告白
そこまでは良かったのだが、そこからの後藤の発言で僕の心身は凍り付いたようになった。
「ところで、シンヤ、俺の入っている、遠尊の会に入らないか?」
遠尊の会とは、一言でいえば、最近有名な前衛芸術家集団のことだった。前衛芸術であることには何の問題はないが、クラウドファンディングで資金を集めをしながら、政治や宗教などを題材とした風刺的で過激な芸術的活動により知られるようになった。またさらに最近では、公共施設に無断で作品を掲示したり、有名大学のキャンパスでの強引な勧誘が目立ち、世論やメディアも問題視していた。
後藤の『遠尊の会』という言葉を聞いたとき、僕は真っ先に自分の父の発言を思いうかべた。僕の父は常々こう言っていた。
「怪しげな各種団体に入って自分の人生を狂わせることのないように。自分の人生は組織が決めることじゃない。自分の人生についての価値は、自分が作っていけ。」
表情が引きつり、眉をひそめているまま、僕は後藤の話を聞いているポーズをとっていたが、本当は動揺のあまり何も内容が頭に入ってこなかった。
後藤は、そんな僕の様子をかまうことなく、『遠尊の会』の話をつづけた。
「『遠尊の会』というのは、日本の戦後芸術復興期の前衛芸術運動の系譜に属していて、特にうちらの活動は神秘主義を核に実践的活動を行っているんだ。その教義とは『遠く、尊い』もの、つまり神秘で表現されるべき真実を絵画や彫刻、サブカルチャー、その他さまざまな表現技法を使うことで、解き明かしていくというものなんだ。……」
「『遠く、尊い』ものねえ……僕にとって最も遠くにあって不可侵であるべきものは『死ぬこと』以外の何物でもない気がするんだが。それを美化するというのも、なんだか妙だがな。」
僕は、まずいことを言ってしまったとすぐに感づいた。これ以上ここにいると何をされるかわからないという不安が僕を襲った。なかなか二の句が継げなかった。ようやく必死に開いた僕の口からは、こんなずさんな言い訳が出てきた。
「あ、そういえば、僕ほかの人の飲みもこれからあったの忘れてたよ。大学であるんだ。またじゃあね。」
「お、おい!急にどうしたんだよ……?」
僕はアパートの部屋の扉に向かって一目散に逃げた。そして扉を開きかけた。その時だった。
「ある時目の前に急に何億円もの大金が目の前にあったらシンヤはどうする?芸術にもそういう力があるんだよ。」
「取らない。」「……なんだって!?」「自分は取らない。そんなことしたら警察に捕まる。」
遠藤は見る見るうちに顔を赤らめた。「俺が話してるのは芸術のことだよ、表現の自由に比べたら警察なんてなんでもないよ!」
「なら明け渡す。」「え?」「必要としている者がいるだろうからそっくりそのまま置いていく。僕は取らない。僕に必要なのは金でも愛でも理念でもなく、自分の人生だけだ。僕は僕の人生のためだけに生き、そのためだけに死ぬ。その他のことはどうだっていい。」
僕は開きかけのアパートの扉を蹴り開けて後藤から逃れた。