8話 2つの資料と特別演習
学校が終わってからは仲良く遊びに行こうよと相談しているグループがいるが樹は違った。初日から学園長、つまりマリーが呼んでいるからだ。なにかの間違えではないのかと疑いながら扉を叩いた。
「失礼します」
部屋の奥で学園長が資料を持ち、背もたれが後ろに向いていた。
「待っていたわ、樹」
「マリー何の用だよ」
「そう言わずに座りなさい。」
学園長の机の前にある応接用のソファー。見ただけでも値段がとてつもなく高いことが分かる。言われるがまま高級なソファーに腰掛けた。マリーも向かいがに座り、二つの紙の資料を机の上に樹が見やすいように置いた。
「これは?」
「左側は今日の襲撃した犯行グループの詳細と潜伏先。右側は今学期の予定です」
樹はなぜ紙の資料なのか疑問に思ったが、左側の資料を手に取った。一枚一枚ざっと目を通していく。
今日の襲撃事件の報告書や、犯行グループの名前、所在、拠点などこと細かく記載されている。
それにしてもここまで出来上がっているにはいくら何でも早すぎる。最低でも1日はかかるはずがまだ1時間程しか経っていない。
「早いですね」
「私の部下がとても優秀だからよ」
マリーのドヤ顔をしていたが見たくないので資料を見た。
「実はその組織について、その資料に載っていないのことがあって……」
マリーが神妙な面持ちで話し始めた。
「シーラスの反政府組織なのよ。情報は最初から掴んでいたから警戒していたの」
薄くて画面が広い情報端末を樹に渡した。
そこにはシーラスの反政府組織「ファーズ」の詳細なデータが記されていた
「まず彼らはいくつもの国に支部を創ったわ。当然日本にもね。日本の支部の下についた組織の一つに最近活発に活動をしているテロ集団があるの」
「つまり、そのテロ集団をつぶせということか?」
「話が早くて助かります。作戦開始日時なのですが明日、学校終わってからでお願いします」
母親が小学生に学校帰りにお使いを頼んでいるようにしか思えないのは心の中にしまった。
「それで、場所は?」
「特区の外れにある廃工場です。そこまで大きくないので派手にやってもいいですが、あなたの魔法の痕跡だけは残さないでください」
「それは誰かを同行させてもいいってことか?」
「そうですね……」
マリーは少し頭を悩ませた。樹1人で問題ないし、取り逃がす可能性もゼロに近い。樹の魔法の痕跡が現代の技術の進歩によって残らないのは秘密だが、万全を期すために二人を選出した。
「それでは生徒会会長の時雨さんと副会長の弥生さんにも依頼しておきますね。あと2、3人増えても作戦に支障はないでしょう」
「二人の得意魔法を知らないけど大丈夫なのか?」
「二人なら大丈夫よ。この学園でもかなりの実力派。それに、魔法師全体でみてもそれなりに戦える優秀な魔法師よ」
「それなりね……」
マリーの言葉を鵜呑みにしても問題ないのだろうか。二人については何も知らない。即席のチームでは危険が伴う。連携がとれないこと。これについては樹もよく分かっている。最悪死者が出るだろう。そこで導き出した答えが、
「作戦は俺が考える」
自分がやりたいように敵も味方も動かすことが出来る。
「やりやすいように頑張りなさい」
学園長の許可も降りた。あとは作戦内容だがこれは家に帰ってからじっくりと考えるとしよう。
では次だ。もう一つの方は、一学期の学園行事が記載されているらしい。中をよく見てみると、いろいろとおかしい。
「この特別演習って何だ?」
この日にテストや遠足など学園行事はもちろん記載されているがその隣に「(特別演習)」と手書きで書かれていた。
「特別な演習ですけど、どうかしましたか?」
「その内容を聞いているのだが」
「予定は未定ですよ。詳しい内容はまだ私も決めていません」
まさかの返答で驚いた。
いずれ時が経てば分かることだ。あると分かっただけでも良しとしよう
樹は深いため息をついた。マリーのことだからとやっぱりなと思い、しぶしぶ諦めた。
「それういえば大丈夫でしたか?」
「何がだ?」
「朝、家から出たときに変な目で見られませんでしたか?」
なんか変な質問だなと思った。
「朝は誰とも会わずに来たから何も無かったけど、それがどうかしたか?」
「いえ、なんでもないですよ」
マリーはどこか楽しそうにクスリと笑った。
やっぱり変だ。
樹が肝心なあることを忘れているのである。
「では明日はお願いしますね。状況が変われば連絡しますね」
「あぁ、助かるよ」
「それとアドイドを使って魔法を発動してくださいね」
「分かってるよ」
本人はその事がどれだけ大切か分かっていない
樹は二つの資料を鞄に直し、学園長室を後にした。
あまり良いとはいえない状況だけど樹はどんな子を選ぶのかしら?
マリーはふふっと笑った。
読んでいただきありがとうございます。次話はさっそくあの子と絡みます。11月21日に更新予定です。