第二十四話 フラグ解決<<<<<<フラグ成立
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」
・・・自分は思い切り叩かれたはず。それなのに痛みを全く感じない。
まさか、打ち所が悪くて死んでしまったのか。何か目の前が眩しいし。またミグさんのお世話になるのか。
そう考えながら自分は目を少しずつ開いた。
目が完全に開くころには、自分が生きていることが分かった。そして、叩かれたのが自分でなかったということも。
・・・目の前には後頭部に打撲痕がある店員の倒れた姿、そしてその少し奥には・・・テラーがいた。
眩しかったのはどうやら、テラーの持っている剣に光が反射してただけだったようだ。
「・・・あれ。どうしてここに?」
「話は後でする。今は逃げるぞ。」
そう言って、テラーは自分の首を軽めに鷲掴みして、外に出た。
~港町・裏路地~
テラーは人間が来ないのを確認して、自分を壁に寄り添わせた。
自分はとりあえずあの酒場に来た理由を聞いた。
「・・・で、どういうことなんですか?」
「ああ・・・まあ、簡単に言えば、イスラフィル様にお願いされたから来た。それだけだ。」
・・・・・・?何だろう、ちょっとおかしくないか?自分があんなことになったのはイスラフィルさんが店を出て5分もたたないうちに起きたことなのに、どうしてこんな早くあの酒場に来れたのだろうか。いや、来るだけならまあ・・・・・・出来そうだけど、どこで会ったのか。まさか酒場の近くにいて、偶然会ったのかもしれないのか。う~ん・・・。
「・・・? どうした。何か不満げな顔してるな。」
「あの、何所でイスラフィルさんと会ったんですか?そこが気になって・・・。」
「別に会ってはいない。テレパシーで伝えられただけだ。」
「・・・・・・はい?」
自分はテラーが言ったことに理解するのに時間がかかった。というか理解したけど出来てない感じだ。
なんというか・・・オカルト的なことが普通にできるとはちょっと信じがたいな。
「・・・・・・。その顔は信じてないって顔だな。・・・仕方ない、本当は秘密だが、お前には話しておく。・・・誰にも口外するなよ。」
そう言って、テラーは話を続ける。
「イスラフィル様は、実は純血の竜人ではない。母方は竜人、そして父方は覚だ。ああ、覚っていうのは・・・。」
「相手の心を見透かす能力を持つ妖怪の一種・・・ですよね。」
「ああ、その通りだ。なら、テレパシーが使えても何の変なところもないだろう。あれもそんな感じのものだろう。」
「・・・・・・そうですね。」
・・・いや、覚の能力とテレパシーは違うだろう。関係性はほぼ皆無だろうな。でも、覚としての能力は本物だろう。何しろ自分の正体を即座にわかったり、あの店員が自分の正体を見ていたことも分かってたし。
まあ、これ以上話をこじらせたら面倒ごとになりそうだから、ここはそっとしておこう。
「あ、そういえば海のこと・・・というか魔物達のこと・・・まだ解決してないです・・・。」
「・・・・・・いや、そこについては大丈夫だ。イスラフィル様が言ってくれるらしいから、心配は無用だ。」
「・・・すいません。なんか他人任せになっちゃって。本当は自分で言わなくちゃならないことだったはずなのに。」
「別にいい。結果が良ければ大丈夫だ。」
そう言って、テラーは自分の頭を軽く撫でた。そして、自分に何かを差し出した。どこに持っていたとかは聞かないでおく。
「何ですか、これ。」
「知らん。たまもに聞いてくれ。私はただ頼まれて持ってきただけだ。」
・・・これ、見た目は時計みたいだけど、液晶画面やボタンがついている。明らかにこの世界の物ではないな。自分がいた世界でもこんな物、ほとんど見かけない物っぽいし。
・・・というか、なぜこのタイミングに出した。もっと後でよかったのでは・・・。
自分はその時計らしきものを受け取り、バッグに入れた。筋弛緩状態は、こっそり回復魔法で治しておいた。
そして、バッグからテラーの方に視線を戻すと、テラーは大きなため息をついていた。
「はぁー・・・・。疲れた。」
「大丈夫ですか?」
「・・・心配する必要はない。お前は自分の心配をしろ。もうあんなことにならないようにな。」
「あれ、もう行っちゃうんですか。少しここで休めばいいのに。」
「そんな暇が無いんだ、忙しくてな。・・・その気持ちはありがたいが。」
「あ・・・じゃあ最後にちょっと話を・・・。」
「・・・何の話だ?」
「ラスクさんってどんな人か知っていますか?」
「!?」
『ラスク』という名前を聞いただけでテラーの顔色は明らかに変わった。そして自分に勢いよく近づき、肩に手を強めに置いてこう言った。
「お前・・・どこでどう知り合ったのかは知らないが、もし次に会ったとしたら逃げろ。見掛けても絶対に話しかけるな。いいな!」
「え?あ、はい・・・。」
テラーのあまりにも怖い形相に自分は何も言い返せなかった。
そして、テラーはこの場を去った。
・・・あの様子だと、ただものではないってことは、再認識できる。ただし、意味合いは変わってくるが。
・・・自分も町に戻ろうかな。
そう思って裏道から抜け出そうとした時、どこからかヒソヒソ声が聞こえてきた。
「・・・準備は出来ているな?」
「ああ。あのアホ町長のことだ。きっとお宝のことなんて気にしてないさ。」
「だな。あのお宝、簡単に盗み出せるからな。」
・・・何だ、ただの泥棒か。ここまで相手してると流石にちょっと疲れるな。無視してさっさと戻るか。だって、自分は正義の味方ではない。ただ魔物と人間の共生を求める魔物だし。
第一、自分自身も人間から見たら十分悪者だし、ここは聞こえないふり、聞こえないふり・・・・・。
自分は髪を軽く撫でながら裏道から出た。そして、アリスを探し回った。
~港町・酒場~
アリスがいない。港もまんべんなく探して、更に町のいたる所も探したが、見つからない。
・・・ということで、結局ここに戻ってきてしまった。
酒場の中は自分がテラーに連れ出された時から何も変わっていない。むしろ悪化しているのでは・・・。
酔いつぶれて床に寝ていたり、テーブルに突っ伏していたりと、ひどい有様だ。
というか、仕事しろよお前ら。兵士だろ。
自分はそう思いながら酒臭いこの店の奥のカウンターまで通って行った。
そこには、あの店員がいた。頭は手当てした後だった。
「あれ、どうしたの?ここは子供の来る場所ではないよ。」
・・・・・・良かった。記憶は吹っ飛んでる。でも、自分がここに一度来たことの記憶は残していてほしかったな。こんなこと言える立場じゃないのは分かってはいるが。
「あの、女の商人さん、ここに来ませんでしたか?」
自分がそう言うと、店員は休憩室に行った。・・・脈ありっぽい。
そして、1分もしないうちに戻ってきて、ついてきてと言った。
~酒場・休憩室~
休憩室に入ると、中には、アリスさんと、この酒場のおじさんとおばさんがいた。そして、一人の老人がベッドで寝ていた。
その老人のおでこには水で濡らしたタオルがあった。どうやら、日射病にでもなったのだろう。ケガをした様子はないから。
そして、アリスは自分が来た時から自分に困り顔を見せている。この酒場のおじさんとおばさんとは明らかに違っている困り顔だ。
自分はアリスにそっと近づき、こっそりと話を聞いた。
「どうしたの?そこのおじいさんに何かあったの?」
「ううん、そっちじゃなくて・・・。後で話すから。」
アリスはそう言って、自分に少し小さめの袋を一つ渡した。アリスが困っている原因はこれか。
自分はこっそりと中身を取り出してみた。
「・・・・・・・・・・・・。」
・・・中に入っていたのは、何かの卵。アリスが困った顔をするのも納得だ。
というか、自分に渡されても困る。変な生き物が生まれたら大変なことになりそうだし。幸い、まだ生まれる様子は全く無いが。
自分はアリスに、またこっそりと話しかける。
「どうしたの、これ。拾った?」
「いや・・・。そこで寝ている町長さんにもらったのよ。太陽島で高く売れるって言ってたの。」
なるほど、ということは種族がレアか、この卵自体がレアかの2択か。おそらく前者だろうけど。
・・・自分がこの卵について色々と考えていると、女の人がここの部屋に一直線に歩いてきた。
そして、おじいさんの寝ているベッドに一目散に駆け寄り、話しかける。
内容は、『大丈夫?』や、『また無理して外に出て・・・。』などといった、心配しているだけでなく少し呆れたような感じのことも言っていた。
そして、この酒場のおじさんとおばさんに事情を聴いた後、自分達にも話しかけてきた。
「・・・ごめんなさいね。うちのおじーちゃん、病気のせいで日光がダメなのにすぐ外に出て。」
「いつもそんな感じじゃないですか。気にしてないですよ。」
「アリスさん。あなたからもおじいちゃんに言ってあげてくださいよ。私が何度言ってもこうなんですから。」
「いやー、あなたが言ってもこうなら私にはとても・・・」
・・・・・・2人が仲良く話しているが、自分はその話に全く入り込むことが出来ない。
自分はとりあえず、この老人が誰なのかを聞いておきたいのだが。
そして、この女の人はこの老人の知り合いだから、この卵が何かぐらい聞いていると思うし。
自分は、話が終わるのを待つことにした。どうせ、話に割り込むのは無理っぽいし。
~1時間後~
・・・アリスたちは話をし続けている・・・。
~2時間後~
・・・アリスたちは話をし続けている・・・。
~3時間後~
・・・アリスたちは話をし続けていr・・・zzz・・・ハッ。
いかんいかん。危うく寝てしまう所だった。
というか、話が長い。いつまで話する気だ。
・・・・・・はぁ。
~5時間後~
・・・・・・zzz・・・・・・。
・・・・・・zzz・・・・・・。
「あらあら・・・。」
おばさんは寝ている自分に、静かに毛布をかけた。




