表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trick & Magic  作者: tema
帰ってきた泥酔者
11/40

帰ってきた泥酔者【調査編】

空気が重い。

「次は、被害者の茶室を見るか?」

この空気を作った元凶であるレストン隊長が言う。

全く空気を読んでない発言である。


いや、できれば血の海は見たくナイ。

迷宮でこそ血の海を見ることもあるが、アレは探索。殺人事件とは違う。

この場所で、判ってることだけ教えてほしい。


「いいぞ。じっくり教えてやる」

レストンは俺の横に座り、脚を組む。

「キヘン、席を外してくれるか?」

カクカクと首を縦に振り、部屋を出て行くキヘン。


ちょっとチョムス、ンゴイブも!

一緒に部屋を出て行こうとしない!

それに治安部隊員の人。アナタ出てっちゃダメでしょうが!


「できれば、お前だけに伝えたいんだが…」

いやそれ違う話でしょ!

「いや、治安部隊の極秘調査結果なんだ」

あ、そゆこと。


でも、2人きりはマズい。

後でどんな噂が流れるか、わかったモンじゃない。

いや、こっちを見てるマルクの目が告げてる。

思いっきり話を膨らまして、盛って、アルことナイこと追加しとくって目だ。


========

「これは極秘事項だ。秘密は守って貰うぞ」

レストンが真剣な表情で言い、俺たちもまた表情を引き締め頷く。

「実は、人間の血には4種類の型がある」

ん?


レストンは凄いドヤ顔をして言った。

「A、AB、O、そしてD()型。それによると、凶器についていた血液はO型だが、足跡の血液はD型だった」

それを言うならB()型!

なんだよ極秘事項って、血液型の話かよ!


「お主、異世界人じゃな」

突然、声が割り込んだ。

見れば、歳を取ったノームが1人。

「儂はパラケルスス。錬金術師じゃ」

手を差し出して来たので、握手。

「血液型鑑定は儂が行った」


「お主が元いた世界では、血液型など常識じゃったかも知れん」

皆と挨拶を交わした後、パラケルススは言う。

「じゃが、こちらではそのような知識は貴重じゃ」

血液型鑑定は、捜査に有用な重要機密らしい。


ところで、凶器の血がO型で足跡がB型って…

シノブが思慮深げな顔をして言う。

「ひょっとして、食屍鬼(グール)になるとB型に…」

なるかッ!

謝れ。全国のB型の皆さまに謝れ!

「お主、血液型は?」

Bデス。


挿絵(By みてみん)


「死因は、腹部大動脈切断による出血多量。傷跡から凶器は横に落ちていた日本刀で間違いないじゃろう」

パラケルスス、検死官も兼ねてるらしい。

「斬られた、というより貫かれた傷じゃ」


「死体の前方、及び腹腔内に大量の出血があった。それはO型じゃったが、死体そのものは儂が調べる前に焼却されとった」

血の海になっていた部屋にはB型の血液。それも大量に。

「人間1人分としては、多すぎる量じゃ」


実はもう一人、被害者が居たとか?

「この島で他に死体は見つかっとらん。が…」

食屍鬼になって彷徨ってるかも。そんな想像が頭を過る。


「後、ここにあった死体じゃが、死後に動いた形跡がある」

それは、やっぱり食屍鬼?

「いや、何者かが動かした可能性もある」

普通に考えれば、そっちの可能性が高い。

だが誰が、何故?


「動機がありそうな者は、おらんかったんか?」

長考に入った俺を横目に、チョムスが聞く。

「殺されるほどの動機は、無い」

レストンが答える。

「ただ――」


「ただ?」

「この店の主人、キヘンを殺す動機がイエムンの方にはあったかも知れない」

「何じゃと?」

チョムスが硬い声を出す。


「先月亡くなったイエムンの妻――イワトは、若い頃キヘンと付き合っていたらしい」

レストン隊長の説明に、チョムスがフサフサした右眉を上げる。

「当時、彼女は探索者でキヘンと同じパーティだった」

パーティ内で付き合いだして結婚することは、それなりにあるらしい。


「キヘンに捨てられたの?」

シノブが身を乗り出す。

「いや、そんな証言は無かった。そもそもイワトの片想い――無理な恋だったのかも知れない」

無理って?

「イワトは、ヒューマンだった」

俺の問いにチョムスが応えた。


チョムスの応えで皆は納得したみたいだが、俺はポカン状態である。

ヒューマンだと恋は無理なのか?

皆が首を縦に振る。

そんな!


「あ、いや。普通ドワーフは、ヒューマンをそういう対象に見れないんだ」

マルクが解説してくれた。

「まぁ僕たちホビットも、ヒューマンは女として見れないなぁ」

「儂らノームもな」

「俺モ」

いや、蜥蜴人(リザードマン)は言わなくても分かる。


でもでも、シノブはハーフエルフだよ。

エルフとヒューマンのハーフってことは、種族を超えた恋もアリだよね。

「エルフとヒューマンだけよ、種族を超えた恋が成立するのは」

そなの?


「いやそうでもない」

意外なところから反論が出た。

レストン隊長だ。

「私には人虎(ウェア・タイガ)の血が混じっている」


結局、ヒューマンは、エルフ、人虎、人狼(ウェア・ウルフ)と種族を超えた恋を成立させるが、他の種族間はムリらしい。

例えばドワーフとノームはムリだし、エルフと人虎もムリ。

ヒューマンだけ。見境いナイのは。


いやでも、イエムンはイワトと結婚してたんだよね。

ムリじゃないんじゃない?

「結婚はしとったが、男と女というより友人じゃった」

チョムスがポツリと言った。


チョムスによれば、50年ほど前にイワトが探索者を辞め、キヘンと一緒にこの店を始めた。

「辞めた理由は?」

「イワトの年齢じゃ」


多種族に比べ、ヒューマンの老いは早い。

ドワーフとホビットの寿命はヒューマンの倍。ノームは3倍。エルフに至っては4倍の寿命を持つ。

ちなみに蜥蜴人を含む獣人たちも、ヒューマンより長いらしい。

だから同じパーティを組んでも、ヒューマンだけが先に引退する。


「その時、キヘンが実家の店を継いでイワトを雇った。だから周りはキヘンとイワトが付き合ってると誤解したんじゃろ」

じゃが、とチョムスは首を横に振る。

「キヘンとイワト、そしてイエムンは親友同士じゃった」

そこに色恋は無かった、とチョムスは言う。


「その後、キヘンが仲をとりもち、イエムンがイワトを娶った」

「だが、イエムンがキヘンに騙されて結婚した、という者もいる」

それが動機となるかは分からないが、とレストン。


「儂は信じぬよ。たとえキヘンがイワトとどんな関係であっても、イエムンはキヘンに感謝こそすれ、殺意など抱いておらんかった」

「夫婦の間の事だ。どんな感情があったかなど、周りには分からないものだろう?」

正論を口にするレストン。


周りでは「お前、結婚したこと無いくせに!」という言葉を飲み込んだ者たちが、のたうちまわっている。

口に出したら命は無いからだ。


50年前に探索者を引退したってことは、イワトの年齢は?

「享年84才」

寿命だな。

イエムンの年齢は?

「119才。ちなみにキヘンは128才」

ヒューマン換算で59才と64才。まだ数十年は生きられる年齢だ。


俺はパラケルススに問う。

事件の関係者でB型の者は?

「おらん」

1人も?

「1人もじゃ。ちなみにここ数日、島内で大怪我した者もおらん」

では、そのB型の血の足跡は何だ?


俺はふと思いつき、固有能力(ユニーク・スキル)を使った。

(コ・ルゥアンリ)(・ゾエ・スカミ)

一種のネット百科事典だ。

制約はあるが、大抵の知識はこれで得ることができる。


「イエムンを復活させれば、犯人は一発なのになぁ」

「無理じゃ。食屍鬼と化した者は復活できん。日が変わる前に灰にせねばならん」

傍で、マルクとチョムスが、ボソボソと会話していた。


「というわけで、捜査は手詰まりだ」

レストンは肩を竦め、俺を見る。

「だから、ダーリンがこの事件を解決してくれたなら、何でもしよう」


ん?

今、何でもするって言ったよね!

つか、さらっとダーリン言うなし。


ふと、違和感を感じた。

さてみなさん。

ここで数分お時間拝借し、いったい何がどうなったか考えて頂きたい。


【解決編】は明日(7/29)投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ