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学生の日の思い出  作者: 三文字
学生の日の思い出
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頽廃

 僕は大学が嫌いだった。にもかかわらず自分の大学生活に耽溺していた。

 今まで勉強づくめだった毎日。その毎日は一見単調なものに見えても、振り返ってみれば色々なことが待ち受けていたものだった。今になってみれば、あの時あれほど勉強した自分が嘘のように思えてならない。分厚い参考書の一冊を眺めるだけでも、普段の学校生活の中でどのようにこれをこなす気になったのだろうと不思議に思う。実際最後まで終わらずにお蔵入りになってしまった参考書も何冊かあった。それを直前期には塾と学校の勉強の他にやっていたことを考えると……なんだか気が遠くなる。

 直前期は体調の管理もなかなか難しかった覚えがある。学校でも塾でも眠い状態で出席し、家は寝る場所になっていた。寝落ちしそうになりながらも必死に英単語帳に食らいつく自分を、どうするわけでもなくかすかに鼻で笑い、お前がそんな大学に行けるのかとただ嘲るだけの塾長。そしてその塾長の学歴や行動を小馬鹿にし、男子生徒たちを下ネタで笑かすことだけに拘泥する出来損ないの大学生助手。そんな塾の内情を知らず素朴に合格を祈り続ける両親。

 そういった諸々から突然解放されたことで、僕の精神はどこかタガが外れてしまったようだった。自分の人生の中で、社会全体から見放してもらえる数少ない時間に浸るかのように、僕はバイトと授業のない休日には決まって、ライトノベルとゲームとネットへの書き込みをつまみに酒を昼からひたすら飲み続けたものだった。

 そんな不摂生がたたって、ある寒い冬の日に僕は風邪を引いた。

 風邪はなかなか治らなかった。高熱で動くのがつらくなった。呼吸は次第にし辛くなり、喘息のような症状で寝苦しい夜を過ごすようになった。

 「恋しい。」

 僕は訳もなく思った。今になって高校のころの友人が急に懐かしく感じ始めた。

 塾でも、自分がいた優クラスでも、仲の良い友人は自分にはあまりいなかった。僕は優クラスの、自分の成績を上げることにひたすら執着しながら、口先ではうわべだけの卑下を繰り返す生徒たちの群れが苦手だった。中学のころにとある恩師のおかげで勉強が好きになり、学問に対して重ねてきた純粋な好奇心と喜びを彼らによって汚されたと思った。また、塾は言った通りの状況で、もろ手を挙げて環境がいいと口にできる場所ではなかった。僕は残念ながら、そういった人々に口を利くのに苦労を感じた。その僕が友としたのは、受験という名のしがらみを抜きにして付き合うことのできる他クラスの男子生徒だった。趣味も能力傾向も接点がなさそうな僕だったが、その友人たちといる時間が、一番居心地が良かった。

 当初は、風邪を引いた状況にもかかわらず、酒を完全にやめることはできていなかった。それはネットの活動にしても同様だった。しかしさすがに風邪が進んでいくにつれ、次第に酒を飲まなくなり、時間のある限り一人暮らしをしているアパートで一人臥せっていることが多くなった。

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