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お嬢様の料理スキル

「ふふ~ん」


優希先輩が俺の家のキッチンで料理をしている。


俺はキャベツの甘みソース和え(仮称)ともやしとかいわれのサラダ(正式名称)の2つを作った。


残念ながら、俺の家のキッチンには、コンロ的なものが、1つしかないため、2人で料理をするのは難しい。


優希先輩がアレンジしたいのは、俺のつくるもやしの中華風(仮称)で、それにひき肉と違う野菜を入れているようだ。


「優希先輩はお料理されるんですか?」


他の2つはすぐに作れてしまったので、優希先輩の手さばきを後ろから眺めた。


「私が、お嬢様だから出来ないって思われてるみたいだけど、そんなことは無いんだよ」


「そうなんですか? でも前俺の料理の本を見たときに、教えて欲しいみたいなこと言ってませんでしたっけ?」


「あれは、節約料理のことを聞きたかっただけで、料理はできるんだもん」


「俺は何かしますか?」


「座ってテレビでも見て待ってて♪」


優希先輩がウインクしてそう言う。すごく嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちでもやもやする。


なんか今日の優希先輩は変だな。妙に優しいというか、いや、いつも優しいんだが、ここまで積極的だったか?


テレビをつけても全く集中できないので消した。電気代の無駄である。


「翔君~、片栗粉はどこにあるのかな~?」


「ああ、はい、ちょっと待っててください」


キッチンから声をかけられたので、立ち上がってキッチンに向かう。


「えーと、あ、はい。ここです」


「ありがと」


「後は大丈夫ですか?」


「うん大丈夫だから、それじゃあご飯にする? お風呂にする? それとも……」


「ご飯を待ちます」


それ以降を言われたら、2人きりのこの家で理性を保てる自信がない。あとこのアパートには風呂はない。

シャワーオンリーである。別に何も困らない、1人暮らしなら、そっちのほうが安くつく。


「用事もないのに、家に来て、ご飯を作ってくれる。新妻というか、押しかけ女房というか」


なぜか脳内で、孝之の声でそのような声が聞こえる。確かにこの状況はそうである。


なんというか、それじゃあまるで優希先輩が俺のことを……。


「きゃああ!」


「!?」


何かに気づきそうだったが、優希先輩の悲鳴で思考が吹っ飛んだ。


「優希先輩! 大丈夫ですか!」


キッチンに急ぐと、優希先輩がしりもちをついて、左手を押さえていた。


「優希先輩! とにかく左手を」


俺は水を汲んで、優希先輩の手をつかみ優希先輩の手をそこに入れた。手が軽くやけどしていたのだ。


「あ、あれ……」


だが、優希先輩はそれどころではなく指差した先には、いわゆるGがいた。


「あ、ああすいません。俺の部屋は綺麗にしてるつもりなんですけど、どうしてもぼろアパートなもんで」


このアパートに最初に来たときには、もっとG以外の虫もそこそこ居た。


俺があまりゴミを出さず、物も少ないので俺の部屋には沸かなくなっていたが、他の部屋から進入してくることが時々あった。


にしても、1週間に1回あるかないかくらいなのに、よりによって今日来なくてもいいじゃないか。


と思いつつ、Gを処理する。


「優希先輩すみません」


「う、ううん私こそ驚いてごめんね。料理も焦げちゃったし……」


「それよりも、手は大丈夫ですか?」


「大丈夫、あれにびっくりして、一瞬だけ触っちゃっただけだから」


「なら良かったです。本当にありがとうございます」


俺は優希先輩に頭を下げる。


「俺の体を気を使ってもらって、家に来てくれて、料理を作ってくれて、俺は幸せです」


「だって、翔君だから……」


「え?」


「翔君だから、そうしてあげたいって思うんだよ」


優希先輩……、それって……。


「翔君は放っておくと危なそうだからね♪」


……、やっぱり俺は後輩か。優希先輩が俺を気遣ってくれるのも、後輩で同じ会長だから。いろいろ気になる言動は、優希先輩のちょっとした冗談なんだろう。危ない危ない、勘違いするところだった。


「でも、最近はそうでもないかもしれないかな?」


「え?」


今優希先輩何か言ったな? 最近はそうでもない?


「とっさにいろいろできるのってすごいよね。いざというときは正しいことができて、さっきも私が手を押さえてるのを見て、すぐに冷やしてくれたでしょ」


「ええ、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ、ほら」


そして、優希先輩は白い手を俺に見せてくる。ほんのわずか赤くなってはいるが、これくらいなら大丈夫だろう。俺も料理を覚えたてのときはよくやけどをしていたので、どの程度のやけどだと後が残ったり痛いかは分かる。


「傷が残らなそうでよかったですよ。もし傷でもつけちゃったら、俺が優希先輩をもらわないといけなくなっちゃうから……、なーんて」


俺はちょっとした甘い空気感が恥ずかしくて、ちょっと冗談を言って場の空気を戻そうとした。


「……、翔君なら……」


だが、空気は戻らず、勇気先輩はその手をそのまま俺の頬に触れさせ、顔を近づけてくる、。


「あ、あの優希先輩?」


「! あ、ああ……。ごめんなさい!」


すると優希先輩は、一気に距離をとって、顔を背ける。


「び、びっくりさせちゃってごめんね。ちょっとこげた部分を整理して盛り付けるから、待っててね」


そして、何とかやばいことになる前に、キッチンから離れることができた。


その後は落ち着いて、その日の復習をしておいた。


1位から陥落することは許されない。優希先輩に及ばないのであれば、せめて肩を並べるくらいには居続けたいものだ。


優希先輩はもう来年の今はいない……。そして、同じ大学に行くことは望めないかもしれない。……。


「はいおまたせ……、ってテレビ見てないで、勉強してるんだ。えらいね」


「あ、はい。完成しましたか?」


「うん、もやしの中華風から、もやしのマーボー風になったよ。お豆腐は入ってないけど、ひき肉がたっぷりだよ」


「おおうまそうですね」


さっきこげたとか言ってたけど、全然そんなことを感じさせない。


「じゃあ俺はキャベツをあっためてきますね。20秒ほどお待ちください」


キャベツはレンチンすると甘くなる(様な気がする)


「うん、やはり肉は美味しい」


久々のちゃんとした動物性たんぱく質(牛)だけあってかなり俺の舌は驚いている。


肉をたまに食べるとしても、鳥が多くて、アルバイト先でも牛が余ることはまずないから、本当に久々だ。


「あ、このキャベツ美味しい、それにサラダもこんなに簡単なのに、すごく美味しい」


俺の2品を優希先輩は好んでくれたようで、食してくれる。まぁ、そんなに変なことはしてないから、普通に美味いもんな。根本的に、キャベツかもやしかかいわれが嫌いじゃなきゃ誰でも食べれる。


「優希先輩、本当にありがとうございます。優希先輩の方がよっぽど忙しいのに心配をかけてしまって」


「そんなこと気にしなくて良いのに。私が翔君に頼まれてやったなら、まだしも、今日のことは完全におせっかいでしょ。逆に迷惑じゃなかったかな?」


「いえ、とんでもないです。ゆ、優希先輩は大丈夫なんですか?」


「ん? 何のことかな?」


「いつも頼られてばかりで、何か辛いこととかがあったときに、頼れるような人はいるんですか?」


「う~ん、いないこともないかな?」


その言い回しはいるということだ。


優希先輩が頼ることの出来る人。どんな人なんだろう。


「どんな人です?」


「そうだね。その人は、いつも一生懸命で、頑張り屋さんで、その姿を見てるだけで、自分も頑張らなきゃって思うの。それだけで、辛いことがあっても乗り越えられそうな気がするの」


すごい人だ、存在だけで優希先輩を元気付けられるということか。


「普段はおっとりしてるけど、いざというときはしっかりしてて、自分のためだけじゃなくて、誰かのためにも頑張れる素敵な人だよ。きっと私が困ってたら、自分から助けてくれるんだろうな……」


「すごい人ですね。俺もそんな風になって優希先輩に恩返しをしたいです」


「……、ふふ、頑張ってね」


一瞬だけ優希先輩がはかなげな表情をしたが、その人のことを思っているのだろう。優希先輩が告白を断ったのは、もしかしたら、その人のことが……、いや考えるのはよそう。


「俺ももっと頼られる存在になります。今回の文化祭を成功させてみせます」


「うん、今回はボランティアの人も巻き込んでるから、全校生徒だけじゃなくて、星野高校に関わってくれる町の人全員からも頼られる存在にならなきゃだから、しっかりやらなきゃね」


ああ、そうか。自分で言った事とはいえ、町の人も巻き込むなら、その人たちにも頼られ、楽しく過ごせるものを作らなければならない。


自分の提案で自分のハードルを上げていたのか。驚きだ。


でも、優希先輩がここまで俺を応援してくれて、生徒達も賛同してくれて、町の人も、俺に協力してくれるというなら、全力でやらなくちゃいけない。失敗はしてもいいが、後悔はしないよう頑張ろう。




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