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Trick & Magic  作者: tema
プロローグ
1/40

主人公の紹介代わりの前段

「ここは…どこだ?」


さっきまで――ほんの数秒前まで、俺は池袋駅の7番ホームで帰宅ラッシュの人波に揉まれていた。

あの人波は、綺麗さっぱりない。

そしてホームも、池袋駅自体ない。


「つか、ここ東京じゃねーだろ!」


あたり一面の草原の上で、俺は自分自身にツッこんだ。

ふと空を見上げる。

満天の星空に月が2つ浮かんでいる。


待て。

月が2つ?


俺が生まれる前から、月は1つだけだった。

生まれた後も、月は1つだけだった。

もしそーじゃナイと言う人が居れば、連れて来なさい。俺がとっくりと説教してやろう。


目を何度も擦るが、相変わらず月は2つだ。

しかも、1つは円形じゃなく長細い形してる。こんな月、見たこと無い。

つまり、ここは地球じゃない。

少なくとも、俺の住んでいた地球ではない。


呆然と月を見上げる俺の視界に、集落っぽい影が映った。

他にアテもない俺は、のそのそと集落に向かって歩きだした。

近づくにつれ、集落と思ってた影の細部が鮮明になり――

それが石造りの城壁だということが判った。


========

「なんだあれは」

「いかにも怪しい姿だが…」

傍聴人たちの声が耳に痛い。


昨夜、城壁の門に近づいた俺は兵士に誰何(すいか)され、不審者としてとっ捕まった。

今は手枷、足枷を填められ、2名の兵士の監視つきで引き出されている。

俺が立たされた場所は、裁判所のような場所だった。


左手には痩せた中年の男。髪の毛が少々薄い。

右手には若い男。こちらの髪の毛はワックスでも付けてるのか、逆立ってる。

そして正面には、スキンヘッドに髭を蓄えた、裁判官らしい老人。彼の手が握ってるのは、小さい木槌。

今にも木槌を鳴らし「判決、有罪!」とか言い出しそうだ。


幸いにして、裁判官が言ったのは別の言葉だった。

「被告人は、名前と出身地を述べよ」


裁判官や傍聴人、兵士に至るまで、聞き慣れぬ言葉で話している。

日本語でも英語でもない。中国語でも韓国語でもない。多分。

だが不思議なことに、内容が判る。

そして、俺自身もその言葉を流暢に話すことができる。


「森下…です。出身地は東京都練馬区…」

「モ…モルスゥツ…なんですと?」

どうやら、こちらの人にとって、俺の名字は発音が難しいらしい。

そして俺には、下の名前を大声で言えないわけがある。


側に立つ兵士に、小声で言う。

「実は俺の下の名は、○○○というんだが…」

ぐぷっ…

兵士が吹いた。


まじまじ。

そんな音がしそうな目で、俺を見る兵士。

違う、誤解だ。

日本では普通の名前なんだ。ちょっとキラキラかも知れないが。


ただしその名は、こちらの言葉では非常に恥ずかしい意味になる。


兵士は傍らに事務員っぽい者を呼び寄せ、耳打ちをする。

ぐぷっ…

事務員が吹いた。


事務員が裁判官の下に走り、耳打ちをする。

裁判官は、吹きこそしなかったがマジマジと俺を見る。

「モルスゥツ…被告人。トウキョウトとは、どこにある街ですかな?」

俺の名はスルーされた。


「日本です」

傍聴人がざわつく。


「裁判長、検察側で調査しましたが、この者の服装、持ち物はニホンの物とは思えません」

左手に立つ中年の男が、甲高い声で言う。

「別国の間者(スパイ)である。検察側はそう主張します」


「裁判長!」

右手に立つ若い男が、声を張り上げる。

「ニホンからの来訪、そして異様な服装と持ち物、これは1つの可能性を示しています」


この者は、とその若い男は俺に人差し指を突きつける。

「異世界から転移して来た可能性があります」


========

この世界には時折、異世界から転移して来る者がいるらしい。

その転移者は、決まって"ニホン"から――この世界のニホンとは異なる国から来る。黄色い肌で顔が平たい者だ。

転移者の中には、時に優れた能力を持つ者も居る。だが、大半は普通の人間らしい。


なぜ、どうやって、転移したのかは不明。

誰が、何のために、転移させたのかも不明。

ただし、見分ける手段はある。


俺の目の前に、黒曜石でできた高さ1mほどの石柱がある。

「その上に、両手を乗せるように」

裁判官の指示に従い、俺は手枷を嵌められた両手を乗せる。

傍らのフードを被った男が何事かを呟くと、視野いっぱいに文字列が見えた。


# 氏名:モリス

# 年齢:29

# 職種(クラス):会社員

# レベル:1

# 種族:ヒューマン(異世界転移者)

# 力 :6

# 知恵:12

# 信仰:3

# 生命:10

# 俊敏:8

# 運 :2

# 固有能力:叡知


なんだこれーっ!


氏名欄には一瞬本名が映ったものの、次の瞬間"モリス"と変更された。

職業が"会社員"ってそのままだな。

だが重要なのは――


「やはり、異世界転移者でしたね」

右側の若い男は得意げに言う。

左側の中年男は悔しそうだ。

そして裁判官は木槌を振り上げ言う。


「では被告人に判決を言い渡します」

俺は無罪となり、裁判は終わった。


========

自由の身となった俺は、職安に連れて行かれた。いや、案内された。

こちらの世界に預貯金があるはずもなく、今すぐなんとかしないと衣食住がヤバい。

というワケで職安。


幸運なことに俺のカバンには、電卓にスマホ、ノートにペンが入っていた。

腕時計もしていたし、服もこの世界では作ることができないシロモノだった。

それらを提供することにより、自立するまでの教育と衣食住を保証して貰うことになった。

更に幸運なことに、俺には魔術師の適性があった。


1ヶ月の訓練で魔術を発動できるようになり、初歩的な呪文を使えるようになった俺は、探索者として第2の人生を始めた。

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