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憧れの人から頼れる先輩

何度も言うが、俺にとって優希先輩とは憧れの人である。


姿が見えぬ間も1年間頑張り続け、そして結果を出し、しかも俺のことをその人が覚えていてくれた。それだけで正直当時の俺は満足していた。


だから、優希先輩が生徒会会長に立候補をしているということを知って、驚きはしたものの、それ以上の感情はなかった。学校に受かってからも俺にはやることがたくさんあったからだ。


だが、壇上に立ち演説をする優希先輩を見て、俺はとても輝いているように感じた。


そして、同じ学校に通うということで、初めて社会生活を共有して、その憧れはさらに強くなった。


優秀な学校でありながら、そこで学年1位を取る好成績。運動も十分こなせて、それでいてとても優しい。


そういった噂をどんどん耳にすればするほど、優希先輩をすごいと思い、そして、その気高い心を共有したいと感じるようになっていった。


1年生後半のテストでは、残念ながら40位以内に入ることはできなかったが、せめて優希先輩がそうであったように、2年生の前期で生徒会長になれたら……。そう思い、また勉強とアルバイトの日々が続いていった。


その思いから、1年。初めて出会った頃からというと、2年以上経っている。


優希先輩のほうから気にかけてくれていたとは言え、どこか憧れの感情が抜けずに対等には接せなかった勇気先輩は、頼れる先輩として、本当に近い距離で過ごせるようになった。


距離が近くなって、完璧超人かと思っていた優希先輩は、意外と甘いものが好きだったり、ノリがよかったり、調子に乗りやすかったり、お茶目だったりと、いろいろな面を知ることになり、だからと言って、幻滅や落胆などなく、更に憧れるようになった。


「……翔君?」


俺が生徒会長になったのは、奨学金の話があったり、成績を上げる目標であったり、自分で選んだ道を、更に高みを目指したいとかいろいろ理由はあったが、やはり優希先輩の存在が1番大きいだろう。


「翔君……」


あきらめかけていた優希先輩と過ごせる同じ場所の共有。本当に幸せでしかない。


ツンツン。


「おおっ!」


考え事をしていたところに、頬をつつかれた。白くて細長い、しっとりとした指である。


「何1人で考え事をしてるの? 何か困ったことでも起こった?」


生徒会室に来たときは誰もいなかったはずだが、いつの間にか優希先輩が来ていたようだ。


ちょっと気を抜いているときに限って優希先輩が最初に来るとは。よくないところを見られた。


「そういうわけじゃなさそうね。駄目だよ。生徒会会長が生徒会室でボケーとしてちゃ。いくらでもやることはあるんだからね~」


「す、すみません」


「口より、手と足を動かしてくれればいいよ」


「よし、じゃあやります!」


俺はA3の神を何枚か取り出す。


「それはな~に?」


「部活や同好会からの相談事を纏めたものです。大体予算がらみですけど、結構変わったのもあります」


「運動部と文化部は分けてる?」


「もちろんです。ついでに、予算の問題と、それ以外の問題も分けてます」


「うん、その方がわかりやすいもんね」


「予算以外は、俺ができることなら何かしてあげたいんです。うまく調整して、解決だけじゃなく、調整や話し合いもして、皆にいい形になるといいんですけど」


「やっぱり翔君はすごいね。ちゃんと頑張れるもん」


「俺は来た要望をちゃんと整理するので手一杯です。学校のために自主的に何かをできてるわけじゃないですから、やっぱり優希先輩にはまだまだ及びません」


「私もそんなことはできてないよ~。こなしていくので手一杯だったもん」


「そういえば、仕事残ってましたもんね」


「褒めておいて、落とすのはずるいよ~。せっかく慰めてあげようと思ったのに|


「すいません、冗談ですよ。今日は直接部活の人達と話してみようと思うんですけど。いろいろここにまとめたんで」


「いいと思うよ。私もついてっていいかな?」


「もちろんです。協力お願いします」


そして俺と優希先輩は、生徒会室を出た。




「どうも、生徒会長の桂川です。今日はよろしくお願いします」


今日の予定は部活動を行う生徒の代表との話し合いである。専用の会議室には俺の向かいに5人の生徒が座っている。


野球部、サッカー部、陸上部、バレー部、ラグビー部の部長である。


共通するのは、いずれも部活動に力を入れているということだ。


どちらかというと勉強に力を入れている学校ではあるが、やはり高校生活を彩るのは部活動。その活動に力を入れている部活は多く、特にこの5つは実力も伴っている優秀な部活動である。


「会長だけですか?」


「はい、他の3人には他の仕事をお任せしております。その代わりといってはなんですが、相談役として前生徒会長の九十九先輩をお呼びしております。会長である自分が責任を持って、生徒会に持ち帰りますので、ご心配しないでください」


優希先輩が来れたのは助かった。他の3人は、教師との話し合いがあったため、どうしてもそちらに顔を出す必要があった。


ちょっと日程の管理ミスで、予定が被ってしまい、どちらも日にちをずらすのは問題があったので、優希先輩の力を借りることにした。書記としての作業をお願いしたのである。相談しながら何かを書くのはちょっと難しいからな。


「それでは、あらかじめ伝えてあると思いますが、同好会の存在についての相談をしたいと思っています」


「はい、一応資料は一読しましたが、問題点はないと思いますが?」


「いいえ、この学校は生徒数や学校の規模から考えて、同好会の数が多すぎると思います」


これか。予算に次いで多くなっている問題だ。


自由な校風を強く根付かせている星野高校では、高校としてはかなり同好会の規則がゆるい。


同好会の中にも、部活動を同じように予算や部室をもらっているものもあれば、どちらかしかない。あるいは、どちらもない本当の趣味のような同好会もある。


「同好会は部活動に比べて、かなり活動が制限されてますから、その辺りの差別化はできてるはずです」


「最近はそうでもないです。去年から、同好会が優遇されているという資料があります」


生徒達から渡された資料には、ここ数年の同好会の成立の数や、予算の充て方についての推移が書いてある。


これは昨日の時点で確認はした。確かに、去年から、同好会の成立要件や、同好会からの要望が増えてはいる。去年ということは、優希先輩の会長時代のことである。


ちらっと優希先輩を見る。苦笑いをしている。ただ、真理亜が暴走したり、孝之がセクハラしたり、幸助が毒を吐いたり、俺が空腹だったりするときの苦笑いと比べると、ちょっとだけ表情が暗い。……俺達勇気先輩にけっこう迷惑かけてるんだな。苦笑いを見慣れているって……。


それよりもちゃんと対応しなくては。優希先輩をここにつれてきたのは俺である。今日の議題の内容が分かっていたが、優希先輩を困らせる内容であるとは思っていなかった。リサーチ不足だ。てっきり俺のことを言われると思っていたのだが。


「確かに昨年から同好会の数と予算は増加していますが、だからと言って一般的な部活動の予算が減っているというわけではないのですから問題ないでしょう」


そこは優希先輩は抜かりない。贔屓をするようなことはしない。


「それはそうなんですが、同好会の数がむやみに増えたことで、本来なら部活動に回せるはずの予算が減ったのは事実です。ですから、仕分けを求めます」


なるほど。現状の予算に、必要のない同好会の予算を回すことを求めているのか。


予算の振り分けは生徒会の仕事ではあるが、お金に関わることなので、生徒会が直接的に変更することはできない。あくまでも教員との協力で成り立つものだ。


だが、その前提となる部活動や同好会の許可については、生徒会の権限がある。


だからこそ、このように生徒会に要望が多くなる。


「言い分は分かりました。ですが、必要のある同好会とそうでない同好会はどのように分けますか?」


「それは、全校生徒にアンケートなどをとって多数決で良いのではないですか?」


民主主義的な意見だな。間違ってはいないが。


「ふぅ、たとえばですが、昨年料理部から独立したお菓子同好会はあなたがたは必要だと思いますか?」


「いいえ、思いません。同じ調理に対して行うものなら、わざわざ違う部活にする必要性はないのでは?」


そう答えたのは野球部の部長である。


「でしたら、あなたは軟式野球同好会は必要だと思いますか?」


「それは必要です。女子がそちらに参加したりしてますから」


「他の方も同意見ですか?」


他の4人は首を縦に振らない。


「お、おい? どうして縦に振らない?」


「いやだって……。軟式野球同好会は、ほとんど女子で、活動も少ないから他の活動との掛け持ちって人も多いもん。絶対に必要かって言われると、グラウンドの使用範囲もあるし……」


「まぁ、このように、多分なんですけど、全体で民主主義のシステムととると、おそらくほとんどの同好会はなくなります。同好会において最も活動的な軟式野球同好会で、ここまで意見が割れるんですから」


「…………」


「それにお菓子同好会の人とは先日話しましたが、料理部が基本的に主食を作る活動ということで、そこから独立して、お菓子を作るのが好きな人たちが集まって活動しています。それは、尊重されるべきでしょう。自分達のやりたいことをやっているのですから」


「ですが、そのようなことを言い出したら、必要ない活動などなくなるじゃないですか」


「はい、自分はそう思っています。今認められている部活動、同好会に不必要なものなどないと」


「!?」


5人とも俺の言葉に驚きながらも反論はしない。


「昨年、九十九生徒会長は、同好会の認可をかなり増やしましたが、こちらは当然教員の許可も得ています。実はこの学校には昔、部活動には強制的に入部しなければならないという校則がありました。ところが、強制する活動に意味が無いということで、その校則はなくなりました。ただ、今の世の中、帰宅部という名前は、あまり世間的にいいイメージはもたれません。もともとそのための、強制的な部活への参加だったんです。だから、代わりに、同好会の存在を認められるようになりました。その過去を知っているからこそ、九十九会長は、同好会を多く認めました。そして、この考えは自分の公約でもある、生徒が何でもいいから1番を目指して学校生活を送っていくというものと、まったく同じです。本当に好きな同好会を作れることで、自分の好きなものを目指し、それをたった1人でもいいから、共有できる相手がいることは、とても学生生活を豊かにするものだと考えています。現に2人や3人の同好会も存在しますからね。昨年、つくも生徒会長は、予算の無駄が無いかを入念にチェックして、同好会の数を増やしたり、予算を増やしたりしても、現存する部活動の予算を下げることはしませんでした。自分もその考えについていきたいと思っています」


「ですが、やはり自分達は予算を上げてもらうことは難しいのでは……」


「簡単ではないです。ですが、少しずつ成果を出しています。各部活動の備品を少しでも安く手に入れられないかと、教員の人と相談して、定期契約と大量購入の約束で、安く仕入れられるめどは立っています。また、こちらは偶然ですが、先日ボランティア中に、大石高校の先生と出会いまして、そちらの軟式野球部と、女子サッカー部が人数が10人と12人でギリギリで練習が滞っているということで、今回、うちの軟式野球同好会と、サッカー同好会の話をしたところ、一緒に練習してもいいとの話を得ました」


「……、おい。知ってたか?」


「いいえ、そもそも私達は同好会の存在は知ってても、何をしてるかは知らなかった……」


「同好会には担当の教師がつかないから、なかなかそう言う話はできないんだよな」


5人ともかなり驚いている。まぁ俺も驚いてるからな。ちょっと前に急に決まったし、駄目な可能性の方が高かったし。


「こういう形で、予算をあげることはできなくても、無駄を省くことで、予算の捻出はできます。幸い今年の生徒会には、九十九先輩という優秀な会長でもあった人が、協力してくれていて、余裕があります。だから、今回のような活動が成功しました。もし、疑問点があれば、次の生徒会選挙で自分と違う公約を掲げる人に投票してください。何か質問はあるでしょうか?」


この後、特に質問は無く、野球部とサッカー部からは逆に感謝された。生徒が喜んでくれるのは、頑張ったかいがあるというものだ。




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