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倒れそうになるなら支えます。

本格的に夏休みに近づいてきて、文化祭に関する生徒会の仕事も忙しくなる。


「スケジュールはこれでいいかしら?」


「これでOKだ。はぁ~、今日はこれで終わりだな」


時刻は18時。スケジュールがなかなか決まらず、土曜日の午後に生徒会に顔出しをして、まさかの5時間かかるというもの。


だが、スケジュールが間違うと、全てが狂う。特に今回のような新しい挑戦には時間がかかるものだ。


タイミングとしては、期末テストも近い。テストのない3年生以外はそれにも追われる。


そのせいか、優希先輩の仕事量が非常に増えてしまっていた。


俺も真理亜も、もちろん他の2人も、夏休みに頑張ることを優希先輩に言って、仕事を止めようとしているのだが、そこは強情な優希先輩。夏休みに俺達に無理をさせすぎないように、必死に手伝ってくれている。


俺達が全員少しづつできない仕事を、優希先輩が全部引き受けてやっているのだから、その忙しさは俺でも根を上げそうであった。


「優希先輩大丈夫かな」


「ああ、ちょっと無理してると思う」


「心配ですよね」


「お姉さまはああ見えてすごくたくましいけど……、それでもやっぱり」


そんな日々が続く中、3年生の進路指導で優希先輩が顔を出せない日に、4人で軽く集まって話した。


全員が優希先輩のことを心配していた。


特に俺は、自分で提案したことであり、しかもそれ以外のことでも優希先輩に甘えてしまっていて、他の3人以上に申し訳なさがたつ。


「きっとお姉さまも聞いているのよ。今年の文化祭への不安の話を」


そう、ここ最近噂になっているのは、文化祭への不安だ。


今回俺が取ったアンケートでは、全てのクラスで賛成多数をもらってはいるが、それは賛成が100%というわけではない。


ある程度安定感のあった文化祭を、一新することへの不安の声はもちろんあり、それはじわじわと全校に広まっていった。


それは俺達が全員噂話で聞いている。優希先輩だけが知りません。なんて都合のいいことはありえないだろう。


明らかに最近の優希先輩は、頑張りすぎである。いつものほがらかな雰囲気や、どこか見せている余裕が感じられず、どこか必死であった。


「俺は、あんまいい噂じゃないんだが、翔と九十九パイセンが、こんな忙しい状況なのに、いちゃついているって聞いてる。それがすごく不満を感じさせているみたいだ」


「なによそれ! 誤解もいいところだわ! そもそもいちゃついてないし、仮に一千万歩ゆずってそうだとしても、ちゃんと仕事をしている人を悪く言うなんて最低だわ! そんな人がこの学校にいたなんて」


真理亜が本気で怒っている。そして、優希先輩のことだけではなく、俺のことも含めてかばってくれていた。


「真理亜、ありがとな。でもこれは俺が悪い。俺が提案して、俺が1番頑張らなきゃいけないのに、俺が優希先輩に1番甘えて、俺が学校全体を1番不安にしてしまっている。これは、俺の責任だ。そのせいで、真理亜、孝之、幸助、それにもちろん優希先輩にも迷惑をかけてる。だから、俺が優希先輩に、本気で話して、無理しないように言う」


「大丈夫ですか? 僕が言うのもなんですけど、元会長先輩が何かをしはじめて、それを止めれたことって、ないと思うんですけど」


「胸は柔らかそうなのに、頭は固いんだよな」


「ええ、私も……、って何言ってるの! 真面目な話に急に変な話を盛り込まないで頂戴! 私もそうだし。って言いそうだったじゃない!」


いや、今言ったし。と思ったが、今回は真理亜は比較的まとも側だ。余計な突っ込みは野暮だな。


「今言いましたね」


幸助~。


「そんなことはいいのよ! お姉さまにそんなことを言って大丈夫なの?」


「最悪嫌われるかもしれないしな。俺が言ってやってもいいぞ。俺は九十九パイセンに嫌われても、そんなに困らないからな」


「いいんだ、これは俺が言わないと駄目だ。俺はなんとしてでも優希先輩に、もう少し休んでもらう。優希先輩は俺達以上に大事な時期なんだ。これ以上は駄目だ」


もちろん気は重い。俺が本当の意味で優希先輩に逆らうのは今回が初めてであり、孝之の言うとおりに、嫌われるかもしれない。


だが、俺は優希先輩に仮に嫌われても、無理はして欲しくなかった。


「翔君、急にどうしたの?」


俺は携帯を使い、優希先輩を昼の休み時間に、優希先輩を呼び出した。


場所は生徒会室に上がる途中の階段の踊り場。この時間なら人気はほぼない。


「ああ、はい。優希先輩、最近のことなんですど。優希先輩がちょっと頑張りすぎだと思うんですよ」


いざ言わねばならないと思うと、意外とすんなりといえた。


「もう、皆そればっかりだね。大丈夫だよ。私は自分のできないことはやらないよ」


もちろん今日俺以外のメンバーも、優希先輩にこれを言っている。おそらく耳にたこが出来ているに違いない。


「そうですかね?」


「どこかミスでもあって迷惑をかけちゃったかな?」


「いえ、全く何もしてないです」


そう、大量の案件を抱えながら、優希先輩の仕事には何一つミスが無かった。


せめて、まだしてない。とでもいいたかったが、それは真面目にやっている先輩に帰って失礼だろうと思い、寸前で飲み込んだ。


「じゃあ問題ないんじゃないかな?」


「でも今のままじゃ、優希先輩に悪いです。もっと自分のことをしていただいても」


「……、いけないのかな?」


その瞬間、優希先輩の瞳が曇ったのが一瞬で分かった。


「私はみんなのために頑張りたいだけなのに……」


「はい、それは知ってます。そして、優希先輩がやりたくてそうしたいのも知ってます」


「だったら……」


「でも、明らかに最近の優希先輩は疲れてます。優希先輩が言ったんですよ。俺が倒れたときに、無理しすぎちゃいけない。周りを頼っていいって」


俺はずっと優希先輩を見てきた。


優希先輩は確かに、そういったところを見せないのがうまい。


俺の感じている違和感は、ちょっとした顔色の変化とか、仕草の変化、声がわずかにかすれているというくらい。


ある程度付き合いがなければ、気のせいで済まされるほどのほんのわずかの違和感ではある。


優希先輩がそれを見せたことは今回のことになるまで1度も無い。


「皆そんなに気にしてくれてるんだね。でも大丈夫だよ。皆ちょっと位の疲れは押してるものでしょ?」


「それは自分のためにやることだからです。優希先輩は生徒会の補佐がメインで、本来はここまで動くことはないはずです」


「なんでそんなことをいうの?」


優希先輩の瞳が潤む。それを見てひるみそうになるが、俺も引き下がるわけには行かない。


「私が生徒会として、動けるのは本当にこれが最後。だから、今まで以上に頑張って、皆をフォローしていきたいの。翔君が面白いアイディアを考えてくれたのに、不安に思ってる子もいて、だからこそ、成功させなきゃいけないでしょ……」


「優希先輩……」


「私は皆と……、翔君と一緒に思い出を作りたいよ。楽しい思い出を……、翔君は違うの?」


そうです。一緒にいたいです。残り少ない時間を少しでも共有したいです。


もちろん本音はそれだ。だが、今の優希先輩には、明らかに余裕が無い。普段の優希先輩が言うようなことではない。


やはり進路も含めて、肉体的なものだけでなく、精神的な疲れもあるのだろう。


「……うぅ……」


返事を躊躇してしまった俺が気づいたときには、優希先輩は涙を流していた。


しまったと思ったがもう遅かった。


普段の優希先輩は、まず足元がお留守になることはない。転ぶどころか、躓きそうになるところすら見たことはない。しゃんとしている証だろう。


だが、今の優希先輩は冷静ではない。おまけに、疲れも溜まっている。


その相乗効果で、優希先輩は階段をほんのわずか踏み外した。


「えっ?」


そして重力が導くままに、後ろ向きに優希先輩が倒れていく。そのままだったらどうなるか。そんなことを考える前に俺の体は反射的に動いていた。


「優希先輩!」


何の躊躇もなく、ジャンプして、優希先輩を抱きしめて、俺が下側になる。


果たしてどうやってやったのかは分からない、明らかに物理的にできないことをやった気もするが、本当に頭の中は何も考えていなかった。ただ、ものすごく痛かった。


気絶など無縁だった俺の人生は、この1年間で2回目を数えることとなった。




俺が気がつくと、目に入ってきたのは白い天井と、わずかな薬品の香り。これは保健室のようだ。


「翔君? 先生! 目を覚ましました!」


突然の声に驚くと、俺の右側には優希先輩が椅子に座っていた。


「おお、会長さん大丈夫かい? どこか痛むか?」


やたらとフレンドリーな保健の先生に話しかけられる。


「まぁ、そこらじゅう痛いっちゃ痛いですけど、めちゃくちゃ痛いってことはないです」


感覚ではあるが、折れてるというわけではないだろう。ひ弱かと思っていたが、割と頑丈だった。


「一応軽く見た感じじゃ、折れてはないと思うけど、一応今日は早退して病院に行きな。誰か付き添ってくれそうなやつはいるか?」


「あ、はい。じゃあ同じクラスの森孝之に頼めますか?」


「ああ、分かった。私は担任に話してきて、森にも話をしてくるから、少し待っててくれ」


そう言って、保健医は外に出て行き、俺と優希先輩は2人になった。


「翔君!」


そのとたん、優希先輩は俺に抱きついてきた。


「え? あの、優希先輩?」


ちょっとぎゅっとされると痛いのだが、それ以上に柔らかさといい香りで中和されて、結果的にはプラスである。


「良かった……、良かったよぅ……」


その短い言葉に優希先輩の思いが全てこもっていた。


いつもはなんだかんだで頼れて、大きな存在であった、優希先輩が、このときだけは少し小さく見えて、それがとても愛おしかった。


「優希先輩。優希先輩はお怪我はなかったですか?」


「うん。大丈夫だよぉ……。翔君が……、かばってくれて……、すごい音がして……、目を閉じたまま動かなくなって……、死んじゃったかと思った……」


言葉を少しづつ紡いでくる。そうか、優希先輩に怪我が無かったなら、俺が怪我をした甲斐があるというものだ。


そのまま、保健の先生が、孝之を連れてくるまで、俺は優希先輩の頭を抱いて、ゆっくりと撫で続けていた。










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