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2人きりの夜デート

「やべえ。本当に忘れ物をした」


生徒会メンバーで土曜日仕事をした日。俺は財布を生徒会室に忘れてしまった。


日曜日は部活動の活動も校内で認められていない本当の休みになるので、校舎は生徒は立ち入り禁止になってしまう。


俺の全財産は財布に入っているので、明日1日を過ごすのが非常に困る。

いや、明日はアルバイトが入っているので、ご飯は困らないが、そう言う問題でもない。


生徒会室に忘れたのは確実だが、全財産を2日以上放置しておくのは、全くと言って良いほど落ち着かない。


「取りに行くか……」


時刻は19時。確か20時までは誰かしら学校にいるはずなので、まだ事情を話せば入れるはずだ。



「う~、夜の学校は不気味だな」


一応許可を得て校内に入ったが、既に生徒会室のあるところは電気が消されており、懐中電灯も今は貸し出しているので、在庫がないとのことだった。


まぁそれでもなんとかなるだろうと思い、生徒会室を目指して階段を上っているのだが、静か過ぎて妙に恐ろしい。


暗いことは俺の家が暗いから別に良かったのだが、普段騒がしい学校が、妙な静けさに包まれているのは、ちょっと不安をあおった。


「えーと、生徒会室のカギっと」


ガチャ。


生徒会室の中に入り、電気をつける。廊下の電気は全体の管理だが、部屋の電気は各部屋にあるので、やっと明るくできる。


「お、あったあった。良かった」


俺はすぐに目的のものを見つけて、生徒会室を後にする。


コツコツ……。


「ん?」


階段を下りようとすると、俺のものではない足音がする。


ま、まさか。幽霊……。


そんなわけない。俺の前に懐中電灯を借りたという人のものだろう。


ここに用事があるということは、部活動の生徒かな?


俺が懐中電灯なしで降りてったら、びっくりさせてしまうかもしれない。ここは、帰るまで待ってるか。


……コツ……コツ………コツ……コツ…………コツ…………コツ………………コツ………………コツ。


遅いな……。


やはり夜の学校に不気味さを感じているのか、足音がかなり遅い。


コツコツ……。


それに妙に音が近い。ここが4階だから、3階まで上がってるのか。


コツコツ……。


いや、この階に来てるな。誰だ?


この階にくるということは、生徒会メンバーか、教師である。だが、俺が生徒会室に用事があると報告してある以上、このタイミングで教師は考えづらい。俺が帰ってからみまわりになるはず。


となると、生徒会メンバーだ。孝之か幸助なら、このまま出て行って、驚かす結果になってもそこまで問題ないが、他の2人だとちょっと面倒くさいことに……。


ピカッ! 


「きゃー!」


ダン!


そんなことを考えているうちに、その本人が階段を上がりきって、俺に懐中電灯の光を当ててしまった。


考える時間が長すぎたぜ。


その人は、驚いた声を上げて、しりもちをついてしまった。


「……すいません、優希先輩、驚かすつもりは無かったんですけど……」


その相手は優希先輩だった。なんというか申し訳ない。


「しょ、翔君?」


俺を視認しても、優希先輩はしばらく腰が抜けたのか立ち上がれなかった。


「本当にすみません。俺くらいところでも大丈夫なもんで」


「う、ううん、私も忘れ物をしちゃうなんて。それに恥ずかしいところを見せちゃったね」


とりあえず、優希先輩が落ち着けるようになるまで、生徒会室にいた。


担当の先生には、忘れ物が見つからないので、ちょっと時間がかかると連絡しておいたから問題なし。嘘も方便。


「お茶です。どうぞ」


基本的にいつも幸助にお茶を入れてもらっている俺がお茶を入れてみた。


「あらら、ありがとね」


「幸助みたいに美味しいわけじゃないと思いますけど」


「ううん、人にいれてもらうお茶って、なぜか美味しいんだよね」


それは分かる。幸助はずば抜けて上手だが、お店で出てくるお茶とか、もてなしをしてもらうと美味しく感じる。


「最近暗くなるの遅くなったけど、やっぱり19時を過ぎると暗いね」


「まぁ。この時間帯なら夏でも暗いと思いますよ」


「それにやっぱり夜の学校はなんだか雰囲気が違う感じもするよね」


「まぁそうですね」


「もう少し経つと夏になるから、お化けの季節になるね~。夜の学校といえば、お化けが出そうだよ~。ヒュー~ドロドロ~」


優希先輩は、ちょっとだけ低めの声で、手を前に差し出した。いわゆるお化けのポーズである。もちろん全く怖くない。むしろ可愛い。


「そりゃまぁ、この学校も結構歴史ありますからね。1匹や2匹お化けがいてもおかしくないでしょう」


先ほど優希先輩が来るまで、自分以外の音が全くしないほど静かだった。春とはいえ、夜はまだ肌寒く、確かに独特の空気はある。


「でも、仮にお化けが出ても、翔君がいるから、大丈夫だよね♪」


「幽霊が出てきたら、俺はどうすればいいんですか?」


「そこは『ここは俺に任せて先に行ってください!』とか」


「俺多分その後帰ってこれませんね」


「そして幽霊の正体がわかって、『真相が分かった! 早くみんなに知らせなきゃ……』って言うの」


「着々と俺は帰れなくなりそうですね」


「最後に、『へっ、幽霊なんかいるわけないだろ。ばかばかしい』と言いながら、無事に校舎を出てくるの」


「俺は絶対に幽霊に殺されますね。フラグが半端じゃないです。というか、俺も幽霊は得意じゃないんで。というか、幽霊が得意な人なんていませんから」


「へ~、じゃあ幽霊が怖いの?」


なぜか知らんが、めちゃくちゃ嬉しそうに言ってくる。俺が幽霊が怖いのが、そんなに面白いのか。


「いや、怖いというわけではなく、会わなくていいなら会わないほうがいいというだけですよ」


「ふーん、そこまで言うなら、ちょっとこの後外に行かない?」


「はい?」


「鍵を返した後は、このまま帰るだけでしょ? せっかく学校で2人で会ったんだから、ちょっとお散歩しようよ♪」


「まだ一応大丈夫とは言え、学校の警備員の人とか、おまわりさんに見つかったら怒られますよ」


「いいじゃん、ドキドキして楽しそうだもん」


「だって、生徒会長と元会長ですよ。普通の生徒とはまた意味合いが異なります」


「夜の校舎窓ガラス壊して、歌って回ろうよ~」


「俺は15歳でもないですし、後ちょっと本家よりやりすぎてます」


というか優希先輩の世代のネタじゃないだろ。俺も違うけど。


「なんだかんだ言って、やっぱり夜道が怖いんじゃないの? 男の子なのに~」


「怖いわけじゃないですって……、分かりました。付き合います……」


別にいくらでも断れたが、優希先輩に幽霊が怖いと思われるのは侵害だし、冷静になってみれば優希先輩と夜に2人でデートできるんだから、何の損もないはず。



ううむ、勢いで出てきたが、この辺りは昼の煩雑さが夢のように人気がなくて、耳がキーンとなりそうなほど静かで不気味ではある。


ただ、俺は幽霊とかそういうのが出てくるよりも、おまわりさんとかに見つかって、面倒なことにならないかのほうが不安で妙にドキドキしていた。


「それにしても優希先輩。どこに向かってるんですか?」


優希先輩が俺を散歩に誘ってくれたのは、俺の家でも優希先輩の家のどちらでもない方向で、さらに人気がない。


「え? 私は別に幽霊なんか怖くないよ?」


ん? 何か会話がかみ合ってないな?


「いえ、そんなことはどうでもよくて」


「どうでもよくないよ! 私怖くないもん!」


「は、はい、それは分かったので、今からどこに行くかを教えてもらいたいんですが」


「な、内緒だよ。それと、もう少しゆっくり歩いて近くにいてよ。はぐれちゃうでしょ」


「2人しかいないのに、どうやってはぐれるんですか。どれだけ2人ともおっちょこちょいなんですか」


遊園地でもあるまいし。遊園地なんか行ったこと無いけど。


「先輩の言うことはちゃんと聞くの! 今日皆守ってくれなかったんだから、ちゃんと聞いてよ!」


「は、はい」


それを言われては何も言い返せない。


ギュッ。


そして、手首を掴まれた。しかも結構全力で。


「優希先輩、怖いなら今からでも帰りましょう。家まで送りますから」


「こ、怖がってるのは翔君でしょ! だから、こうやって震えないように手を掴んであげてるの」


優希先輩に、いじっぱり属性が判明した。


さっきも驚かせた件でスルーしちゃったけど、俺を見て驚いてしりもちついて腰抜かしてるくらいなんだから、怖がりなんだろうな。


そこまで行きたいところがあるのだろうか? 怖がりな人間を駆り立てる有名な何かが。



優希先輩に連れられて(方向は案内されたが、前を歩いていたのは俺だ。この場合は連れられてという表現は正しいのだろうか)人気の無い道を歩き続けた。


帰り道に見かけるが、入ったことのない公園を結構奥まで進んだので、本当に暗くなってきた大丈夫なのか心配になるほどだったが、優希先輩が帰るといわない以上、俺が帰るわけにもいかなかった。

街灯の数も少なくなり、道の横は木が生い茂り風音くらいしか聞こえない。


「お疲れ様。ここだよ」


優希先輩の声と共に、暗い木影から、はずれて視界が一気に広がる。


風景そのものは平凡だ。


中心に噴水があり、それを中心にロータリー状の道が広がり、後は木が見えるだけ。


「ここは?」


「前のお休みにお散歩してたら見つけたんだ。お昼は人が多いけど、夜は薄暗くて明かりも少ないから人があまり来ないらしいんだ」


「そんなところに俺を連れて来て何を?」


確かに周りに人がいる様子は無い。


「ちょっと上を見てくれないかな?」


「上ですか?」


そういわれて俺は上を見る。


「わぁ……、まじですか」


「うん、これが見たかったの」


空に広がるにのは、明るく光る月と、それに負けないほど輝く星の数々。


この町は夜でも十分明るい街。いわゆる星の見やすい町ではない。


だが、この周りに明かりも建物も何もないこの場所は、星が本当によく見える。


この場所は、この町で空に1番近い場所なのではないだろうか。


「優希先輩はここで見られたことはあるんですか?」


「うん、おじさんとおばさんに連れて来てもらったの。はじめて見たときはとても綺麗で、それから、何か辛いことがあると、よく来てたかな」


「辛いと星を見るんですか?」


「うん、星を見るとね、気持ちも落ち着いて、また明日からがんばろうって言う気になるの。それに、空を見上げられるのって、余裕を持たないとできないと思うの」


「どういうことですか?」


「人って、辛いときは、下を向いちゃって、何も見えなくなるの。それでも前を向いてみんな頑張るの。だけど、そこから一歩上を行って、上を見るのって、本当に気持ちに余裕が無いとできないんだ。ここみたいに星が見えなくてもね、日本のどこでも、お月様なら見えるはずなのに、いったい今どれだけの人が、今日の月が満月だって気づいてるんだろうね」


「そうですね……」


町の光ではなく、月の光。毎日大きく目立って出ているのに、皆月の存在など忘れてしまったかのように見ない。俺だって、改めて月を見たのはいつ以来だろうか。


「翔君は頑張って、結果も出せてるからすごいと思うよ。だけど、もっと余裕を持ってもいいと思うな」


優希先輩、俺が休みでも仕事をしたりしてるのを、怒ってるというよりも心配してくれてるんだな……。そして、言葉だけじゃなくて、こうして行動でも示してくれて、本当に尊敬できる先輩だな。


そのまましばらく、特に話すこともないまま、のんびり空を眺めていた。







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