第二十三話 酒場での遭遇
自分が町に戻ると、真っ先にアリスが近づいてきた。待っててくれたらしい。
「解決した?」
「一応はね。でも兵士さん達が倒れているから、治療してあげないと・・・。あと、港に魔物が隠れているかもしれないから注意してね。」
「じゃあ、町長さんにそう伝えてくるよ。夜ご飯はもう少し待っててね。あ、今日はすごく頑張ってくれたから、好きな物を好きなだけ食べさせてあげるね!」
笑顔でそう言って、アリスは町長が避難している店に入って行った。アリスたちが兵士たちの救護をしている間、自分はとりあえずその辺をうろうろすることにした。
「・・・・・・どこも開いてないな。開いてるのは避難場所の店ぐらいか。」
自分はとりあえず、喫茶店っぽいところに入ってみた。
「いらっしゃいませー・・・。ん?」
自分が入って来ると、店の店員は気付き、こっちに来て優しく話しかけた。
「どうしたのかな?もしかして迷子かな?」
「いいえ。そうでは・・・。」
「ここは酒場でね、子供には無縁な場所だよ。それに時々、喧嘩もあるから。怪我するといけないし、ここには立ち入らない方がいいよ。」
「・・・・・・今は外の方がよっぽど危険だと思うんですが。」
「うーん・・・。なら仕方ないか。じゃあ、お姉さんと一緒にいようか。ほら、こっち来て。」
「はい。ありがとうございます。」
自分は店員に手を引かれながら、カウンターの中まで連れて行ってもらった。
そこには、かなりムキムキなおじさんと、少し太めの優しそうなおばさんがいた。
自分がカウンターの中に入ってくると、そのおじさんは少し不思議そうな顔をした。
「どうしたんだ?その子供は。迷子か?」
「違いますよ。魔物に捕まらないように避難してきたらしいですよ。ほら、港の。」
「ああ、それか。それ、もう解決したんじゃないのか?」
「いや、まだですよ。だって連絡来てませんよ。誰からも。」
「・・・・・・珍しいな。魔物相手にこんなに手こずるとは。いつもはこんなに時間かかることは無いのに。」
「ですよね。どうしたんでしょうか、兵士たちは・・・。」
店員さんが心配していると、おじさんがカウンターから出て、外に向かった。
「ちょっと外を見てくる。店、少しの間頼んだぞ!」
「えっ。危険ですよ!?」
「心配すんな!すぐ戻ってくるから!」
店員さんが引き止める間もなく、あのおじさんは外に出て行った。何も持たないで。
店員さんは大きなため息を吐いた。店内のどこにいても聞こえるような声で。
「はぁ~・・・。あの人はいっつもこう、何も考えないで・・・。素手で勝てるわけないでしょ、まったく。・・・・・・ま、弱虫でろくに魔物と戦わない兵士や勇者と比べたら、何十倍もましね。」
今の店員さんの後半の言葉は店の客全員に聞こえるように言っていて、それを聞いていた客の兵士や勇者のほとんどは、落ち込んだりいじけたりして、すっかり意気消沈ムードになっていた。
そんな感じで10分ぐらいたった頃、ある2人の客が入って来た。一人はかなり大柄な女性・・・なのかな、多分。そしてもう一人は明らかに大人ではない感じの男の子。新米剣士かな。
「あ、いらっしゃいませ!どうぞ好きな席に座ってください!」
店員さんは自分にその場で待っているように言って、カウンターから出て、今来たお客たちに注文を取りに行った。
「お客様、ご注文は?」
「お酒を頼む。かなり強めのでだ。後、こいつにはジュースでも持ってきてやってくれ。まだ大人ではないからな。」
「分かった。すぐ持ってくるから待ってな。」
店員さんはすぐにお酒をグラスに注ぎ、ジュースをコップに注いで、あの二人の客に持って行った。
そして、カウンターの中に戻ってくると、自分に話しかけてきた。
「ねえ、知ってる?あの少年みたいな剣士。あれね、勇者イザベルの子供なのよ。昨日セントラルタウンから出てここに来たの。」
「強いの?あの剣士さん。」
「う~ん・・・。お父さんのようにはいかないらしいけど、冒険に出て行くうちに強くなるだろうし、大丈夫でしょ。なんせ、最強の勇者の息子ですもの。」
「なるほどー。なら、安心だね!」
「そうだね、未来はあの剣士にかかっているんだから。頑張って強くなってもらわないと。」
店員さんはニコニコと笑っている。自分も同じくニコニコした表情をしている。
だが、自分はその表情とは裏腹に、不安しか無い。ましてや嫌な予感しかしない。
その上、あの女は誰だ。『もしかして魔物かも・・・・・・?』とかが、頭の中をよぎる。
・・・・・・一応、確かめる術はある。『パワーリーディング』というスキルで。
ただ、そんなことをすれば、すぐ横にいる店員さんに怪しまれるし、まわりの兵士たちにも怪しまれそうだし、そもそもあの女にばれてもダメ。
直接聞くのもどうなんだろうかな。無理かな。
あの女を見ながら色々と考え事をしていると店員さんが急に話しかけてきた。
その声に驚いて、自分は思わず体がビクッとはねてしまった。
「あ、ごめんね。さっきからあの女の人ばかりじろじろと見ていたから、気になって。」
「う~んとね、あの女の人、なんであの剣士さんと一緒にいるのかなって思って。」
「気になるなら聞いて来る?別に怖くなさそうだから。」
「え、でも・・・。迷惑かも・・・・・・」
「大丈夫だって。ちょっと聞いてくるよ。私も気になってたから。」
そういって、店員がカウンターから出ようとした時だった。
「・・・私の何が気になるのかしら?」
・・・・・・そう言ったのは、イザベルの息子と一緒にいた女だった。
自分と店員さんは驚いて、体を大きくはねらせた。
「し、失礼しました。・・・それで、どうかしましたか?」
「お酒、瓶ごとくれる?一々言いに来るのも面倒だし。お金ならあるから。」
「ええ、構いませんけど。・・・ただ、今さっきの1杯でここに置いてあったのは無くなったので、倉庫から持ってきますね。」
そう言って店員さんは、店の奥にある酒蔵に行った。
その間は、この女はここにいるから、ちょっと力を使うぐらいじゃ分からないだろう。お酒入っているし。
自分はそう考えて、スキルを使おうとした時だった。
「ねえ、ちょっといい?」
「えっ」
自分はいきなり話しかけられて、スキルを暴発させるところだった。・・・・・・しても大したことはおきないけどね。
自分はとりあえず不自然にならないように話をした。
「えっと・・・、何ですか?」
「何って、さっき私のことを気にしていたでしょ?どんな事なのかなって。」
「あ~、その~、え~っと・・・・・・」
「・・・・・・可愛くない狐ね、あなたも。」
「!?」
自分は正体がばれたことに驚き、パニック状態になった。そのせいで、化けの皮が剥がれて元の姿に戻ってしまった。
女は自分の状態に気付いて、自分を落ち着かせた。落ち着いた後は、自分はまた人間に化けた。
「・・・ごめんね。先に私のこと教えてあげればよかったね。」
「い、いえ・・・。こっちこそ取り乱してすいません。」
「いいのよ、こっちが悪かったから。他の客に気付かれなかっただけましよ。・・・でね、私はイスラフィルよ。魔王の妃の。」
「そ、そうだったんですか。なら、声のトーン少し小さくした方が・・・・・・。店にいる人間に聞こえますよ。」
「大丈夫よ。バレたら気絶させて記憶を無くせばいいだけだし。物理的に。」
「そ、そうですか。」
・・・物理的に記憶を消すって、漫画やゲームでもあることだけど、実際に記憶を無くすにはどうするんだか。力?それとも叩く場所?はたまた別に何かあるのか。
・・・・・・まあ、いいや。自分が聞きたいことはそこじゃないし。
「それで、大丈夫なんですか、あの勇者は・・・。」
「・・・やっぱり分かる?」
「ええ。なんか危なっかしい感じとか、頼りなさそうなところが。」
自分がそう言うと、イスラフィルは大きなため息を吐いた。
「あーあ。なんで私がこんなことしなくちゃならないんだか。こんな情けない勇者に付き添っていなくちゃならないなんてさ。・・・なんか気だるいのよね。ぬるい戦いとか見てるとさ。もっと派手にって言うか、緊迫感のある戦いが見たいのよ。」
「・・・・・・あの、イスラフィルさん。後ろ・・・。」
自分にそう言われたイスラフィルが後ろを向くと、そこにはあの勇者がいた。
「・・・ごめんね。情けない勇者で。」
「あ・・・、いたんだ。」
イスラフィルはとりあえず勇者さんに慰めの言葉を言っているが、勇者さんの顔は何も変わらず落ち込んでいる顔だった。
こんな気まずい空気の中、店員さんが戻って来た。手ぶらで。
「いやーお客さん、申し訳ないけど無いわ。商人から買わないと。」
「そ、そう。なら、会計を頼みます。」
イスラフィルは会計を済まして、勇者さんと一緒に外に出て行った。
店員さんは会計を終えると、自分のコップが空っぽになっているのを見て、ジュースを入れてくれた。
「・・・・・・ん。」
自分はコップを手に取って中を見てみると、さっきまでのジュースとは微妙に違う色をしているのが分かった。
「これ、何のジュース?さっきまでのとは少し色が違うけど・・・。」
「あ、それは・・・、さっきまでのと同じものだよ。倉庫にあったから、ポケットに入れて持ってきたんだよ。」
「・・・お腹壊したりしないといいけど・・・。」
自分はそのジュースを一気に飲んだ。その直後、自分はイスから転げ落ちるように倒れた。
「!?、き、急に体に力が・・・。」
自分が床に倒れているのを確認した店員さんが空き瓶を手にして、こっちに来た。
「ふふふ・・・。うまくいったわ。この魔物をあそこに連れて行けば、かなりの報奨金がもらえるわね。・・・依頼書に無かったのが少し残念かしら。」
自分はその店員の独り言を聞いて、この店員があの時の会話をすべて聞いていたことが分かった。そして、自分はうまく力の入らない手足で地べたを這いつくばって逃げた。
「あら、まだ動けるのね。でも、それで逃げているつもりなのかしら?」
そう言って店員は自分の首の後ろを掴んで地面に押し付けた。
「全部聞いてたのよ。あの女、大魔王の妃とか言ってたわよね。何で勇者と一緒にいるのかは知らないけど、そんな魔物と気安く話せるあなたは相当なものと見てたけど大したことないのね。それとも、油断していたのかしらね。」
「・・・そのことを・・・なぜ勇者に知らせない・・・の・・・?」
「別にあんな勇者ひとり死んだって何もならないわよ。あいつは魔物に騙されているだけ。それを知らせるよりもあなたを騙して捕まえた方がお金になるじゃない。早くお金貯めてもっと洒落た街に行きたいのよ、私は。だから・・・・・・」
店員は大きく瓶を振り上げた。
「牢に入るまで大人しくしてなさい!!」
ブン!
ゴキャン!!




