第二十五話 船の中の狐と勇者と剣士
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・・・・・・・・・・・・・・・?
自分は誰かに体をゆすられて目を覚ました。小さめな声で何か言っていたが、寝ぼけていて全く耳に入ってこない。ついでに周りの景色も全く頭に入ってこない。明らかに眠りについたところとは全然違うのに。
ましてや、起こした人さえ誰だか分かってない。自分を起こしてすぐに部屋を出て行ったし。
しかし、自分はそんなことを気にすることもなく、自分が寝ていた場所の近くに置いてあったバッグを持って、部屋を出た。寝ぼけているので、足が軽くふらついて壁にバッグや自分の体が時々ぶつかっていた。
そんな足がおぼつかない感じで、明かりのついた部屋のドアの前まで来た。扉の先からは、色々な声が聞こえる。ついでに気配もいっぱいある。
自分はドアを開けて中に入った。すると、自分の目に入って来たのは、大勢の人々が踊っている姿だった。
・・・ダンスパーティだ。
自分はここで完全に目が覚めた。眩しい明り、大音量の音楽、そして大勢の人々の足音。それは自分の耳にとってすごいうるさく感じていた。起きた直後であったから余計に。
とりあえず、外に出よう。アリスさん探さないと。ここは後回しにしておく。
自分は、ダンスホールを後にして外につながる扉に行った。そこからは潮のにおいがした。
あの港に近いところにあると思って外に出ると、目の前に映った光景は船の看板。そう、今自分がいる所は船。風も波も無かったので、船がほとんど揺れていなかった。
海の景色に呆然としている自分に、一人の男が話しかけてくる。
「あ、やっと起きたんだね。」
そう言ってきた男は、イスラフィルさんと一緒にいた勇者。名前は・・・なんだっけ。覚えてない。
まあいいや、顔さえ知っていれば。
「あ、おはようございます・・・でいいのかな?明らかに夜だけど。」
「大丈夫だと思うよ?起きた時の挨拶はみんな”おはよう”だし。」
「あ、そうですか・・・じゃなくて、どういうこと?アリスさんは?」
「うーんと、とりあえずゆっくり説明するから、あっちの椅子にでも座ろうか。」
そう言って勇者はイスのある方向に歩いて行く。自分はそれについて行った。
2人とも椅子に座って、飲み物を持ってきてもらって、自分が今ここにいることの説明をしてもらった。
その説明をざっくりいえば、全く起きない自分をとりあえず町長の家まで連れて行って、そこでアリスさんとイスラフィルさんが出会って、すぐに出港する船に乗ることをアリスさんが聞いて、一緒に乗せてあげて欲しいとお願いしたということらしい。アリスさんは少し港が落ち着いてから船に乗っていくと言ってたらしい。・・・今までの食事とかのお礼、ちゃんとしておきたかったな。今度会ったときにかな、それは。
自分は少し心残りがあったが、大体の事情は把握できたから、よしとしよう。
・・・とりあえず、船にいる間、何をしよう。
「あのさ、お願いがあるんだけど・・・。」
勇者は自分に少し申し訳なさそうに話す。
「・・・・・・どうかしたの?」
「あ、いや・・・もし暇ならトレーニングにつきあってほしいんだけど・・・いいかな?」
「いいよ。やることもないし。」
自分はそのお願いを笑顔で快諾した。
「でも、危なくない?船が壊れそう・・・。」
「あ、ダンスホールの下に習練場が設備されているから、そこで・・・。」
・・・そんなのあるのか。けっこういい船・・・なのかな。さっぱり分からないな。こういうのは。
自分と勇者は飲み物を飲み干してからその習練場に向かった。
~船・習練場~
自分達は習練場に着いた途端に、驚くぐらいのうるさい声が響いていた。そのほとんどが女の声。
勇者がその原因を見に行って戻って来た。
「・・・ランスロット様だった。偶然同じ船に乗っていたみたいだよ。」
「・・・ごめん。誰?」
勇者は少し驚いた表情をしていた。
「し、知らないの?すごく有名な騎士だよ。この船の到着する町の。」
「・・・そーなんだ。」
自分はあの騎士に興味が示せない。自分の中身は男だし。あの男はイケメンだし。
・・・・・・ちくしょう、羨ましい。転生する前にこの姿があれば充実した生活ができたのに。
「・・・もしかして興味ない?」
「うん。あっち側あいてるし、そこでトレーニングしよう。」
自分たちは女の人達を横目に、習練場の奥の方に移動して、トレーニングを始めた。その内容は今までにイスラフィルさんに教えてもらった技などの復習とか色々。・・・・・・まだまだ父親には遠い実力である。
剣の軸がぶれていたり、足がこんがらがって転んだり、剣が手からすっぽ抜けたり。言ったらキリが無い。
・・・・・・とまあそんなこんなで数時間のトレーニングはしたのだが、何だろう。物足りない。
その様子を勇者が察したらしく、もう少しトレーニングを続ける素振りを見せた。
するとそこへ、さっきまで女の人達に囲まれていたイケメン騎士、ランスロットがこっちへ来た。女の人達をかき分けて。そして、勇者に話しかけた。
「・・・・・・やあ。噂には聞いているよ。イザベルさんの息子の、勇者グランド君。君のことは君の父親から、沢山聞いているよ。」
「は、はあ・・・・・・。そうなんですか。」
「うん。元気そうだね。よかったよかった。未来は君に託されているから、元気でいてもらわないと。」
「は、はい。そうですね・・・。」
・・・・・・ランスロットの一方的な話に勇者がタジタジだ。というか、そんなこと言ったら勇者へのプレッシャーがとんでもないことになるんじゃないかな。応援するのはいいことだと思うけど。言葉を選ぼうよ、少しは。
そんなことをよそに、常にランスロットの周りにいる女達はうるさい。こっち向いてとか、戦うポーズが見たい、だとか。
自分はその女たちの最前列の前に行った。女の人達は自分に気付いて睨みつける。おそらく、『邪魔』といった感じのことで。いや、口に出しているのもいるから、確定です。
「・・・あんた邪魔よ。ランスロット様が見えないのよ。ほら、どいてどいて。」
一人の女が自分にそう言ってどかそうとした。自分はそれをすり抜けて、言い返した。
「邪魔なのはそっちじゃない。勇者と話しているのに静かにしないなんて、配慮のかけらもないよね、みんな。そんなだから、大したことのない男にしか相手されないんじゃないの?お・ば・さん?」
「「「なんですってー!!!」」」
今の言葉に腹を立てて殴りかかって来る女達をランスロットが抑える。自分はその後ろに隠れた。
「ま、まあまあ。怒ったら君たちの綺麗な顔が台無しになるから。ね?ここは私が言っておくから。あ、グランド君、別の場所にでも移ろうか。」
そう言って、ランスロットは勇者と共に習練場から出る。もちろん自分もついて行った。ここにいたら間違いなくフルボッコにされそうだし。
というか、この世界の人達には煽り耐性は無さそう。気を付けておくか。
~ランスロットの部屋~
ランスロットの部屋は、自分が寝ていた部屋の二つ隣だった。あの時の人気と実力を見ると、もっと豪勢な部屋にいてもよさそうに。
そんなことを考えていると、横にいた勇者が自分が考えていたこととほぼ同じことを言った。
ランスロットは笑顔で答えた。
「今日は一人だからね。もっとたくさんの人数で乗っているならもっと大きい部屋にいるけど。あまり豪勢な部屋も落ち着かないよ、一人じゃ。」
そう言いながら自分と勇者にお茶を出してくれた。自分はそのお茶を一口で飲み切った。勇者は熱いと言いながら少しづつ飲んでいる。
そしてランスロットはベッドに座り話し出した。内容は、イザベルの過去の話とかだった。
自分はそのことにあまり興味はなかったので、話を聞くのは勇者に任せて部屋の外に出た。あの勇者なら、何時間でも聴いてられるだろう。父親に憧れているらしいし。
しかし、ランスロットさんは、外に出ようとした自分の腕を掴んだ。
「ごめん、こういう話は興味なかったんだね。なら君と先に話をしよう。」
そう言って自分を部屋の中に連れ戻す。
「聞きたいことはいくつかあるけど大丈夫?」
そう言ってランスロットはまたベッドに座った。自分も床に座った。勇者は・・・・・・気を使ったのか部屋の外で待っていてくれるっぽい。
「答えられる範囲なら」
そう言うと、ランスロットはすかさず質問をした。
「まず、君の年齢はいくつだい?」
「えっと・・・・・・まだ子供です。」
自分は少し言葉を詰まらせた。もし実年齢を言ってしまうと、人間でないことがばれそうだから。
ランスロットはその返答に何も言わず、次の質問に移った。
「君の戦闘技術は誰に教えてもらったんだい?あの時の君たちのトレーニングを見たけど、君の身体能力、魔法、戦術、どれもかなりレベルの高いものだったから。」
「独学です。」
・・・・・・しいて言うなら、身体能力は元々あった。というか神様からもらった。魔法はたまもさんからちょこっと教えてもらっただけ、そして戦術はもちろんゲームで。ゲームの技を再現できるのは便利だし楽しい。魔法やアビリティも組み合わせると、色々できる。あの時は勇者のレベル的にそんなことしたら即刻バタンキューしてただろうからしなかった。
ランスロットさんはその返答に頷いて、次の質問に移った。
「君は何所からやって来たんだい?」
「覚えてません。孤児なので。」
これでいいよね。あの建物、名前すら知らないし。
ランスロットはまた頷き、次の質問に移る。
「これで最後。何か心配事はあるのかい?」
心配事ですか。まずあなたに自分の正体がばれてないかですよ。貴方の質問は人間にしてもおかしくはないけど、目は明らかに疑っている目なんですよ。質問するとき以外は何もしゃべらないし。
それに、あの勇者が人間と魔物の共存の解決に繋げられるのか。不安で仕方が無い。
・・・そんな心の声は置いといて、返答は適当にしておこう。
「あの勇者が魔王の嫁を寝取らないかどうか心配です。」
「・・・・・・今まで何を考えていたの?ま、まあいいか。ありがとう。もう行ってもいいよ。」
ランスロットは流石に驚いた顔をした。悪ノリしすぎたか。
とりあえず自由の身になった自分は、部屋の外に出て看板に出た。
特にすることのない自分は、椅子に座ってくつろぐことにした。そして、知らないうちに眠りについた。




