1話 失踪
魔法という未知の領域の理論が発表されてから、数世紀。人類が魔法を使えるようになるまで100年以上かかった。最初は人類の明るい未来のために研究されていたが人の欲望は満たされることはない。兵器として研究・開発を始めた。すぐに戦争になるのは目に見えていた。そこで国連加盟国で「魔法師を使って他国に干渉しない」というたった一つの約束をした。そして、魔法を自由自在に使える人間を魔法師と定義した。それから1度も戦争は起きていない。そして、人類は魔法発動補助装置「アドイド」の登場により魔法を皆平等に使えるようになっていた。
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日本から約二千キロメートル離れた沖合で国防省保有の護衛艦から敵国が軍港として使用しているであろう島々を1人の少女が魔眼を使い、観察していた。
彼女の魔眼の能力は数十キロメートル離れた場所でも魔法師の魔力を感知することができる。
「隊長、三時の方向、複数の敵艦と一個大隊程度の魔法師の反応あり」
三時の方向にある島はそれほど大きな島ではない。
「了解。これより敵艦及び敵魔法師部隊への攻撃を開始する」
隊長は全神経を集中させ、三時の方向にある島全てを覆う魔法障壁を展開させた。隊長の魔法障壁は規模が大きすぎて、結界といった方がしっくりくる。
「焔。全力でやれ」
隊長に命令されるがままに彼女は魔法を発動し、結界内全てに広がる大爆発が起き、島は跡形もなく消滅した。
すかさず私は魔眼で結界内の敵魔法師と敵艦の反応があるか確認する。
「敵艦及び敵魔法師部隊の反応無し」
隊長は支給された薄型端末で国防省の本部へ連絡を繋いだ。
「第七から本部へ」
『こちら本部』
「敵拠点制圧完了。これより本部に帰還する」
『了解。別任務遂行中の第八小隊と合流したのち、本部へ帰還してくれ』
「了解」
─ 通信終了 ─
その文字が画面に表示された瞬間、今まで死神みたいな顔をしていた隊長の表情が解けた。
「これより別任務遂行中の第八小隊と合流したのち、本部へ帰還する」
少し沈黙した後、他の隊員も死神みたいな顔から解放された。
「やったー!!!」
「よっしゃー!!!」
そして喜びへと変わった。
私たちはまだ10代前半のこどもで構成された特殊部隊「国防省特殊機動部隊」に所属する魔法師だ。
敵拠点を複数制圧する長期任務を終えて、久しぶりの休暇が待っているので皆テンションが高い。
1人の隊員が嬉しそうにこどもみたいな発言をした。
「帰ったらなにする?打ち上げでもやるか?」
「賛成。みんなでお菓子とか持ってきてパーティーやろうよ」
「やろうやろう!久しぶりに日本に戻れるんだから少しくらいの贅沢はいいよね、隊長?」
隊長を除く隊員6人全員が早く許可してくれと熱い眼差しで隊長を見た。
隊長も6人と同じ気持ちだった。
「帰ったらパァーっとやろう」
「隊長ありがとう。帰ったらパーティーよ」
「「「おーーー!!!」」」
隊員全員がパーティーを楽しみにして本部へ帰還した。
「皆、ご苦労だった」
本部に帰還した私達を出迎えたのは国防省の上層部の1人、八神の部下だった。
「No.012。八神少佐がお呼びだ。ついてこい」
No.012というのは隊長のことだ。
私たちに名はない。正しくは名を消された。
国防省特殊機動部隊の人間は兵器として研究所で開発・調整された魔法師。なので私たちは全て番号で管理されている。研究施設の関係者や国防省の関係者は私たちの名は不必要なものでしかなかった。
私たちは同じ仲間として私たちの中だけで消された名で呼びあっていた。
「俺が戻ったら盛大にパーティーを始めよう。また後でな」
隊長はどこか寂しそうだった。
私たちはパーティーのことで頭がいっぱいでその時、気づけなかった。
私達はパーティーの準備して隊長を待っていたが、隊長が戻ることはなかった。
しばらくして、隊長は神に消されたと八神少佐から説明を受けた。
その頃本部では、次の計画を進めることが決定していた。その計画の責任者として任せられた矢神慎也は悩んでいた。
この計画は兵器として研究所で開発された魔法師。まだ10代前半のこどもで構成された特殊部隊「国防省特殊機動部隊」に敵拠点を複数制圧する長期任務を与え、最も危険だと判断された者を速やかに処分するというものだった。
国防省特殊機動部隊には第一から第十までの小隊と、約百名の隊員で構成されている。
その中でもずば抜けて戦果を挙げているのが第七小隊だ。隊員の顔ぶれは第七小隊結成時から1人も変わっていない。
彼らは死神だ。大小問わず何千という数の敵拠点を文字通り、跡形もなく消滅させてきた。
そんな彼らの中で1番戦果を挙げているのが第七小隊の隊長だった。
文字通り、敵拠点を消滅させてきたのは彼である。
魔法障壁を張るのを得意とする魔法師だがこの魔法障壁の何もかもが桁違いだ。
本来、魔法障壁は防御として使う。
敵と対峙した時、魔法障壁だけではいずれ己の魔力が尽き、勝てない。そのため攻撃するための魔法を使うためにそちらに魔力を回さないといけない。
魔法障壁に使える魔力はかなり限られている。
しかし、彼は防御だけではなく攻撃にも使う。
広範囲に魔法障壁を展開し、結界として使い、範囲を徐々に狭めることで最終的に結界範囲内を更地にする。
彼には親もいなければ、名もない。産まれてからずっと研究員からはNO.012と番号で呼ばれている。
処分を決定付けられた計画を覆すのは難しい。 No.012をどう処分するか真剣に悩んでいた。
とりあえず時間を稼ぐために第七小隊のメンバーでパーティーをしていたのが終わってからNo.012を監獄に閉じ込めた。
しかし1週間後、彼は突如姿を消した。
30年経ったら今でも彼の姿を見たものは1人もいない。