俺を見た。
「俺が何をやったのか、本当に判ってたらな」
========
イエムンは自殺だ。
刀で腹を一突き。日本では切腹と言う。侍の自殺方法だ。
「ああ、ヤツは侍――ニホンの文化を含めて、本物の侍になろうとしていたからな」
キヘンの顔に寂しげな笑みが浮かぶのを見て、俺は説明を続ける。
ここからがキヘン、あんたの出番だ。
あんたがイエムンの遺体を、彼の家からここに運び椅子に座らせた。
キヘンが頷く。だが未だ続きがある。
イエムンの血は腹腔内に溜まったんだろう。部屋は血の海という程では無かったはずだ。
あんたは、この店から牛の血を持って行き、イエムンの部屋にぶち撒けた。
そして、彼の靴を履いて血の足跡を残した。
イエムンが食屍鬼になったと見せかけるために。
キヘンの笑みは消え、驚愕が取って代わっていた。
「なぜ、そこまで判ったンだ?」
企業秘密だ。
実は、叡智で、牛の血液型を調べたからだ。
牛の多くはB型らしい。
ちなみに豚はAかO、羊はBかO。
関係者が誰も大怪我をしていない。ならば大量のB型の血液は、どこから来たのか?
牛肉を大量に扱うこの店なら、牛の血も手に入る。
これが豚か羊の血で、O型だったら迷宮入りだった。かも。
「イワトにも妙に鋭いところがあったが、異世界人は皆そうなンか?」
キヘンは寂しげな笑みを浮かべ。
「イエムンは、イワトと添い遂げたがってた。俺はヤツのその願いを叶えてやりたかったンだ」
と言った。
「腹ァ斬られるってなァ、痛ェもんだ」
その昔、探索者だった頃のことでも思い出したのか、キヘンは自分の腹をさする。
「そんな痛ェ思いしてまで死にてェ。死んでイワトに会いてェってんなら、仕方ねェわ」
まぁ、即死だったらしいし、どうしようもないよね。
「お前ェ、そこんとこは判ってねェようだな。あのまンまじゃ、イエムンは死ねなかったンだ」
「”復活”じゃ」
チョムスの言葉で気づいた。この世界には、それがあった。
「イエムンは名の知れた侍だった。引退したとはいえ、”復活”できるくらいの金ァ持ってた」
だから、血の足跡か。
食屍鬼と化した者は復活できない。日が変わる前に灰にしなくてはならない。
「もし”復活”しても、いずれヤツは再び腹ァ突く。そんな事ァさせたく無かった」
========
キヘンはこれからどうなるんだ?
キヘンが連行され、居酒屋を出る際、俺は治安部隊員に聞いた。
彼は直立不動でレストンの方を見た。
「殺人を犯したわけじゃない。情状酌量の余地もかなりある」
ちょ、レストン隊長。近い。近いよ。
「まぁ罰金刑くらいだな」
それは良かった。
良かったけど、俺と二の腕を絡めないで頂きたい。デス。
「落ち着いたら、ここで一杯やるかぁ?」
いいな。
「罰金分、金を落としてやらんとな」
「よし、モリスの奢りでたらふく食うぞ!」
ぅおい!
なんで俺の奢りなんだよ、シノブ!
ギンッ!
「そんなイチャイチャを見せつけられた、精神的苦痛に対する慰謝料!」
いやコレ、そんなイイもんじゃないから!
周りの人の目がとっても痛いんだから!
「大丈夫。多分、治安部隊から事件解決のお礼として金一封が出る」
グルルルル。
猫のように――否、虎のように喉を鳴らすレストン。
「当然、私も呼んでくれるんだろう?」
ええっ⁉︎
「レストンの姐御だけは信じていたのに」
いったい何を信じてたんだ。
「ふっ、シノブにもきっとイイ人が見つかるよ。その内」
にもって何。
なに”既に私たちイイ人同士”、みたいな既成事実作ろうとしてんの!
ヨツヤンから治安部隊本部までの大通り、俺はレストンに連行された。
通りにいた人、全てが俺たちを凝視していた。
「こりゃもぅ、他の女には声かけられないなぁ」
治安部隊の隊長とタイマン張ろうって女は、居ないだろう。そうマルクが囁く。
なんでこーなった。
なぜ、なにゆえ、Why?
チョムスと目が合うと、彼が悟ったような声で言った。
「運命じゃよ」
るー
めでたしめでたくナシ。
皆さんの推理は同じだったでしょうか?
もし、論理の穴や情報不足など有ったら、感想などで教えてください。
ませ。
次の投稿は8/3です。




