見えない目〜夢の祝福〜
「見えない目」の続編です。「見えない目(https://ncode.syosetu.com/n7649en/)」を読んでからお読み下さい。
読みにくいとは思いますが、児童向けにあまり漢字は使わず、漢字全てにルビが振ってあります。ご了承下さい。
ホトリは、夢を見ていた。
あれは、二年前のとても寒い冬の日のことだった。
外に一度出たら、二度と戻って来ることができないくらいの猛吹雪で、だれも人が訪ねて来ようとは思っていなかった。
ところが、夜の十時頃、戸をたたく音が聞こえてきた。
ホトリも母親も耳を疑った。
——トントントントントントントントントントン。
リズムよく戸をたたく音。
しょく台を片手に持ち、もう片方の手をホトリとつないだ彼女と二人、ろう下を進んでいく。
戸の前まで行き、「どなたですか?」と、彼女が尋ねた。
すると、「私は、夢使いのナグと言います。」と、名のった。
「夢使いですか?」
「そう。夢使いです。」
「その、御使いさまがこんな日にどうされたのですか?」
「哀れな、少年に夢の祝福を届けに来ました。」
「まあ、それはありがとうございます。戸を開けるのでお待ち下さい。」
そう言って、彼女は戸を開けた。
夢の御使いは、雪玉のようなものを差し出し、ホトリの頭の上にのせて言った。
「この祝福は、時が来たらこの子の中からとけ出すだろう。」と。
そうして、夢の御使いは怯むことなく猛吹雪の中を進んでいった。
姿が完全に見えなくなると、ぱったりと吹雪が止んだ。
いつの間にかホトリの頭の上の雪は、消えてなくなっていた。
「よかったわね。ホトリ。」
「母さん。夢の祝福ってなんだろう?」
「さあ、何かしら? きっと、素敵なものにちがいないわ。その時が来るまで、楽しみにしていましょう。」
「うん。」
*
「あー、すっかり忘れていた。あの祝福は、何だったのだろう?」
そう、目を覚ましたホトリがつぶやく。
起きだして、身支度をしていると、戸をたたく音が聞こえてきた。
戸を開けると、「やあ、ホトリ。元気にしていたか?」と、おじさんがあいさつをした。
「おじさん!」
「姉さんは、いるかい?」
「母さんは、いなくなったんだ……。」
「何だって!? まだ、子どものホトリをおいてどこに行ったんだ?」
「わからないよ!」
そう言って、ホトリは彼に抱きついた。
ホトリは、母親の死をいまだに受け止めきれていません。
「かわいそうに……。」
彼はそう言って、ホトリを抱き返した。
「ホトリ。いつから一人でいるんだ?」
「昨日からだよ。」
「そうか。それなら、誕生日は一人だったのか……。今から私とお祝いしよう!」
「おじさん、ありがとう!」
そうして、二人でお祝いしていると、すっかり暗くなり夜になった。
ホトリの目が開きはじめる。
ホトリは、目を開けて彼を見た。
すると、彼の胸のあたりが黒く見えるではないか。
さらに目をこらしてみると、彼が寝ているホトリをしばって、知らない人に渡している姿が見えた。
ホトリは、魔法使いの言葉を思い出す。
『わたしの魔法が未熟だったから、あなたの目が昼は見えなくなってしまったの。そのかわりに夜になれば、ほかの人には見えない心の中まで見えるはずよ。』
「これは、おじさんの心の中なの?」
ホトリはそう思うと、とても悲しくなった。
やさしい彼が、自分をすてるはずがない。そう思いたかった。
けれども、彼の胸のあたりを見ていると、ホトリを渡した後の彼が大金を手にし、大笑いしているようすが映し出された。
それから、実際の彼の顔へと目を向ける。
すると、ニヤニヤと笑みを浮かべていたのだ。
ホトリは、これが彼の本性なのだとさとった。
「あれ? ホトリ。目が開くようになったのか?」
「うん。見えないけど、まぶたを上げることができるようになったんだ。」
ホトリはとっさにウソをついた。
そして、彼に売られないようにするにはどうしたらいいかを必死に考える。
「そういえば……。」
地下にたくさんのお酒が保管されていることを思い出した。
「おじさん。お祝いと言ったらお酒だよね? 地下にたくさんあるって母さんが言っていたんだ。よかったら、好きなだけ飲んでいって。」
そうして、地下から運んできたお酒を次から次へと注ぎ、酔いつぶすことで先に寝ないようにした。
空ビンが十を超えるころになり、やっと彼は酔いつぶれて眠った。
ホトリは、ホッとして口から息をはく。
その時、しょく台のロウソクが燃えつきて火が消え、真っ暗闇になった。
闇がホトリの心を黒く染めていくかのように、怒りの感情がわき上がってくる。
「魔法使いのウソつき! どこにすばらしい世界が広がっているっていうんだよ! 夜だけ目が見えたって、真っ暗闇じゃないか……。」
ホトリの目に涙があふれてきた。
涙を服の袖でぬぐい、窓の外に目を向けた。
「昨日はあんなに星がかがやいていたのに、今日は、星も月も何も見えない。……母さん。ぼくはどうしたらいいの?」
ホトリは、彼をどうしようか悩みながら、しょく台に新しいロウソクを立てて、火をつけた。
すると、彼が寝苦しそうにうなっているようすが見えた。
なぜか、彼の頭がぬれて水たまりができている。
しばらくすると、彼がガバッと起き上がった。
ホトリはびっくりして、後ろへ下がる。
彼はホトリの姿が目に入ると、おびえだし、謝ってきた。
「許してくれ! 何もしないから殺さないでくれ!」
「えっ!?」
ホトリには何がなんだか分からない。
「もう、ここには来ないから許してくれ。」
彼はそう言って、あわてて出て行った。
残されたホトリは、ぬれていた場所をぞうきんでふこうと、その水たまりにふれる。
すると、突然、その場所をなでるように風が吹き、水たまりは消えてなくなった。
「もしかして……。これが、祝福?」
*
その後も、一人になったホトリを下心を持って訪ねて来た者たちは、何人もいた。
しかし、その者たちはみんな悪夢にうなされ、おびえて去って行った。
ホトリは、時々訪ね、助けてくれるやさしい人たちには、母親が残していった涙の水晶を木箱から出して渡し、感謝の気持ちを伝えた。
ところが、やさしい人たちは、それを受け取ることはなかった。
「それは、あなたにとって大切な宝物でしょう? それを私にくれようとするその気持ちだけで私の心は満たされました。その水晶は、あなたが持っていてこそかがやくもの。だから、ずっと大切に持っていてください。」と、みんな同じようなことを言うのだ。
そうしてホトリは、心やさしい人たちに見守られておだやかな幸せを感じながら、すこやかに成長していった。
さて、下心を持った者たちが、どんなにおそろしい夢を見ていたのか。
それを知っているのは、そのおろか者たちと夢使いのナグだけ。
あなたはその悪夢を見たいと思うだろうか?
※しょく台……ロウソクを立てる台のこと
お読みくださり、ありがとうございます。
「この作品は、続きが思いつかず強引に終わらせてしまったので、リサイクルに出そうか悩んでいます。
リサイクルにご興味のある方は、↓までどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n0888en/」
と、前作「見えない目」の後書きで言っておりましたが、思いついて続きを書いてみました。
そのうち思いついたら、さらに続編を書くかもしれません……。




