前
「大鳳」
「大鳳」
何度かの呼び出しにより、一人の電子少女が目を覚ます。真っ赤な髪をツインテールにした幼い少女が、寝足りないのか同じく赤い目をゴシゴシと擦っていた。周りには複雑な機械がいくつも置かれており、ワンピース姿の少女をぼんやりも浮かばせている。
少女が目を覚ましたからか周りの機械が静かに動き出し、消灯していた信号もあたりを走り始める。しばらくすると、少女の伸びとともにあたりの空間の照明が薄くついた。同時に姿勢制御のバーニアが起動し、穴の空いた箇所から轟音が聞こえ、やがて聞こえなくなる。
「なに……?」
「何ではありませんよ。どれだけ寝ていたのですか?」
「だって誰も食べ物をくれないんだもの」
大鳳と呼ばれた少女はそう言って親指を加える。機械音声は確かにそうだと解析する。少女の動力源は自己生成可能だが、それでも整備が必要になる。大鳳が最後に整備されたのはもう何年も前の出来事だ。自己修復装置があっても、その自己修復装置が壊れれば一緒のことである。
「それにね、最近眠ってる方が楽になって来た気がするの。前までは起きてる方が楽しかったのにね」
それは人が居たからですよ、とは機械音声は言わなかった。高度な人工知能を持った機械音声の主だが、大鳳の基幹システムの少女は元人間。そして長年一緒にいるのだから、当然気遣いなども覚えることになる。人工知能は学習するのである。
そして少女が眠ったまま起きないようになっているのも問題であった。少女は本艦のメインシステムであり、全決定権は少女にある。このホログラム体の少女が言っているのが本当であれば、無自覚の内にスリープモードへと変更しているのだろう。
本艦は戦闘艦である。戦うことが任務の艦である。サブシステムは戦闘可能状態を作り出すのも仕事だ。動力源が尽きない限り常に臨戦状態であるのが仕事だ。だからこの時もそうメインシステムへ宣告しようとしていた。
「だからね、また長い眠りにつこうと思ってるの」
「だめですよ」
「だって、だってね、まだ私あなたとお話ししたいし、この光景を見ていたいしこの感触を感じていたいし………………」
ホログラム体から涙のような表現が現れる。
「だって、だって、死にたくないの」
此処は宇宙の墓場と言われている場所。宇宙軍艦達のエネルギー源である気流が豊富に存在しているため、それを欲した人工知能達が流れ着く所である。
彼等の戦闘力はあってないものだが、油断はしないほうがいいだろう。瓦礫にしか見えない彼らだって、元々本国では一級戦の戦闘艦だったのだから。