9話 障壁と密談
高度魔法師養成高等学校は特別な許可がない限り学園の外へ出ることを校則で禁じている。そのため娯楽施設が建ち並んだ娯楽エリアやショッピングが楽しめる商業エリアなどある。商業エリアの中にある生徒の間で話題のカフェに樹は1人でコーヒーを片手に、資料を見ながら明日の作戦を考えていた。
一人でも征圧はできるが実力派の二人も参加するとなるとサポートであと二人は欲しいところだが、選ぶにしても誰が適任かどうか情報が無くて分からない。いっそ1人のほうが……
「こんなところでなにをしているの?」
なんてことを考えていたタイミングにクラスで1番最初に話しかけてきたまた少女に声をかけられた。
「あぁ、白雪か。明日のことについて少し考えていたんだ」
「明日?」
「これを見てくれ」
柑奈の頭の上には「?」が浮かんでいる。
少し驚いた様子の柑奈。とりあえず資料を渡した。
柑奈は資料に目を通していくが、だんだん険しい顔になる。
「これは何?」
「見てのとおり敵の情報だ」
「それは見れば分かるわ。なぜ私に見せたの?もしかしてこの組織を潰すのに加担してほしいとでも言うつもり?」
「話が早くて助かる」
柑奈は深くため息をついた。
「私は仕事で忙しいから無理ね」
「そこをなんとか。頼めるのは白雪しかいないんだ」
それを言われて柑奈は驚き、少し落ち着いてから顔を少し赤くして照れながら言った。
「それなら私のお願いを1つ何でも叶えてくれるならいいよ」
しかし、樹は少し頭を悩ませた。大金を強請られたり、結婚してほしいはさすがに要求されることは無いだろうが、生涯を終えるまで私の下で働きなさいという奴隷のような扱いをされる可能性は無いとは言い切れなかった。
「分かった。俺ができる範囲でなら協力する」
「交渉成立ね」
顔にはでていないが少し嬉しそうに見えた。何を要求されるのか考えるだけで恐ろしい。
「では、最初から説明をお願い」
マリーに依頼された任務の成り行きを説明した。他の生徒に聴かれないように魔法で防音対策をした障壁を気づかれないようにこっそりと生成した。これで障壁が壊されない限り他の生徒から聴かれる心配する必要はないだろう。
「それで作戦は決まったの?」
「いや、まだだ。万全を期すためにあと二人ぐらい人手が欲しい」
「誰が参加するの?」
「今のところは、俺らの他には生徒会長の夷川 時雨先輩と副会長の九条 弥生先輩だ」
「学内ランキング1位と2位ね……」
ふーんという表情をする柑奈。七神族の1つ、夷川家の次期当主と剣技で有名な九条家の愛娘。この学園で最強の二人がこの作戦にしない理由がないと予想していた。
「あとは誰を誘うつもり」
「まだ決めていない。無理して誘ってリスクを上げるのだけは避けたい」
「勝算はあるの?」
「もちろんだ」
俺一人なら確実にって話だけど。白雪が知ることはまだ先だろう。今は何も知らないままで平和に過ごしていてもらいたい。
「それはよかったわ。」
柑奈は荷物をまとめ、さっと立ち上がる。
「私、少し寄りたいところがあるからこの辺で失礼するわ」
「そうか。いつまでも障壁を張っておくわけにもいかないしね」
「障壁?」
えっと驚く柑奈。指を鳴らして障壁を解除した。
外には気づかれないよう注意して。
「それじゃあ、行こうか」
「ちょっと待って」
「どうかした?」
「いつの間に魔法を使ったの?あなた何者?」
魔法を発動するにはアドイドを使用する。
アドイドは、魔法発動補助システムを組み込んだ情報端末の総称のこと。主流の薄いタブレットから刀や銃など様々な型がある。
魔法を発動するにはまず、事前に魔法式をアドイドに直接入力し、登録する。使用する時には自身の魔力を威力、発動時間、対象までの距離など情報体に変換してアドイドに直接注ぐ。そうすれば魔法が発動する。
指を鳴らすだけでは魔法を発動することができない。柑奈の戸惑いは当然である。しかし、障壁のタネを知られるのは厄介だ。
「ただの新入生だよ」
柑奈には振り向かずに店の外に出た。
逃げるように拠点へ向かった。
白雪には悪いことをしたな。明日謝っておかないと
なんてことを反省していたらアドイドが鳴り始めた。アドイドは通話もできる。お相手はマリーだった。
「もしもし」
『樹、明日の作戦は中止よ。状況が変わったわ』
状況が変わっただと。急に変わるということは良くない知らせということか。
「次の襲撃に向けて準備を始めたわ。今すぐあの廃工場に行って殲滅してきなさい」
「了解!」
今まで作戦を考えていたのがアホらしくなってきたが急いで敵拠点とされている廃工場へと向かった。
読んでいただきありがとうございます。これから少しずつ物語が動きます。次回11月28日に更新予定です。