第二十二話 襲撃の理由
~港町・船着き場付近~
・・・・・・自分が治癒系の魔物を倒し続けて30分弱で、魔物の軍勢は退却した。
さっきまでいた魔物達がいなくなって、戦っていた兵士たちは喜んでいる。
ただ、それはぬか喜びだろう。
自分には分かる。相当な力を持った魔物がこっちに近づいて来るのが。
まあ、この兵士たちに期待はしないが、少し様子を見るか。
「お、おい。あれ、魔物じゃねえか?」
一人の兵士が近づいてくる魔物に気付く。その声にここにいる兵士全員が魔物の方向を向く。
そして、兵士たちの顔はみるみるうちに変わっていった。
「ま、マジかよ。あいつ・・・・・。」
「四天王の一人の・・・・・・。」
「テラーだ・・・・・・。」
・・・・・・四天王の一人か。とりあえず、能力は見ておくか。
「・・・・・・パワーリーディング。」
種族 竜人
身体能力 パワー&防御型
主属性 風
副属性 水
スキル
気配感知 Lv8
視覚強化 Lv9
魔力強化 Lv8
飛行魔法 Lv8
剣術 Lv10
水魔法 Lv8
風魔法 Lv9
光魔法 Lv8
毒耐性 Lv10
封印耐性 Lv9
呪い耐性 Lv9
魔法耐性 Lv9
貫通攻撃 Lv10
物理攻撃力上昇 Lv10
ダメージカット Lv3
・・・・・・なるほど、小細工はほぼ効かないな。正面から勝負しに行けってことだね、これ。
いや、物理でも相当きつい。貫通が無いと勝ち目無さそう。
あの兵士たちや勇者たちでは無理そうだね。さっきの魔物で苦戦していたし。
自分がテラーの能力を確認しているとき、兵士たちはフォーメーションを組んでテラーを囲んでいた。
テラーは表情一つ変えずに、剣を構えた。
「・・・・・・一人だろうと、百人だろうと、私には敵わないよ。お前達人間はな。」
テラーがそう言うと、兵士たちは一斉にかかって行った。
その時、地面から水が噴き出し、かかって行った兵士の何人かが弾き飛ばされた。
「ふん。勝負なら一人ずつ来な。全力でぶっ潰すから。」
兵士たちはテラーの言った通りに、一人ずつ勝負しに行った。
結果は全滅。当然だ。実力差がありすぎる。
そして、辺りは兵士や勇者の倒れた跡と壊れた武器や防具が転がっているだけだった。
「フン。やっぱり弱いな、ここにいる人間たちは。そして、そこの建物の陰に隠れている子供。ケガをしたくないならとっとと家に帰るんだな。・・・・・・私は逆らわないやつに手出しはしない。」
・・・・・・さすがは四天王、自分の居場所が分かっている上に子供であることまで見抜いているとは。ただし、中身は大人ということは
まあ、逃げはしない。ただ、勝てるかどうかといえば分からないけど。
自分は今のところから動かず、テラーの様子を見ていた。
もし、いきなり襲って来た時のためにイザベルの剣を利き手に持った。
さっきのテラーの様子から、そんなことはしないだろうが、一応。
自分が剣を持ちながら建物の陰で様子を見て、テラーはそこに近づく。
そして、隠れている建物のすぐ近くまでやってきた。
「・・・・・・最終警告だ。逃げないなら、お前はあの兵士たちと同じ扱いだ。容赦なく倒させてもらう。・・・・・・さあどうするんだ。逃げるか、勝負するか。」
・・・・・・ここまで来て逃げるなんてしたくない。勝負一択だ。
自分は建物の陰から出てきて、持っている剣を向けた。
「・・・・・・勝負!」
剣を構えている自分を見て、テラーも剣を構えた。その剣は、自分が持っているもう一つの剣と同じぐらいの大きさだった。
「成程。お前もそこらへんに転がっている奴らと一緒になりたいのか。」
「自分はそこの兵士たちとは違って、無能じゃないから。あと、子供をなめると痛い目にあうよ。」
「・・・・・・それは戦いで見させてもらおうか。」
そう言って、テラーは建物から少し離れた所に場所を移した。自分もテラーのいる方向を向いて、少し前に出た。
お互いに少し沈黙した状態の後、すぐに激しい戦いが始まった。
テラーの剣術は相当なもので、自分はその攻撃を防ぐので精一杯だった。
その後も、ずっとテラーの攻撃は止まらず、自分はその攻撃を防ぐだけで、ほとんど攻撃が出来なかった。
「どうした、そんなもんか?お前が言っていたこととは大分違うぞ。」
「ぐぬぬ・・・・・・。」
「まあいい。さっさと決めさせてもらうぞ!」
そう言ってテラーは、剣に魔力を込めた。剣は水と風の力を帯びていた。
今までの防御では確実に防ぎきれないだろう。
とは言ったものの、合成魔法のやり方なんて分からないし、ましてや逃げても逃げきれなさそう。
自分が対策を考えているうちに、テラーは力を溜めるのを終え、自分に思いっきり剣を振りかざした。
自分は反応が遅れて、剣で防ぐことも出来ず、テラーの剣が自分の頭に直撃した。
「ギャン!!」
・・・・・・攻撃が当たった瞬間、目の前が真っ暗になり、地面に倒れた。
ただ、意識を失うほど強い衝撃ではなかった。
自分は目を少しずつ開き、倒れた体を起こした。
すると、目の前にはすごく驚いた表情をしたテラーが手を震わせながら立っていた。
テラーが持っていた剣は根元から折れていて、もう使い物にはならなかった。
「・・・・・・そんな・・・バカな・・・。」
テラーは自分にあの一撃が全く効いていない事に相当なショックを受けていて、勝負をするどころではない状態だった。
自分はさっきの攻撃で落とした剣を拾って、バッグに入れた。おそらく、戦いは終わっただろうから。
「あのー・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
「き、聞こえてますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「えっと・・・。その剣、大事な物だったんですよね。直しましょうか?」
「・・・・・・・・・・・・」
駄目だ、返事がない。・・・困ったな。もしどこかから勇者がやってきたら、今のテラーだったら、まともに戦うことすらできない。
もうしょうがないから、路地裏に引きずり込むか。そこで気持ちを整理してもらうとしよう。
自分はテラーを持ち上げて、何とか路地裏に持って行った。その間も相変わらず反応はない。
「ふう。とりあえずこっちはいいかな。後はあの魔物達に撤退命令を出せばいいか。」
自分は路地裏から出て、港に向かおうとした時、聞き覚えのある声がした。港とは反対の方向から。
「おーい!クラッセー!」
・・・アリスだ。
「もう。いつまでたっても戻ってこないから、魔物達にやられたかと思ったよ。」
「あー・・・。ごめんね。でも、もう解決しそうだから、あとは自分にまかせてあの店で大人しくしてて。危ない目にあわせたくないし。」
「そうなの?じゃあ、あのバーで待っているから。終わったら来てね。」
「うん。分かった。」
アリスはバーに戻って行った。
・・・・・・さて、頑張るか。あとちょっとだしね。
自分は港に向かった。
~港町・貨物船着き場
自分が貨物船着き場に着いた途端に、周りから沢山の視線と気配がした。
恐らく、海の中からだろう。最初に見た魔物は大体水系の魔物だったし。
しかし、海の中から出てこないのも困る。このままじゃ、何にも出来ないし。
解決策が見つからないまま貨物船着き場をうろついていると、小さな魔物が一匹、船の陰に隠れていたのを見付けた。
その魔物は、いきなり自分に跳びかかってきて、攻撃してきた。
・・・勿論、攻撃は効かない。まだ子供だから。もしかしたらそれ以前の問題かもしれないが。
「こ、このぉー!うみをあらすやつめ!ぼくがやっつけてやるー!」
暫く、この魔物の攻撃は続いた。疲れるまで。
「うぅ・・・。に、にんげんめえ・・・。や、やっつけて・・・やるぅ・・・。」
「・・・・・・もうやめようよ。無理したら死んじゃうよ。」
「だ、だってぇ・・・。このままにんげんたちのおもいのままにさせてたら、ここにすめなくなっちゃうんだもん。・・・そんなのいやだよ。ここらへんのうみにすんでいるみんながそうおもっているよ。」
「だから、戦いが勃発したわけか。・・・ねえ。自分はここに住んではいないから分からないけど、人間たちはあなたたちにどんな迷惑をかけているの?」
「うみにごみをすてたり、へんなえきたいをうみにながしこむの。そのせいで、けがしたり、びょうきになったりするの。」
・・・人間による水質汚濁が原因か。これはひどいな。海に住んでいる魔物が怒っても無理もない。
「そう・・・。ひどいわね、自分勝手で。」
「・・・おねえさんはみかたなの?わたしたちの。」
「・・・どうだろうね。でも海を汚すのはいけない事だと思っている。だから味方というよりは同志なのかな。」
「・・・・・・じゃあ、うみをきれいにできる?」
「ううん、それはできないよ。でもこれ以上汚さない事ならできるかもしれない。」
「ほんとう?じゃあ、やくそく!こゆびだして!」
「うん。」
「ゆーびきーりげーんまんうっそついたらはーりせんぼーんのーます、ゆびきった!」
「じゃあ、がんばってくるね。」
「うん!がんばってね!」
その魔物は元気よく海へ飛び込んだ。
相手が子供だったから簡単に約束しちゃったけど、簡単に解決できないよね、これは。
・・・・・・今回ばかりは深刻な問題だ。海の汚染は水中に生きる生物だけではなく、陸上で生きる生き物にも被害が出るに違いない。
善は急げだ。早く町の人達に伝えてあげなくては。
自分は船着き場を後にして、町に戻ろうとした時、前からテラーがやってきた。折れた剣を抱えて。
自分はいつ攻撃が来てもいいように身構えていたが、テラーは何もする様子もなくこっちに来る。
そして、自分の横を通り過ぎる時、自分に一言だけ呟いた。
「・・・後は任せたぞ。」
自分はその一言を何も違和感のない応援と思いながら、町まで走って行った。
~クラッセが去った直後~
「・・・・・・テラー様・・・・・・。」
「心配はいらない。あいつが何とかしてくれるだろう。」
「あの人間の言うことが信用できるのですか?・・・あんな人間の言うことを・・・。」
「お前は出来ないのか?話をしたというのに。」
「・・・・・・建前としか思えません。あの人間は私を言いくるめただけです。」
「そうか・・・。それならそれでいい。印象なんてみんな違うからな。」
「・・・テラー様。あの人間は何者なんでしょうか・・・。今まで見たことのないタイプですが・・・。」
「私にも分からない。それに、魔物でもあんなタイプはあまり見ない。人間と魔物の両方を心配するやつはな。」
(・・・・・・本当に何者だ?あの妖狐。かなり強い魔物でさえも見抜くことが出来ないぐらいの化け力を持っているとは。そして、たまもですら把握しきれていなかった妖狐。それに、剣術は全然だが、それを補うだけのパワーとスピード、そしてあの攻撃をもろともしない防御・・・。謎だらけだ。)