第九話 さよならは言わない
「おっ、戻って来たな。」
自分達が戻って来たのを見て、おじさんは手招きした。おじさんの周りでは村のみんながもう夕食を食べていた。ただ、お兄さんはいない。まだ寝ているのかな。呼んでくるか、頼まれてたし。
「あれ?クラッセ、どこに行くの?」
「先に食べてて。すぐ戻って来るから。」
自分はお兄さんの所に向かった。
~家の前の草原~
「ZZZ・・・・・・」
「やっぱりまだ寝ていたか。・・・おーい!もうご飯できてますよー!」
自分が大声で叫ぶと、お兄さんは起きた。起き上がって、体を伸ばしながら、大きなあくびをした。
「ん・・・ふぁ~あ。ああ。ありがとよ。」
「もうみんな食べていますよ。早く来てくださいね。」
そう言って、自分は広場に走って戻っていった。
~広場~
「・・・あっ、戻って来た。おじさん、ご飯準備して。」
「ああ。」
リナは自分が戻ってくるのを見て、おじさんに命令した。おじさんはご飯を沢山盛ってくれていた。
「ごめん、待たせちゃったみたいだね。また。」
「ううん、別に大丈夫よ。はい、ごはん。」
「あ、ありがとう・・・。多いね、なんか。」
「おじさんがサービスしてくれたんだよ。さ、ミルクたちは先にあっちで食べ始めているから、私たちも行こうよ。」
「うん。」
自分達はミルクたちのいるところに行って、色々と話をしながら食べた。
そして、食べ終わった後は、挨拶をして、それぞれが寝る場所の家に入っていった。辺りはもう真っ暗だったが、月が明るかったので、近くにいる魔物の顔が見えるぐらいの明るさはあった。
「じゃあまた明日!」
「明日もたくさんお話するのだー!」
「うん。また明日ね!」
「・・・・・・」
みんなが大きい声で言っている中で、自分は何も言わずに笑顔で手を振っていた。それをお兄さんが見ていた。
そして、リナ達が家に入った後に、お兄さんは話しかけてきた。
「・・・お前、もう村から出て行くのか。」
「ええ。みんなが寝静まった後にでも。」
「ああ、そうか。」
そう言っているお兄さんは、もう荷物をまとめて、村を出て行く準備が出来ていた。
「人間は大丈夫なんですか?」
「ああ。もう夜だしな。それに人間の気配はもう、自分の察知できる範囲からは全くしない。・・・お前もこの村を出て行くなら、商人や盗賊団に注意しろよ。あと、セントラルタウンに行くなら、朝になる前に通り過ぎろ。危険だからな。」
「はい、ありがとうございます。」
「・・・じゃあな。せいぜい死なないようにな。」
そう言ってお兄さんは村から出て行った。
「さてと、自分も準備するか。」
そう言って、自分は泊まる予定の家に戻って行った。
・・・準備するって言っても今持っているものは地図しかないんだけどね。
「とりあえず服はおいて行こうかな。もらっていくのもなんか気が引けるし。第一、動きずらいってのもあるし。」
自分は着ていた巫女服を脱いだ。ついでに回復魔法でその服を綺麗にした。あと、地図は落ちないように自分の尻尾に挟んだ。小さくたたんで。
「よし。これでいいかな。バッグはセントラルタウンを抜けた後にでも探すか作るかしよう。」
自分はそう言って家を出た。そして、村の入り口から外に出ようとした時だった。
「・・・おい。何してるんだ?そんな格好で。」
そう言いながらこっちに来たのは、狼のおじさんだった。
「・・・とりあえず、ありがとうございました。ご飯とってもおいしかったですよ。」
「出て行くのか。みんなに別れの挨拶もしないで。」
「ええ。みんなの寂しい顔が見たくないので・・・。」
「・・・そうか。でもあの三人にぐらいは言っておいてもよかったんじゃないのか?」
「あの三人に教えたらみんなに伝わっちゃいますし。それに、あの三人は自分のライバルでもあるんです。だから、絶対にまた会えるって思っています。だから、あえて『さよなら』とは言わないでおこうと思ったんです。『さよなら』なんて言ったら、もう二度と会えないような気がしちゃって・・・。」
「・・・そうか。じゃあ出て行ったことは俺から伝えておく。・・・何かあいつらに言いたいことはあるか?」
「・・・はい。『次に会うときは、強くなっててほしい。弱いままだったら許さない。』・・・そう言っておいてください。」
「ああ。分かった。・・・そういえば、あの兄さんはどうしてるんだい?」
「もう出て行きました。安全だからって。」
「そうか、分かった。じゃあ、そのこととお前の事、ちゃんと長に伝えておく。じゃないと行方不明になったんじゃないかと大騒ぎしそうだしな。あ、伝言はちゃんとあの三人に伝えておくからな。」
「はい。ありがとうございます。・・・そういえば、なんでおじさんは外に出てきたんですか?」
「ああ、それはな、なんとなく感じたんだよ。お前がもう村の外に出て行くんじゃないかって。お前のご飯食べた後の三人と別れた時のあの反応でだ。」
「・・・。見ていたんですか、あれ。」
「ああ、偶然な。それに今、服を着ていないのはおばちゃんに着せてもらった服を借りたままにしていられないと思っての行動だろ?」
「ええ。・・・おばちゃんにもありがとうって言っておいてください。服の事。」
「ああ。分かった。・・・気を付けろよ。」
「ええ。・・・もう、行きますね」
そう言って自分は村を出た。おじさんは自分が見えなくなるまでずっと入り口にいた。まるで自分の子供が旅立ちをするときのように。